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トランスジェンダーの医師、専門外来開設 望む性で生きる道、ともに

トランスジェンダー当事者の医師として専門外来を始め、患者と向き合う武藤ひめさん=名古屋市中区の久屋クリニックで

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 LGBT(性的少数者)のうち、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの医師が、当事者らにカウンセリングやホルモン療法を行う専門外来を名古屋市内で始めた。治療を必要とするケースは性同一性障害(GID)の病名で知られ、性別適合手術が保険適用になるなど、望む性で生きる道は開かれつつある。一方で、需要の高いホルモン療法は自由診療のままで、安易に処方されるケースもあるようだ。専門外来の日常を追う中で、そうした現状が浮かび上がってきた。(小中寿美)

幼少期の記憶探る

 昼夜を問わず車が行き交う名古屋・栄の交差点。角に立つ商業ビルの一階に、トランスジェンダーの武藤ひめさん(41)が院長を務める久屋クリニックがある。もともとは小児科医だったが、当事者として経験を生かして、それぞれの悩みを聞いて解決策を探ろうと、昨年秋からトランスジェンダー当事者を対象にした専門外来を行う。

 トランスジェンダーは心と体の性に不一致があり、原因は解明されていない。程度はさまざまだが、体の性に不快感や嫌悪感を持ち、心の性に合わせて生きることを望む場合、治療によって体を心の性に近づけることで、社会の中で生活しやすくなる。

違和感くみ取る

 クリニックを訪れるのは週に十数人。武藤さんと同様、男性であることに違和感を感じ、女性として生きることを望む患者が多い。愛知県内に住むAさん(三十代)もその一人。恋愛の対象が女性というやや珍しいケースで、複数の精神科にかかったが、それを理由に治療の対象とならなかった。「心が女性なら好きになるのは男性のはず。自分は何者なのか」と思い悩んだ。

 インターネットでクリニックを知り、六月に来院。幼少期の記憶を詳しく尋ねられた。「自分の性器はいつかなくなるものだと思っていた」とAさん。男の子が苦手で女の子とままごとをするのが好き。母親に「どうして男の子と遊ばないの」と言われても、なぜそう言われるのか不思議だった。

 髪は今に至るまでロング。思春期には、しぐさや雰囲気が「女みたい」と男子にいじめられた。スカートをはきたかったが周囲との衝突を避けるために、ファッションとしてズボンの上にはく程度にとどめた。診察を受けた日はモノトーンのシンプルな服装だった。

 カウンセリングは設定の三十分を超えた。武藤さんは「好きになる対象は男性という人が多いが、女性ということもあり得る」と話した上で、Aさんにトランスジェンダーだと告げた。

服装も手掛かり

 決め手となったのは幼少期からの違和感だ。幼稚園などではよく男女のグループに分けられるが、周囲の子どもたちと行動にずれが生じるのはトランスジェンダーに見られる傾向だという。「自分は女性だと大人になってから気付く場合もあるが、振り返ってみると幼少期にそういう行動パターンを取っていることが多い」と武藤さん。男女いずれでも着こなせる服装を自然に選んでいたことも、単なる女装趣味ではないことを知る手掛かりになった。

 その後、Aさんはホルモン療法を受け始めた。体に変化が出るのはこれからだが「かなりスッキリした」と話す。食欲がなくやせていたが、ホルモン療法を続けられるだけの体力を付けるため、食事量を増やした。帽子を目深にかぶり、人目を避けるように外出していたが、今は帽子のつばを上げて来院している。

    ◇

◆安易な処方、保険適用外… ホルモン療法、課題も

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 トランスジェンダーの中でも、治療の必要がある性同一性障害について、日本精神神経学会は一九九七年、初めて診断と治療のガイドライン=図は最新版=を作成した。翌年、国内では初の性別適合手術が行われ、ホルモン治療を含めガイドラインが示した治療法は次第に医療現場に浸透していった。

 身体的な治療の第一選択肢となるのがホルモン療法だ。体の性とは反対のホルモン製剤を使い、望む性に近づけていく。しかし、「治療は慎重を期すべきだ」と武藤さんは話す。精子をつくる能力を失うなど、元の生活に戻れなくなる可能性があるためだ。強い吐き気など日常生活に支障が出るほどの副作用や血栓症などのリスクもある。「家族との関係を断ち切ってでも女性になりたいのか。強い思いがなければ処方はできない」。しかし、「患者の求めるまま、安易に処方されるケースが多いのでは」と武藤さんは感じている。

 昨年末から武藤さんのクリニックを受診しているBさん(四十代)は以前、愛知県内の精神科で定期的にホルモン注射を受けていた。診察では何も聞かれず、カウンセリングもなかったという。効果がなく焦りを感じて転院した。その後、Bさんは体に変化が出てきたが、武藤さんは「治療をやめる人もいる」と告げ、続行の意思が固いかどうかを確かめた。

 驚いていることがもう一つある。「心の性が本当に女性か疑問を持たざるを得ない患者が多い」ことだ。七月、新患のCさん(五十代)は違和感を自覚した経緯をまったく話せず、身だしなみにも無関心。にもかかわらず、ホルモンを投与されていた。体重が多く血栓症のリスクも高いと感じ、「今なら引き返せる。薬をやめるなら協力する」と促したが、Cさんは以後訪れていない。

 治療は性別適合手術のイメージが先行しているが、「手術まで望まず、ホルモン療法だけを望む人は多い」と武藤さん。しかし、手術は今年四月、保険適用されたが、ホルモン療法は自由診療のままだ。「自由診療だと行政などのチェックが入らず、問題が生じても見過ごされる。安全性のため、早く保険適用にしてほしい」と訴える。

 

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