トップ > 特集・連載 > 医療 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

医療

少女の希少白血病 ▼ 名大で原因遺伝子特定  

ゲノム解析が命を救う

 名古屋大小児科の研究・医療チームが、遺伝子情報を高速で解析できる装置「次世代シーケンサー」を使って、難治性の小児がんの原因となる融合遺伝子を発見。それが治療に直結し、秋田県に住む小学生の少女の命が救われた。今月十六日、名古屋市内で開かれた名古屋小児がん基金(小島勢二理事長)の二周年イベントで、少女と名大の研究者が初めて対面。ゲノム(全遺伝情報)医療の力が聴衆に感銘を与えた。 (編集委員・安藤明夫)

 「好きなことはなーに?」。同基金のイベントで、司会のタレント・矢野きよ実さんから尋ねられ、秋田県美郷町の小学校二年高橋瞳花(ひな)ちゃん(7つ)は「勉強」と照れ笑いした。治療から二年を経て、抗がん剤で抜けた髪も元に戻ってきた。秋田市の中通総合病院小児科で主治医を務めた平山雅士さんも登壇し「瞳花ちゃんと一緒に今ここにいることが奇跡」と感無量の表情だった。

名古屋小児がん基金のイベントで、笑顔を見せる高橋瞳花ちゃん(中央)=名古屋市中村区で

写真

 発症は四歳のとき。小児白血病の一種・若年性骨髄単球性白血病(JMML)だった。抗がん剤治療を受けたが、一年後に急性化した。弟の颯(はやと)ちゃん(5つ)と白血球の型が一致し、颯ちゃんの骨髄を移植する準備を進めていたが「がんの勢いが強く、見通しは明るくなかった」と平山さんは振り返る。

 そこへ瞳花ちゃんの検体(血液)を解析した名大小児科講師の村松秀城さん(42)から「原因遺伝子を特定できました。有望な薬があります」と連絡があった。

 JMMLは、年間の発症が全国で十〜二十人の希少疾患。これまでに五種類の原因遺伝子が見つかっていたが、特定できないものが20%ほどあった。村松さんらのチームは、名大に次世代シーケンサーが配備された後の二〇一三年以降、全国の医療機関から送ってもらった百五十例の検体を研究し、原因が未特定の検体のうち二つで、異常な融合遺伝子を発見した。大人の肺がんにみられる融合遺伝子と同じもので、クリゾチニブという分子標的薬が既に開発されていたが、過去の二例の患者は既に亡くなっていた。そこに寄せられた三例目が、瞳花ちゃんの検体だった。瞳花ちゃんの検体に試験管でクリゾチニブをかけたところ消滅。治療への期待が膨らんだ。

 村松さんの説明を受けて、平山さんは、病院内の倫理委員会の承認を得て、一六年二月からクリゾチニブによる治療を開始。わずか一カ月で融合遺伝子が消滅し「理想的な条件で骨髄移植を行うことができました」。以後、再発はない。

村松秀城さん

写真

 瞳花ちゃんから「ありがとう」と感謝の言葉を贈られた村松さんは「次世代シーケンサーがなかったら、この治療にたどりつくことは不可能だった。ゲノム医療は万能ではないが、半分以上の症例で正しい診断に寄与できるうえ、時に『魔法の弾丸』と呼ぶべき治療薬につながる。もはやゲノム解析なしの医療に戻ることはできない」と力を込めた。

維持難しい小児がん研究 支える仕組み必須

 がんの遺伝子変異はさまざまで、変異の型によって有効な治療法が異なることも多い。次世代シーケンサーによって遺伝子情報を把握し、診断や治療につなげるゲノム医療は、これからのがん医療の中核になるとみられるが、国の財政が厳しい中、検査費用をどこまで保険の対象に認めるかなど課題も多い。

 小児がん拠点病院に選ばれている名大病院では、これまで日本医療研究開発機構(AMED)の研究費を得て、白血病などの患者全員に次世代シーケンサーによる検査を実施してきたが、昨年度で打ち切られた。一方で、がんゲノム医療中核拠点病院にも今年二月に選定されたが、成人のがんが主体で、多様な希少がんの集合体である小児がんの研究には不向きな面もある。名大小児科の教授を務めた小島理事長は「名古屋小児がん基金の活動を通じて、一般市民が研究を支える仕組みを作っていきたい」と意欲を燃やす。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索