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心筋治療承認、臨床研究へ iPS本格利用へ一歩

iPS細胞から作製した「心筋シート」=大阪大提供

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有効性や安全性が課題

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った「心筋シート」を重症心不全患者に移植する臨床研究を厚生労働省が十六日了承し、年度内にも実施される見通しとなった。再生医療の切り札とされるiPS細胞の本格利用に向けた一歩となる。だが有効性や安全性、費用などの面から、本当に実用的な治療になるのかも問われ始めている。

■増加続く

 「『何とか新しい治療法を』と再生医療の開発に取り組んできた。(国の承認は)通過点だ」。臨床研究を計画する澤芳樹大阪大教授(心臓血管外科)は記者会見で思いを語った。

 心不全は何らかの原因で心臓のポンプ機能が落ち、息切れやむくみなどを伴いながら動けなくなっていく状態を指す。薬などで一時的に回復しても症状がぶり返し、次第に悪化。最終的には心臓移植や補助人工心臓などが必要になる。

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 心不全で入院した人は五年で約半数が亡くなる。また末期には呼吸困難や痛みがあり患者の苦痛は大きい。入院患者の七割に抑うつの症状があるとされる。心不全に代表される心臓病の患者は高齢化で増え続けており、国内の患者は百七十万人以上で、死因ではがんに続く二位となっている。

 国内で心臓移植を待つ患者は六百五十人以上いるが、実際に移植を受けられるのは年間五十人程度。移植を待ちながら亡くなる患者は多い。

■橋渡しに

 そのため心筋シートに対する患者らの思いは強い。患者やその家族でつくる「全国心臓病の子どもを守る会」(東京)の神永芳子会長は「希望もなく移植を待っている患者の一つの光になる。心筋シートが移植までの橋渡しにもなるのではないか」と話す。

 大阪大のチームはこれまでも、患者の脚の筋肉を採取してシート状に培養し、心臓に貼る治療を開発、「ハートシート」という商品で実用化した実績がある。

 心筋シートは心臓の筋肉の細胞のため、ハートシートより高い治療効果があると期待されている。だが、本当に有効性が高いかはまだ分からず、安全性を含めて四年間かけて調べることになる。

 体のさまざまな細胞に変化できる人のiPS細胞が発表されたのは二〇〇七年。開発者の山中伸弥京都大教授はノーベル医学生理学賞を受賞し、国も成長戦略の柱の一つとしてiPS細胞研究に国費を投入してきた。一四年の理化学研究所による「加齢黄斑変性」という目の網膜の病気に対する移植を皮切りに、人への臨床研究が進んでいる。

■成否左右

 心筋シートでは、細胞の品質基準などで網膜の例を参考にできるが、移植する細胞の総数は網膜の数百倍。目と異なり、異常があっても外から見ることができない。対象の病気や、移植する細胞の種類が違えば副作用なども異なるため、実施には慎重さが必要となる。

 iPS細胞を使った再生医療では高額な費用も問題となる。最初の網膜の臨床研究では、患者自身の細胞を使い一億円もの費用がかかった。

 他人のiPS細胞を使えば費用を抑えられるため、京都大が備蓄を開始。心筋シートも備蓄のiPS細胞から作る。大阪大は将来的に、ハートシートと同じ千五百万円程度になるとみている。

 京都大のパーキンソン病、大阪大の角膜の病気、慶応大の脊髄損傷など、今後も続々とiPS細胞を使った臨床研究が始まる。iPS細胞の再生医療は本当に可能なのか、心筋シートの成否が、後に続く計画に影響を及ぼすのは必至だ。

 

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