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医療

多剤投与の連鎖断つ 長寿研医師ら 職種超え取り組む

減薬で副作用を改善

 薬剤師、医師、看護師ら多職種が集まるチームが協議して、処方薬の適正化を図る取り組みが、愛知県大府市の国立長寿医療研究センターで進んでいる。複数の慢性疾患を抱えやすい高齢者が、長年の多剤投与によって健康を損ねたりする現状を改善するとともに、患者自身の治療への意識を高めていくことが目的だ。(編集委員・安藤明夫)

 七月上旬の火曜日の朝。同センターの会議室で「高齢者薬物療法適正化チーム」の定例カンファレンスが始まった。

 参加したのは、老年内科、循環器内科などの医師と看護師、薬剤師、言語聴覚士ら十数人。検討課題は、整形外科に入院した八十代の女性患者で、通っている病院から十数種類もの薬を処方されていた。

医師、薬剤師らが入院患者の処方を検討するカンファレンス=愛知県大府市の国立長寿医療研究センターで

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 薬剤師の溝神文博さん(33)は前日、女性からじっくり話を聞き、カルテでは不明だった部分も含めて資料にまとめていた。利尿作用のある心臓系の薬と、それによる頻尿を抑える薬が出ている▽認知機能の低下がみられ、薬の副作用が疑われる▽精神科系の薬も数種類出ており、過剰に思える−などの疑問点があった。

 「いくつも病院を変わるうちに、当初の処方理由を本人も覚えていない薬もいくつかありました。精神科系の薬は、家庭内の悩みがもともとの原因でした」

 始業前の十五分のカンファレンスで、医師らはてきぱきと意見を述べていく。

 「数値をみる限り、心臓系の薬はいったんやめて様子をみてもいいのでは」

 「認知機能については、老年科のコンサルが必要そう。家庭内の問題は、地域包括支援センターにも連絡してソーシャルワーカーに入ってもらうほうがいい」

 「精神科系は一種類でいいよね」

 こうした意見や根拠をまとめ、主治医に参考にしてもらう。患者の入院生活を知る看護師や、栄養・嚥下(えんげ)機能を判断する管理栄養士、言語聴覚士の意見も重要だ。

 荒井秀典院長をリーダーとする同チームが週に一回のカンファレンスを始めて二年。「検討するのは週に一、二例だけど、多剤投与を改めようという院内の意識がかなり高まってきた」と溝神さん。同チームが昨年末までの一年四カ月にかかわった五十八例の中では、提案の62%を主治医が取り入れ、患者一人あたり三・一種類を減らした。

 三種類以上を減らした例では、患者の53%にみられた副作用などの有害事象が、一週間で10%未満まで低下し、二カ月後も同様だった。減薬が三種類未満の場合は、有害事象のある患者は35%から一カ月後に19%まで下がったものの、二カ月後には27%まで戻っていた。

 「こうした取り組みは、経過観察が重要です。減薬によって、患者さんの状態が悪くなる場合もあるし。常に最も有効な薬を再検討していくことが大切です」と溝神さん。

 ただ、せっかく順調に減薬できていても、退院後に地元のクリニックなどが処方を元に戻す場合もある。治療への意識が低く、必要な薬を継続的に飲まない患者もいる。

 溝神さんは「今後は、地域住民を対象にした講座や、医療関係者向けのケース検討会などを開いて、地域全体の意識を高めていきたい」と話す。

    ◇

【有害事象】

長期服用や飲み合わせ影響 対策に診療報酬加点も

 高齢者は長引く生活習慣病や老化で、薬の処方が多くなりがちだが、薬の飲み合わせなどを含めた広い意味の副作用を有害事象と呼ぶ。高齢者に多い有害事象には、ふらつき・転倒、記憶障害、せん妄、抑うつ、食欲低下、便秘、排尿障害・尿失禁などがあり、こうした症状に新たな薬で対処することで、多剤投与につながる。有害事象のリスクが高い多剤服用を「ポリファーマシー」と呼び、国は対策に力を入れている。今年の診療報酬改定では、多種類の服薬をしている患者に対して一定以上の減薬をできた医療機関や、減薬に貢献した薬局には点数が加算されることになった。

 

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