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医人伝

知多厚生病院篠島診療所(愛知県南知多町) 所長 保里恵一さん(64)

高齢化の島を支える

 愛知県の知多半島の先端にある師崎港から船で十分。三河湾に浮かぶ篠島は、人口千六百人の小さな島だ。港近くの診療所は、日に焼けた高齢者たちでにぎわっていた。

 週二回、各二時間の外来担当日。船で来て、診療衣に着替えると、手際よく問診を進めていく。高血圧、ひざの関節炎など慢性疾患の患者が多い。通販の健康食品でひどい下痢をしたという女性には「ああいうの、信じちゃだめだよ」と諭した。

週2回の外来で、患者に笑顔を向ける保里恵一さん

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 「島と言っても交通の便がいいから、みんな船で通院するんですよ。診療所を使うのは主に高齢者」。本院の知多厚生病院(同県美浜町)の同僚や、へき地医療研修の若手医師らで外来診療を分担する。寝たきり患者の往診に出掛けることもある。子ども世代が島を離れても、独居になっても「ここで一生を終えたい」と願う人たちだ。

 本院のすぐ近くで生まれ育った。父親は地元の病院の事務職員、親族にも医療関係者が多く、医療は身近だった。名古屋市立大医学部を卒業。東海各地の病院で外科医としてキャリアを積み、乳腺外科にも領域を広げた。知多厚生病院は二度目の赴任。院長から「故郷だし、医師人生の締めくくりに」と八年前に誘われた。地域医療福祉連携部長、乳腺外科部長を兼ねる。「医療連携の仕事をするうえで、医師会や行政には同じ小、中、高校の出身者が多くて、やりやすい」と笑う。

 高齢化が進む故郷。夏になると泳いだ浜にも、子どもの歓声は聞こえなくなった。地域医療を支えてきた本院は医師不足にあえぐ。そんな中、国立長寿医療研究センター(同県大府市)が主導する「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)の研究会に参加している。患者の思いが尊重され、遺族の心の痛みが小さくなるような終末期ケアを実現していく活動で、知多半島などの七つの病院が連携し、患者の意思決定を支援する人材の養成などを進めている。

 「私も、自分や妻の両親をみとる中でいろんな体験をした。気管切開をすべきか、どこまで治療すればいいかなど、医師として知識があった分、迷うことも多かった」と振り返る。患者さんの尊厳、家族の思いをどう守っていくかは、一律に答えを出しにくい問題だ。だからこそ「住民たちが死について考え、話し合える環境をつくっていきたい」と力を込めた。(編集委員・安藤明夫)

 

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