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医療

ロボットが支える高齢者の日常 藤田保健衛生大 研究施設で記者が体験

ルポルタージュ’18

 夫婦だけ、あるいは一人暮らしの高齢者世帯が増えている日本。老いとは、日々の暮らしでできなくなることが増えていくプロセスだ。彼らの暮らしをどう支えるか。ロボットを用いる研究が進んでいる。その一つが、藤田保健衛生大(愛知県豊明市)が中心に開発を目指す「ロボティックスマートホーム」(RSH)。意味するところの、ロボットの助けで快適に暮らせる住まいづくりの進展やいかに。同市の豊明団地に造られた研究施設に「実験台」として乗り込んだ。(三浦耕喜)

 足元がおぼつかない父を、また母を支えたこともある。ベッドから車いす、車いすから自動車へ移乗させるのも一苦労だった。記者自身、病により歩行が不自由になりつつある。父母には間に合わなかったが、将来、自分が世話になるかもしれない。そんな思いで施設の引き戸を開ける。

 入り口から段差の全くない床にテーブルやソファ。普通のリビングと違うのは、腕が一本のロボットが、両目のカメラで記者を見つめていることくらいだ。

■転倒を防止

 君が将来、僕を助けてくれるロボット君なのかい?と問う前に、開発スタッフの同大准教授の田辺茂雄さん(40)の解説が始まった。田辺さんも広島に両親を残している。解説は「複数のロボットで、高齢者の暮らしを支えます」という趣旨だった。「では、これを試してみますか」と天井を指さす田辺さん。見ればレールが市電の軌道のように各部屋を結んでいる。

 「歩行支援ロボット」だ。起きた時を想定し、ベッドに腰掛けて腹部にベルトを巻く。ベルトを巻き上げ、立ち上がるのを助ける仕組みだ。レールに連結している機器部はさほど大きくない。体重?十キロの記者が持ち上がるか。リモコンの上昇ボタンを押すと、腰がぐっと引き上げられた。

高齢者や障害者の転倒などを防止する懸架型歩行支援ロボット

写真

 立ち上がったので、歩いてみる。ロボットが持ち上げてくれるんだと、体重をベルトにかけてみる。たちまちバランスを崩した。「体重を引き受けるのではなく、転倒するのを防ぐのが目的です」とすかさず解説が入る。基本的には歩ける人用で、すがって歩くものではないのだ。

■移乗手助け

 歩けない人はどうするのか。二つ目に試したのは「移乗支援ロボット」だ。見た目は小ぶりの電動車いす。特殊な車輪で複雑な操縦ができる。横走りも得意だ。なので、船が接岸するように、ロボットをベッドに横付けできる。

ベッドからスムーズに乗り降りができる移乗支援ロボット=いずれも愛知県豊明市の藤田保健衛生大ロボティックスマートホームで

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 あらかじめの設定で、座面はベッドの高さと同じにしてある。両者を隔てているのは肘掛けだけだ。促されてボタンを押すと、ベッド側の肘掛けがスルスルと下りていくではないか。座面とベッドが水平になった。少しずつお尻をベッドに動かせば、立てなくても一人で移れそうだ。

 父を施設から外出させた時を思い出す。ベッド、車いす、車の座席、皆高さが違う。車いすの肘掛けも固定だ。少なくとも、つかまり立ちができなければ自力での移乗は難しい。手伝おうと父の腰を引き上げると、結構腰に来たものだ。

 他にもトイレの便座の高さも入力してあるので、手さえある程度動けば、トイレも一人でできそうだ。

■会話も可能

 この他、ご主人様が暮らしやすいよう、こまごまとした用事をこなすのが、記者を迎えた「生活支援ロボット」だ。トヨタ自動車が開発に携わっているので、「トヨちゃん」という。

 「トヨちゃん、テレビつけて」と言うと、テレビがつく。ブラインドの開け閉めも頼める。だが、自分で動く用事は改良の余地ありだ。「トヨちゃん、ペンケースを持ってきて」と言うと、「はい」と元気よく返事はする。小物のかかったフックの前には来たものの、そこで悩んでしまった。しばらくして、できなかった旨を報告。三度目で持ってきてくれた。

 床に落ちたペットボトルも、数分の悩みを経て持ってきてくれた。人も悩みながら成長するのだ。ロボットもそうだろう。

 会話もちぐはぐなところもあるが、かみ合う場面も。ちょうど一報の直後だったが、「トヨちゃん、西城秀樹さんが亡くなったよ」と話し掛けると、「西城秀樹さんと言えば『傷だらけのローラ』ですよね」と答える。「ヤングマン」でないところが渋い。「じゃあ、何か歌ってよ」とリクエストすると「著作権の問題で歌えません」と拒否。その場にいた一同、爆笑した。

高齢者や障害者に代わり、ペットボトルを拾う生活支援ロボット「トヨちゃん」(右)高齢者や障害者の転倒などを防止する懸架型歩行支援ロボット

写真

 他にも、遠隔で運動指導が受けられる「遠隔コミュニケーションテレビ」、日々、尿の塩分をチェックする「健康チェックトイレ」も備えられている。田辺さんは「実際にお年寄りに使ってもらって改良を重ねている。ぜひ多くの人たちに体験してもらいたい」と話していた。

    ◇

居宅で事故 8割近く

「リフォーム」「コスト」課題に

 高齢者の家庭内事故をいかに防ぐか。RSHが居宅で実験を繰り返す理由がここにある。

 内閣府の二〇一七年の「高齢社会白書」によると、高齢者の事故の八割近くが居宅内で発生。そのうちの45%が居室で起きている。事故の状態は転落と転倒を合わせれば半数以上。高齢となると足が上がらなくなり、床に敷いたカーペットの縁でもつまずくことが少なくないためだ。

 体へのダメージも年を重ねるほど大きい。骨折して入院を余儀なくされれば、ベッドで安静にしている間に、体力を落とす。

 六十五歳以上の高齢者のみの世帯が25%になり、事故が起きた時に家族の力では対応できない場合も。居宅内の移動・過ごし方をどう支援するかに着目したRSHの研究は、その点で的を射ている。

 だが、課題は多い。今のロボットはまだ予測不可能な動きをすることもあるため、七十平方メートルの住宅で実験が行われているが、日本の住宅事情を勘案し、五十平方メートルの住宅でも利用できるようにするのが目標だ。

 また、日本家屋に導入する場合は、大規模なリフォームが必要になる。天井にレールを付けるとなれば、新たに柱を立ててレールを支え、天井も高くしなくてはならない。研究が進み、ロボットの不具合は改良されるだろうが、どう日本の住宅事情に合わせるか、同時に利用者が負担するコストをどこまで下げられるか。克服すべき問題は多い。

 

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