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舌はないけど

(11)多発転移 私が仲間の希望になる

 「先月撮ったCTの結果なんだけど…。あんまり良くないことがあって…」と、愛知県がんセンター中央病院(名古屋市千種区)の主治医が切り出しました。診察室に一緒にいた母は立ち上がり、廊下で待つ父と妹を呼びに行きました。

 肺への多発転移が見つかったという告知。肺のモニター画像には、小さな白い影が、左側に四、五個、右側にも数個ありました。最大で四・二ミリだそうです。職場復帰から七カ月が過ぎた二〇一七年一月のことでした。

 主治医が丁寧に説明してくれました。腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)が肺に転移した場合、現状では効果的な抗がん剤はなく、副作用に見合う効果は期待できない。放射線や陽子線も選択できない。比較的進行の遅いがんだが、個人差がある…など。

 両親はショックで言葉が出ないようでしたが、私は冷静に受け止めることができました。その一週間前に東京で患者会「TEAM(チーム) ACC」の集まりがあり、先輩患者さんたちから聞いた話や、自分で調べた内容と一致したからです。

 肺転移を想定して、考えていたことを主治医に伝えました。

お薬手帳もオリジナル。患者会「TEAMACC」は心の支えになっている

写真

 「今は自覚症状もなく、普通に生活できているので、このまま仕事を続けたい。抗がん剤治療は考えていないが、もし治験などに参加できる機会があるなら、ぜひ試したい」

 主治医は「よく勉強されてるね」とほめてくれました。私の希望する治療と先生の考える治療が一致していて「よし、行ける」と戦闘モードのスイッチが入りました。

 病院からの帰り、家族と焼き肉を食べながら「ACCは、まだ研究も進んでいないから治療法もないけど、余命とかそんなことは誰もわかんないんだよ」と、患者会で聞いた話を家族に伝えました。

 医療の世界では「エビデンス(根拠)がない」という理由で治療の有効性を否定することが多いけれど、今までまとまったデータがないのだから、エビデンスを作っていくのは、私たち患者自身。こんなふうに考えられるようになったのも、元気に生きる仲間たちと知り合い、体験に基づく知識を得られたからです。力をいただいた私自身も、誰かに力を与えられる存在になれればと思います。

 その後、抗がん剤治療を選ぶことになったのですが、その話はまたあらためて。

  ◇

荒井 里奈 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

 

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