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舌はないけど

(12)脳神経への転移 おしゃれ眼帯で前向きに

 目の異常を感じたのは、今年のお正月明けのころでした。

 物が二重に見えて、ふらつき、真っすぐに歩くのも困難なほど。右目に眼帯をすると大丈夫なのですが、距離感がつかめず車のドアノブに手をかけようとして空振りしてしまうこともしばしば。

 地元の総合病院の眼科で診てもらうと、右目を動かす外転神経がまひしており、脳か神経系の異常が考えられるとのこと。この時点で、脳神経への転移が起きたことを覚悟しました。腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)は、神経への浸潤が起こりやすいし、元のがんも舌下腺で舌の神経を巻き込んでまひを起こしていたからです。

 地元病院でのCT、MRIを経て愛知県がんセンター中央病院でも精密検査を重ね、やはりACCの転移だったことが分かりました。肺に続いて二カ所目の転移の確定でした。

 主治医が驚いたのは転移した場所。脳の下垂体の近くにある「海綿静脈洞」で、人体で唯一、静脈の中に動脈が走る場所だそうで、こんな所に転移するのは、きわめて珍しいとか。腫瘍と視神経の距離は二ミリしかなく、外科手術は不可能。放射線治療しかないが、放射線を当てすぎると両目を失明する恐れがある。脳幹にも近いので、そこにダメージが及ぶと、よくて半身不随。悪ければこの世とおさらば。とても難しい治療になるそうで「脳幹と左目の機能は守るが、右目の失明は避けられない」と言われました。

星や花のシールを貼って、眼帯で日替わりのおしゃれ=2月、名古屋市内で

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 でも、そのときは既に眼帯の生活だったので「今とそんなに変わらないよね」と、あまり問題に思いませんでした。舌を切除したことのほうがよっぽど大変だったし、それを乗り越えてきた体験があったから、新しい障害も受け入れやすかった気がします。説明を聞いて納得できたので、放射線治療を受けることにしました。

 そのころ、私が毎日心がけていたのは「眼帯のおしゃれ」でした。白い眼帯を着けていると、どうしても痛々しい印象を与えて、周囲も「どうしたの」とびっくりしてしまう。でも、花や星などのシールで飾ると「かわいい!」から話が始まり、治療のことも前向きに説明できる。だからいろんなシールを組み合わせて、日替わりで楽しんでいました。仕事をして、休日は友達とお買い物に行ったりして、日々を過ごす中、放射線治療の日が近づいてきました。

    ◇

 荒井 里奈 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

 

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