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医療

性同一性障害 保険適用の恩恵わずか

ホルモン療法が先「混合診療」

医師ら 現実踏まえた対応訴え

 心と体の性が一致しない性同一性障害(GID)の治療として行われる性別適合手術が公的医療保険の対象となり、半年が過ぎた。大きな前進とみられたが、自由診療のホルモン療法を先に受けていると「混合診療」とみなされ、手術でも保険は適用されない。恩恵を受けられる人はごく一部に限られ、現場の医師らからはホルモン療法の保険適用を求める声が上がっている。(小中寿美)

 四月初旬、保険の対象となる初の手術が岡山大病院(岡山市)で行われた。手術を受けたのは近畿地方に住む二十代。女性の体に強い違和感があり、乳房を切除した。性別適合手術の一環として保険適用され、自己負担は三割となり、約六十万円の費用は約二十万円に。子宮摘出など戸籍変更に向けた手術はこれからだが、胸を押さえる服を着る必要はなくなった。

 まず手術を行ったこのケースはいわば例外で、性同一性障害と診断された人が身体的な治療へと進む場合は、ホルモン療法から始めるのが一般的。体の性とは反対の性ホルモン製剤を使い、望む性へと体を近づけていく。性別適合手術の前に行われるのは「二つの重要な理由がある」と同病院ジェンダーセンター長の難波祐三郎教授(57)=形成外科=は説明する。

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 国内のガイドラインでは望む性での生活を送れていることが手術の条件になっている。手術を受ければ後戻りはできないためだ。体が変化すれば望む性での生活も送りやすくなることから、ホルモン療法から治療を始める患者は多い。

 もう一つは治療上の理由だ。性別適合手術で卵巣や精巣を摘出すると、性ホルモンの分泌が止まり、更年期障害のような症状を起こす恐れがある。術後もホルモン剤を投与して補うが、副作用のリスクがあり、人によっては投与できないため、術前の投与で体に合うかどうか確かめるのが基本という。

 こうした理由から、性別適合手術を希望する人の大半が既にホルモン療法を始めているとみられる。ただ乳房切除術は、性ホルモン分泌に関係しないため術前の確認が必要ない。外見に関わることから早く受けたいと考える人も多く、難波さんらは「患者の利益を最優先に」と、保険適用で受ける選択肢を示し、これまで九人に行った。

 性別適合手術が保険適用となった背景には、性同一性障害特例法が定める戸籍の性別変更の条件に手術が含まれていることがある。費用は百万円以上かかるとされ、比較的安い海外で手術を受けて合併症を起こすことなどが問題化していた。国は昨年秋に保険適用の方針を決めたが、今年三月、自由診療のホルモン療法を先に受けている場合は「混合診療」とみなし適用対象外との考え方を示した。

 体の性とは反対のホルモン剤投与は治験が一切、行われていないため保険適用外となっている。ただ実際には自由診療で長年、利用され、効果を示すデータはそろっているとして、保険適用を望む声は強い。

 「手術だけ保険適用という状況は、ガイドラインが示す段階的な治療と矛盾する」。保険適用で手術が行えるGID学会認定の六施設のうち、中部で唯一の名古屋大病院、松尾かずな助教(47)=泌尿器科=はホルモン療法の保険適用を訴える。当事者団体によれば、ホルモン療法だけで自らの性への違和感と折り合いを付けられ、手術を求めない人も少なくないという。

 GID学会理事長の中塚幹也・岡山大教授(57)=産婦人科=も「ホルモン療法もセットであるべきで、引き続き訴えていく」と強調。海外での状況などを踏まえ、臨床試験を省略して保険が適用できる「公知申請」制度の利用を検討しており、海外での実績や研究論文などの情報の集約を急いでいる。

 

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