トップ > 特集・連載 > 医療 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

医療

精神障害者の就労  ビル清掃の会社と医療法人がタッグ

家族のような雰囲気のチームで集合住宅の清掃をする男性(右)=名古屋市東区で

写真

 名古屋市の三十代男性は、てんかん発作を服薬で抑えながら、ビル清掃の建光社(名古屋市東区)で働く。市内の集合住宅を受け持ち、敷地内の掃き掃除やロビー周辺の拭き掃除などに取り組む。

 男性は十代で重いてんかん発作を起こし、発作の後遺症で幻聴が出た。周りの物事に興味を示さず、二十年間ひきこもりの状態だった。外出は、同法人が運営する「すずかけクリニック」(同市千種区)に通院するときぐらい。主治医の福智寿彦院長(53)は「デイケアに誘ってもつっけんどんに“自分はいいです”と断って、薬だけもらって帰る人だった」と話す。

 転機は昨年四月。同法人の就労移行支援事業所「くうねる」が、愛知県ビルメンテナンス協同組合と始めたプログラム「リカバリーあいちプロジェクト」の第一期生三人のうちの一人として誘われたことだった。

 週三回のプログラムで、一日はマナーなどを学び、一日は同協同組合の担当者がプロの清掃を指導。もう一日は復習に取り組んだ。「続くのか」という周囲の心配をよそに、男性は四カ月の研修と二カ月の職場実習を修了。スタッフが性格や適性を考えて選んだ同社に昨年十月に就職した。

 三人がチームになって働く職場。七十代女性と六十代男性のスタッフが家族のように接したこともあり、男性が話す言葉も増え、表情が柔らかくなった。朝早いのが苦手だったが「休むと迷惑をかけてしまう」と、病欠の数日以外は連続で出勤できている。

 思いがけなかった変化が、長年苦しんできた幻聴が軽くなったことだ。福智院長も「環境が変わっただけで症状が改善され、人とコミュニケーションが取れる“いい人”になった。自分は二十年、何をやってきたんだと思う」と驚く。

 同じく一期生で、総合ビルメンテナンスの大成(同市中区)に就職した四十代男性は、服薬でてんかんを抑えながら、中区のビルで働く。「清掃機器のメンテナンスが完璧」と社内の評判が良く、まじめな作業ぶりがテナント利用者の目にとまるほどだ。くうねる施設長の小山愛さん(42)は「精神障害のある人は、現場での判断が求められる職場は苦手な場合が多いが、決まった手順がある仕事をこなすのは得意」と語る。

 プロジェクトの特徴は、就職後も、くうねるのスタッフによる支援が続くことだ。職場で発作を起こした場合でも、すぐに駆け付ける態勢があることが、受け入れる企業の安心につながっている。

 さらに、きちんとした服薬ができているかや、規則正しく暮らせているかを確認し、必要があれば自宅を訪問する生活指導も継続する。福智院長は「精神障害は、日々状態が変化したり、発作が出たりするため、継続した就労が難しい人が多いが、密接に医療的な支援をすることで乗り越えられる」と話す。二期生と合わせ、プロジェクトで支援を受けた五人全員が継続して働いている。

 精神障害者の雇用は国が制度改正で後押ししている。障害者雇用促進法が改正され、今月から障害者の法定雇用率が2・0%から2・2%に引き上げられた。達成のためには、雇用が進んでいる身体・知的障害者に加え、精神障害者の雇用を増やす必要がある。

 人手不足に悩むビルメンテナンス業界としても、人材確保策として手応えを感じている。同協同組合で障害者の雇用支援を担当する水野正樹さん(46)は「愛知県の取り組みを全国に発信し、精神障害者の雇用の場を広げていきたい」と意気込む。

 症状に波があるため、安定して働くことが難しい精神障害者の就労を支援しようと、名古屋市の医療法人・福智会と、愛知県ビルメンテナンス協同組合が昨年から始めた就労支援のプログラムが成果を上げている。協同組合が研修や受け入れる職場を提供。福智会の医療スタッフが健康管理や日常生活、医療面での支援を続けることで、修了者全員が継続して働くことができている。 (稲田雅文)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索