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舌はないけど

(14)「退職の日」悔しいけれど 治療専念

 脳神経へ転移したがんをやっつけることができたのですが、その治療で入院している間に、新たに頸椎(けいつい)の神経への転移が判明しました。三度目となる放射線治療を受ける一方で、医師から抗がん剤治療を勧められました。今年三月、ちょうどこの連載が始まる直前のころです。すぐに返事ができませんでした。転移しやすいがんなので、放射線で局所をたたくだけでは克服できず、いずれ抗がん剤治療が選択肢に入ることは分かっていました。ただ、仕事との両立を考えると、難しい課題がいろいろありました。

 職場が岐阜県高山市のホテル。治療機関が名古屋市の愛知県がんセンター中央病院なので、抗がん剤治療を受けるとなると、まとまった休みをたびたび取らなくてはならない。副作用で働けない期間もありそう。シフト制の職場なので、多大な迷惑をかけてしまいます。上司に相談すれば、きっと治療が終わるまで待ってくださるだろうし、大好きな仕事なので続けたい。でも、中途半端な形にしたくはない。一緒に入院していた先輩の患者さんに話を聞いてもらううち、悲しさ、悔しさが込み上げてきて、ポロポロと涙が出てきました。それでも、いま一番大事にしなければならないのは、自分の体を守ることだと思い、抗がん剤治療に専念するため退職することを決意しました。ちょうど桜の時季。病院の庭を散歩して、満開の桜を眺めながら「来年の桜もきっと見るぞ」と誓いました。

「来年の桜も必ず見るぞ」と、抗がん剤治療を前に誓った=3月、愛知県がんセンター中央病院で

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 退院し、支配人に病状と治療について伝えました。支配人は何も言わずに私の決意を聞いてくださいました。「大好きな仕事で、私ができる精いっぱいの仕事をしてきたので、悔いはありません」と話す私に「そうだな。他にやりたいこともあるんだろう」とねぎらってくれました。いつも私のブログを読んで、患者会などの活動に飛び回る様子をご存じだったのです。社長や同僚にもあいさつし「治療が終わったら戻っておいで」と言ってもらえたことがうれしかったです。

 発症してからは、社会復帰を目標に治療やリハビリに頑張ってきたけれど、今は再び働けるようになることが新たな目標。ずっと支え続けてくれる職場に、感謝の思いでいっぱいです。

 収入がなくなるので、アパートを引き払って実家に戻り、五月から抗がん剤治療が始まりました。六クールのうち、現在五クールを終えたところです。その詳しい報告は次回以降に。

 荒井里奈 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

 

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