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医療

伝えたい 失語症と向き合って (下)「会話の支援者」

生きるための尊厳守る

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 意思が通じ合ったときの、失語症の人の笑顔が忘れられない。

 三重県四日市市で、失語症の人の会話支援ボランティアをしている介護ヘルパーの村上嘉寿子(かずこ)さん(67)=同県菰野町=は毎月、同市の社会福祉協議会が開く失語症の人との交流会を楽しみにしている。

ジェスチャーを交え、失語症の男性(左)と会話する村上嘉寿子さん=三重県四日市市で

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 失語症の人が答えやすいよう、「はい」「いいえ」で答えられるように質問したり、絵やジェスチャーを活用して言葉を理解しやすくしたり。十人十色の症状に合わせ、さまざまな知識と技術で思いを探る。

「意思が通じた」 喜び分け合い

 十二月初めに同市内であった交流会で担当した男性(70)は長い文章を聞いて理解したり、書いたりするのが苦手。村上さんは見える位置に置いた紙に「今日の調子は○×」などと書きながら、男性が昔勤務していた百貨店の話に花を咲かせた。

 「失語症の人が伝えようとしていることを引き出せたときの喜びは大きい」

 ボランティアを始めたのは七年前。ヘルパーの仕事で訪問する家庭や施設の利用者に度々、失語症の高齢者がいた。「ティッシュを取って」と言われても実際はコップが欲しかったり、デイサービスなどで意思疎通が十分できないために一人で寂しそうにしていたりする失語症の人を見て、対応法を知りたいと、当事者らでつくる「よっかいち失語症友の会」の「会話パートナー」養成講座に参加した。

 同市は二〇一三年度に講座を引き継ぎ、ボランティアを派遣。友の会を含め、これまでに養成したパートナーは五十二人で、昨年度は延べ五百人近くを公共施設での交流会などに派遣した。

 同市障害福祉課の田中敦課長は「聴覚障害者に手話があるように、失語症の人が社会参加するために意思疎通の支援が必要」と話す。

 千葉県我孫子市も〇五年度から養成事業を始め、〇七年度から派遣を開始。交流会のほか、半身まひなどで移動が難しい人の自宅を訪問して話し相手になったり、個別に銀行や病院、映画館、旅行などに同行したりもして、サポートしている。

 ただ、失語症の人を支援している自治体はまだまだ少ない。多くは当事者や家族、有志の言語聴覚士(ST)らでつくる各地の友の会などが地域のボランティアで取り組んでいる。

 その一つで、会話パートナーでつくる愛知県のNPO法人「あなたの声」は県内各地で養成講座や、交流するサロンを開催。名古屋市総合リハビリテーションセンターや、デイサービスなどでのSTによるリハビリの補佐役にも派遣している。あなたの声の会話パートナーで、STでもある園田多恵美さん(67)=名古屋市=は「失語症の人が家族やST以外の人と話すことは大切なリハビリの機会にもなり、存在は大きい」と話す。

 二〇〇三年に五十四歳だった夫が脳梗塞で失語症になり、現在、日本失語症協議会(東京)副理事長を務める園田尚美さん(70)は行政支援の改善に奔走する。国が意思疎通支援者の人材育成を都道府県などの必須事業にしたことを「大きな一歩」と期待する。

 中でも、外出時に同行する生活支援の必要性を指摘。現在は家族がほぼ付き添わなければ、公共交通機関を使うことも難しい人も少なくないという。「言葉は人が生きるための尊厳。失語症の人の生活を守る通訳者が必要なんです」(山本真嗣)

    ◇

 意思疎通支援者の養成 厚生労働省が本年度から、失語症の人のコミュニケーションを補助する人材の育成を都道府県と政令市、中核市の必須事業とした。各自治体は地元の言語聴覚士会に委託し、失語症の基礎知識と会話技術などを学ぶ研修を実施している。来年度以降、市町村などが患者の依頼に基づいて支援者を派遣する仕組みが想定されている。

 

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