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医療

風邪には効かない抗菌薬 使いすぎで薬剤耐性菌広がる

医師や患者への啓発課題

 肺炎など細菌による感染症の治療に欠かせない抗菌薬(抗生物質)。ウイルスが原因の風邪には効果がないが「念のため」と処方されたり、「早く治したい」と処方を希望したりしたことはないだろうか。抗菌薬の使いすぎは抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の広がりにつながり、今や国際的にも大きな問題となっている。しかし、危機感は地域医療の現場まで広まっておらず、クリニックの医師や市民への啓発が課題となっている。(小中寿美)

図を示しながら抗菌薬が不要な理由を説明する中山久仁子院長=愛知県蒲郡市のマイファミリークリニック蒲郡で

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 乳幼児から高齢者までが訪れる愛知県蒲郡市のマイファミリークリニック蒲郡。三歳の女児は下痢の症状で受診した。中山久仁子院長(48)は女児の症状を見て重症ではないと判断。母親に「おなかの風邪だと思います。風邪はウイルスが原因で、抗菌薬は効かないので要りません」と話した上で、整腸剤を出すこと、家では水分をこまめに取ること、水分が取れない時や熱が続く時は再受診することを説明した。

 感染症専門医でもある中山さんは、診断の際に抗菌薬が必要か不要かを説明している。開業した七年前は必要ないと伝えても求めてくる患者が大勢いた。最近は求められなくなったが、転院してきた患者からは今も抗菌薬を求められることがある。過去の処方はお薬手帳で一目瞭然。「風邪で処方したり、子どもに最初から強い抗菌薬を使ったり。間違った使用例は今も多い」と訴える。

 風邪に抗菌薬が効かないことは数多くの研究で明らかになっている。それでも処方する医師がいるのは、肺炎などの合併症予防を期待してのこととみられる。しかし、ここ十数年の研究では、予防効果もほとんどないことが分かってきた。

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 全国の医療機関のレセプト(診療報酬明細書)データを用いた研究によると、上気道感染症(風邪)と診断された患者の六割に抗菌薬が処方されていた。このため、厚生労働省は昨年六月、抗菌薬などについての適正使用の手引を発行。鼻、のど、せきの三症状が出る感冒は「抗菌薬投与を行わないことを推奨する」とした。

 しかし、国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター(東京)が二月、全国のクリニック医師に行ったアンケートでは、感冒と診断した患者や家族が処方を希望した時の対応では一割が「希望通り処方」、五割が「説明しても納得しなければ処方」と答えた。

 調査を担当した具(ぐ)芳明医師(46)は「クリニックの医師の知識不足や、患者への説明に苦慮して断り切れないことなどが理由では」と推測する。手引には、患者との関係を保てるような説明のヒントも示されている。具さんは「手引の内容をどう現場に行き渡らせ、実際の診療につなげるかが課題」と話す。

 これまで耐性菌の対策は、院内感染を防ぐために総合病院で取られてきたが、入院歴のない患者が耐性菌による膀胱(ぼうこう)炎になるなど病院外での感染も疑われるようになり、クリニックの医師にも処方の見直しが求められるようになった。

 患者の側も意識を変えていかねばならない。同センターが市民約七百人に行った最近の意識調査では、半数は抗菌薬が風邪に効くと誤って認識していた。

 必要もないのに抗菌薬を服用すると、人間に必要な腸内細菌などの善玉菌も死滅させ、下痢などの副作用が出る可能性があるほか、いたずらに耐性菌の増加を促してしまう。中山さんは「患者さんの3カ条」=図=をつくり、風邪と診断された場合は、抗菌薬を求めないことなどを呼び掛けている。

    ◇

 薬剤耐性(AMR) 抗菌薬の不適切な使用などにより病原体が変化し、特定の抗菌薬が効きにくくなったり効かなくなったりすること。耐性菌による死者数は世界で年間70万人と推定され、2050年には1000万人になるとの予測も。抗菌薬が使えず感染予防ができなければ、臓器移植や血液透析など、さまざまな治療が困難になる可能性もある。日本政府は20年の抗菌薬の使用量を13年の3分の2まで減らすことを目標にしている。

 

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