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舌はないけど

(7)発音訓練 マウスピース 効果絶大

 舌を切除して七カ月の入院中、最も接した相手は、言語聴覚士の高津淳さんでした。手術直後、顔の筋肉をほぐしたり、歯を指で押さえたりするリハビリから始まり、平日はほぼ毎日、嚥下(えんげ)や発音、腕の可動域を広げるストレッチなどを病室で指導していただきました。

 一番厳しかったのが、発音。私は舌を使えないので、代替の発音法を教えてもらい、毎日繰り返し練習しました。たとえば「たちつてと」は、舌の代わりに下唇をかんで発音するのですが、この動作を自然にできるように、体に覚え込ませる必要があります。タ行の入った単語をいくつも読み、うまくできないと「もう一回」と高津さん。終了時間になって「ありがとうございました」と声をかけると、「と」や「た」の気を抜いた発音を聞き逃さず「もう一回」。なかなかのスパルタでした。

 さらに難しかったのが「カ行」。口の中のスペースを狭めて発音するのですが、舌のない私は口の中が広いため、のどをすぼめることで代用しました。とても力がいるし、会話の中でスムーズに発音することはできませんでした。

まだ口を大きく開けられなかったころ、初めて作ったマウスピースは、今よりずっと小さかった=2016年2月、愛知県がんセンター中央病院で

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 手術から五カ月がすぎた二〇一六年二月、愛知学院大歯学部付属病院でマウスピースを作っていただきました。当時は、手術の影響で口をうまく開けることができず、小さなサイズでした。

 それでもマウスピースを着けると、口の中のスペースが狭くなり、すべての発音がクリアになりました。訓練を続けるうち、力を入れなくても発音でき、長く話せるようになりました。

 マウスピースにもいろいろなタイプがあり、私は上あごにはめて、発音と嚥下の両方を補助するもの。今も生活に欠かせません。

 こうして同年四月に退院の日を迎えました。

 腕の訓練は、途中から筋力トレーニングを取り入れたことで急速に成果が出ました。ただ、シリンジを使って流動食をのどの奥に送り込む嚥下の訓練は、放射線治療の副作用で難航。口から食べられないまま、胃ろうを頼りに社会復帰を目指すことになりました。

 入院中、私が疲れて寝ていると、リハビリの時間をずらしてくれたり、心に余裕のない時は「今日はなんか機嫌悪いですか?」とさりげなく気遣ってくれたり、スパルタだけどやさしい高津さんに、感謝の思いでいっぱいです。

  ◇

 荒井 里奈 1974年生まれ。岐阜県在住。2015年に腺様嚢胞(のうほう)がん(ACC)で舌を切除。闘病とリハビリを続けている。

 

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