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医療

がんになって見えた幸せ 患者が写真と文発信、音楽会も

前向きな日々伝える

 「朝に目覚めることが、どれほど幸せなことなのかを日々感じている」。東京都のフォトグラファー、木口マリさん(43)はスマートフォンで撮影した写真を見ながらしみじみ語った。

 二〇一三年、三十八歳のときに子宮頸(けい)がんと告知され、二度の手術と抗がん剤治療を受けた。体重が三五キロまで落ち、一時は歩くのもままならなくなり、使い慣れた一眼レフを持つこともできなくなった。

がん患者が日々感じた喜びなどを写真付きで発信する活動をしている木口マリさん=東京都千代田区で

写真

 ベッドの上で過ごす中で、この経験や目にしたものを写真に残したいと、自身のスマホで写真を撮り始めた。病室の窓から見える朝焼け、抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けた自分の姿、ベッド横の点滴の棒…。写真を見返すと、すべてが個性的で美しく見えるようになったという。

 「この光景を見ることができる幸せをかみしめた。がんは大変な病気だけれど、絶望しなくていい。がんになったからこそ見えること、感じることがある。写真と文章でこの思いを伝えたい」。治療が一段落した四年前から、入院先の病院の協力を得て他の患者にも呼び掛け、院内で作品展を定期的に開いている。

 一六年には、「がんフォト*がんストーリー」と名付け、インターネットのウェブサイトを開設。患者や家族、医療関係者らから寄せられた写真を発信している。入院中に誕生日を祝ってもらって喜ぶ男の子、友人から贈られたお守り、病院で見つけた四つ葉のクローバーなどで、写真と一緒にそのときの気持ちもつづっている。これまで十〜五十代の人から、計百点が集まった。

 今月二十八日には、初めての交流イベントを東京都内で開く。作品展示などがあり、がん患者や家族でなくても、関心のある人なら誰でも参加できる。木口さんは「隣の人ががん患者かもしれない。普通の人と同じように笑ったり、日々を生きていると知ってほしい」と来場を呼び掛ける。問い合わせは、がんフォト*がんストーリーのホームページで受け付ける。

    ◇  ◇    

 「がんになっても明るく、楽しく、幸せに!」をスローガンに、音楽コンサートなどを開く団体もある。東海地方のがん患者や経験者二十五人がメンバーの「めぐみ音(おん)」。がん患者や家族らでつくる「めぐみの会」の有志が、一六年に結成した。

 めぐみの会代表の織田英嗣さん(54)=愛知県東郷町=は、十二年前に食道がんで手術と抗がん剤治療を経験。めぐみの会を立ち上げたほか、音楽を通して仲間との絆を深めてきた。「みんなで声を合わせて、うまく歌えると達成感がある。おなかの底から声を出すので爽快な気分にもなれる」と意義を話す。

 めぐみ音は、プロの音楽家の指導で月二回の練習に励み、病院や催しで歌うほか、年一回、名古屋市内のホールで有料のコンサートを開いている。織田さんが闘病中に、知人に声をかけられたり本で読んだりして励みになった言葉を歌詞にしたオリジナル曲も。コンサートでは、メンバーそれぞれが体験を話す場も設け、病気を受け入れつつも絶望することなく前向きに日々を過ごしてきた姿を伝えている。

 織田さんは「がんという病気になり、亡くなった仲間はもちろんいる。しかし、病気だけが人生ではない。病気を受け入れつつ、その人なりに楽しく幸せに生きていくことはできる」と話した。

 日本人の二人に一人が、がんになる時代。医療の進歩で「がん」は必ずしも死を意味しなくなったが、抗がん剤の副作用や再発の不安など怖い病気というイメージが強く、絶望して悩み苦しむ患者は多い。「がんになっても楽しく生きられることを知ってほしい」。孤独と不安に包まれている患者に希望を持ってもらおうと、患者本人が日々の生活を写真付きで発信したり、音楽コンサートなどで伝えたりする活動を始めている。 (河野紀子)

 

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