トップ > 特集・連載 > 医療 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

医療

名古屋市消防局 通報から搬送まで時間短縮 「1秒でも」地道に改善

どこから通報があったのか住所が分かった段階で「予告開始」ボタンを押し、救急隊に準備を促す=名古屋市役所で

写真

出動指令を受けた後、救急車に駆け寄る救急隊員ら=名古屋市西区で

写真

防災指令センターでは24時間体制で通報を受ける=名古屋市役所で

写真

ルポルタージュ’18

救急隊に“予告指令” 出先から直接現場へ

 名古屋市消防局は、通報があってから救急車で患者を病院に送り届けるまでの時間を二年連続で短縮させた。高齢化で出動件数が増え続ける中での短縮は、地道な改善が数字に表れた形だ。一秒でも早く患者を病院に届けるまでの活動を取材した。(稲田雅文)

伝達

 名古屋市役所の防災指令センターでは四月上旬の午後、職員十二人が待機し、交代で一一九番通報に応答していた。通報を受けるのは、救急隊で勤務経験がある救急救命士ら。緊急度や重症度を判断したり、通報してきた人に心肺蘇生法などを指導したりするためだ。

 「救急車を早く向かわせたいので、住所を教えてください」−。高齢の女性が腰の痛みを訴えた通報で、最優先で聞いたのが救急車を向かわせる先だ。住所が分かるとコンピューターが作動。市内に四十二隊ある救急隊から最も近くにいる隊を選び、指令書と電子音声で伝達する。

 通報した本人や家族は、動転して通常の精神状態にないことが多い。性別や年齢、意識の有無、症状など、必要最小限の情報を要領よく聞いて指令を出す必要がある。「一秒でも早く指令を出したいが、間違うと到着が遅れる。速さと正確さを両立させるには技術が必要」と防災指令センター主幹の森田聖二さん(52)は語る。職員の聞き取り技術の向上や手順の見直しに取り組んだ。

 最も大きな変化が二〇一六年七月に導入した救急指令の予告だ。住所が特定されたら、すぐに「予告開始」ボタンを押す。正式な指令を出すまでの数秒から数十秒前に救急隊に知らせ、救急隊員に準備を促す。

出動

 「火災報。受信中」−。四月十三日午後一時前、本部直轄の救急隊が二隊置かれている名古屋市西区の消防庁舎。予告指令の受信を伝える甲高い電子音に続き、住所と通報の内容が電子音声で流れた。中層ビルからの火災通報だ。けが人に備える必要がある。

 第二救急隊の三人が素早く反応し、感染防止のための赤いジャケットを着て指令端末の前に集まった。正式な指令が出ると、端末で地図を確認し、指令書を手に駆け出した。指令から走り出すまでは一分弱。

 誘導棒で救急車を車道へと送り出した第一救急隊は、すぐさま別の救急車を車庫から出した。同居する消防隊も用務で出ていたため、第一救急隊にも出動指令が出ると庁舎が無人になる。あらかじめ車庫を閉め、施錠時間を短縮するためだ。

 数分後、第一救急隊にも指令が出た。東区の飲食店で食事中の九十代女性が、口にアレルギーのような症状が出たとの通報だ。救急車が発進すると、後部座席の隊長、山崎仁文(ひろふみ)さん(48)が携帯電話で詳しい状況と患者の意識の有無を再確認する。

 救急車は約三・五キロの道のりを指令から七分で到着した。幸い女性は軽症。救急車に収容し血圧を測定し、山崎さんの部下が状況や病歴などを聞き取った。

 「高齢の人は、ゆっくり大きな声で話す必要がある。一人一人、症状や状況が違い、現場活動の時間はなかなか短くできない。いかに出動までの時間を削るかが大切」と山崎さん。通報から二十八分後、女性は中区の病院に運ばれ、医師が出迎えた。

出先

 四月十八日午前九時半すぎ、第一救急隊が中村区の民家へ出動。腰の痛みで動けない女性を近くの病院へ搬送した。帰りは、サイレンと赤色灯はつけずに一般車と同じように走行する。

 名古屋駅の西側にさしかかると、救急車に備え付けの端末が鳴った。新たな指令だ。出動先を確認すると、サイレンを鳴らして走り出した。隊長の原康則さん(50)が、携帯電話で通報者に状況を聞く。

 以前は一度戻ってから出動指令を受けていたが、一六年四月からはこの制限をなくした。医療機関を出た後、次の出動が可能だと防災指令センターに伝えてから帰途に就く。一番近い救急隊に指令を出し、到着時間を削る狙いだ。

 この出動では、七十代男性が中村区の路上で頭痛を訴え、妻が通報した。脳卒中などが疑われ、一分一秒が争われる。区内の名古屋第一赤十字病院へ通報から十九分で搬送した。

 息をつく間もない出動に原さんは「出動が続くことがあり、精神的にも疲れる。しかし、いち早く現場に到着するのがわれわれの使命」と力を込めた。

    ◇

2年で約1分早まる

 高齢化に伴い、出動件数は名古屋市で2013年の11万5281件から、17年の12万5789件へと1万件余り増えた。

 救急出動で求められるのはマンパワーだ。名古屋市消防局は15年度から18年度まで1台ずつ救急車を増やし、42台体制に。熱中症の搬送が多い夏場や、路面が凍結する冬場など、出動件数が多いと予想される日には、非常用救急車を臨時で運用するようにもした。

 今年1月には、エレベーターのないビルの高層階への出動など、時間がかかると予想される現場へは、追加で消防隊(1隊5人)を呼ぶように徹底した。救急隊は酸素ボンベや血圧計、無線機など重い装備を現場に持ち込む。人海戦術で患者と装備を運べるようにして時間を短縮するためだ。

 こうした改善は、現場の意見や他の政令指定都市への視察を参考に一つ一つ導入。地道な改善で通報から医療機関への収容までの平均時間は15年の32.8分から17年の31.9分へと1分近く縮めた。消防庁によると、16年の全国の平均は39.3分で横ばい傾向が続いている。4月からは外国人からの通報が迅速に処理できるよう、中国語やポルトガル語など5カ国語で同時通訳ができる環境も整えた。

 市消防局救急管理係長の乾高章さん(42)は「名古屋市内の救急医療体制が充実していることも、短縮につながっている。今後も現場の声を聞き改善を続けたい」と話す。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索