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医療

「生きるための緩和ケア」を 愛知県がんセンター中央病院提唱

早期から苦痛軽減 生活の質高める

 「緩和ケア」と聞くと、治療手段がなくなった後の痛みの管理やホスピスケアを想像する人も多いが、それだけではない。診断されるときから、患者や家族のさまざまな苦痛を軽減し「その人らしい生活」を保つため取り組むことこそが本来の意味で、患者の安心が治療にプラスになることも多い。「生きるための緩和ケア」を提唱する愛知県がんセンター中央病院(名古屋市千種区)の実践を紹介する。(編集委員・安藤明夫)

 中央病院の緩和ケアセンターの一室。気管支のがんなどで闘病する東海地方の由紀さん(43)が、緩和ケア部長の下山理史(さとふみ)さん(47)に携帯電話の画像を見せていた。

由紀さん(左)や夫に療養生活のアドバイスをする下山さん(中央)。一家の信頼は厚い=名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で

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 写っていたのは、小学校六年の長女が、がんについてまとめた夏休みの自由研究。由紀さんの病気をきっかけに「がんの正しい知識を周りの子たちに伝えたい」と、図書館に通って調べたという。絵と文で三十ページに及ぶ大作だ。「娘にきちんと伝えられて、本当によかった」と喜ぶ。

 由紀さんは三年前にがんを発症。国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市中区)に二度入院した。長女には「咳(せき)の治療」とだけ伝えていたが、長女は不安から体調を崩した。由紀さんは「このままでいいのか」と悩み、院内のがんサロンで子どもへの対応について相談。当時同センターの外科医長・緩和ケア科医長だった下山さんと出会った。下山さんのアドバイスは「うそは禁物。話しにくいことは無理に話さなくてもいいけれど、聞きたいと言われたことに返事ができるよう考えておきましょう」。

 下山さんは昨年四月に愛知県がんセンター中央病院に転勤し、由紀さんも抗がん剤治療のために同病院へ転院。その後も下山さんと打ち合わせを重ね、昨年夏に長女に病名を伝えた。「知らなかった」と驚いた長女は、下山さんから直接話を聞いたり、子どもたちががんについて学ぶ「どあらっこ」の集いにも参加。自由研究につながった。夫や近くに住む母も、中央病院の緩和ケア部を訪ね、下山さんから家族の心構えを学んだ。「毎回、じっくり話を聞いていただいています。何でも相談できて心強い」と由紀さん。付き添う夫(45)も「緩和ケアって、治療手段がなくなった後のことだと思っていたけれど、まったくイメージが変わりました」。

     ◇

 中央病院では、下山さんら医師と緩和ケアを専門とする看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーら兼任を含め総勢十数人が緩和ケアを担う。全国のがん診療連携拠点病院の中でも屈指の充実ぶりだ。

 週五日の外来のほか、チームで入院患者を支える活動や、地域の医療機関からの相談に乗る地域連携の活動もある。

 外来には、主治医や看護師から紹介されたさまざまな患者が訪れる。手術の後遺症に苦しむ人、抗がん剤への不安が強い人、ごはんを十分に食べられない人…。由紀さんのように、家族への告知に悩む人もいる。「その人らしい人生を送れるように一緒に取り組むのが緩和ケア。家族も支援するし、さまざまなニーズに応えるために、いろんな職種が相談して考えていきます」と下山さん。だが、医療関係者の中でも「最期の段階でやること」との誤解が根強く、患者の緩和ケア科への受診が遅れる一因になっているという。

 下山さんはもともとは外科医だが、学生時代から緩和ケアに関心を持ち、患者と信頼関係を結ぶコミュニケーション技術などを磨いてきた。「何らかの症状でつらい問題があれば、それを主治医や看護師に告げてほしい。それでも改善できなければ『緩和ケア科を受診したい』と要望してほしい。つらさが和らげば、できることが増え、生活の質は高まる」と強調する。

 

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