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ほどほど道

<ほどほど道> (7)目立ちすぎない

斬られ続けて56年の木谷さん(手前)。「自由自在に動けるうちは、まだできる」=東映京都撮影所で

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◆活人剣に脇役の妙技

 「者ども出合えー」。掛け声とともに現れた敵を、バッタバッタと斬りまくる。主役が悪党をやっつける勧善懲悪の時代劇。見せ所の一つが、終盤の大掛かりな立ち回り、通称「ラスタチ」だ。

 「斬られ方がうまいと、主役のスターさんが『立つ』んです」。愛知県蒲郡市出身の俳優木谷邦臣さん(76)は、立ち回りを支える、いわゆる「斬られ役」。時代劇の総本山、東映京都撮影所にある殺陣の専門グループ「剣会」の一員だ。

 木谷さんはこの道五十六年。桃太郎侍や遠山の金さん…。斬られたヒーローは数知れず。昨年亡くなった菅原文太さんとは任侠(にんきょう)モノで殴り合った。出演した映画、ドラマは千三百本超。ワンシーンに何度も斬られる場合があるから「五万回より、もっと死んでるでしょう」と笑う。

 斬られ、倒れるだけと思ったら大間違い、らしい。「いかに本当に斬られ、本当に苦しんで死ぬように見せるか。カットがかかるまで、すべて演技をしているんですよ」

 刀は青眼、大上段など五通りの構えがあり、斬り方は真っ向唐竹割り、左右のけさ掛けなど六通り。その組み合わせと斬られる部分によって、表情や倒れ方も変わる。首を斬られれば膝から崩れ落ち、背中なら肩甲骨をギュッと縮めてバタンといった具合だ。

 カメラアングルから主役と自分の映り方を読み、さらに、どこで倒れれば、次に斬られる俳優の邪魔にならないかも考える。「あまり目立ちすぎると主役を食ってしまう」。その緻密な計算が「リアル」を生み、主役の強さを際立たせる。

 もちろん、俳優だから自分の顔もちょっとはスクリーンに映したい。

 一九七八年に公開された萬屋錦之介さん主演の「柳生一族の陰謀」(深作欣二監督)。宣伝用のワンシーンで、一騎打ちの相手に選ばれた。柳生宗矩役の萬屋さんに、けさ姿の僧侶となって切りかかる。「萬屋さんは、右足をトンッと出すと動く」。間合いを逃さずに腹を斬られ、あおむけに倒れながら体をひねった瞬間、自分の顔を映り込ませた。

 誰もがピンスポットを浴びるわけではない世界。「脇役や斬られ役がいないと回っていかない。現実の社会だって、同じじゃないかな」。時代劇も、俳優だけでなく大勢のスタッフが携わる。近年は経験を買われて主役への所作指導を頼まれることが増え、昨年三月放送の「宮本武蔵」では木村拓哉さん(42)に二刀流の扱い方を教えた。

 主役を立てつつ、自分も生かす。まさに、人を生かす「活人剣」。その絶妙な頃合いを極めてきた木谷さん。「悪役が多いから、自然と目付きが悪くなっちゃって」。瞬時にギロッと変えたまなざしこそ、一筋に歩んだ道の証し。

 

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