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ほどほど道

<ほどほど道> (6)働きすぎない

社員の家族写真が並ぶ社長室で、社員旅行の思い出を話す幅大司さん(右)と中石俊哉社長=岐阜市のアース・クリエイトで

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◆奮い立つ会社とは

 末っ子の五歳の娘は元気いっぱい。いつもパパの後を走ってついてくる。一緒に風呂に入り、遊び疲れた寝顔を眺める。

 岐阜市の建設業「アース・クリエイト」の道路事業部長、幅大司(はばだいじ)さん(42)は三児の父。自他ともに認める「モーレツ社員」だった。男は働いてナンボ、と今も少し思っている。

 でも六年前、会社を三週間休んだ。

 二〇〇九年四月。生後一カ月だった次女の蒼葉(そらは)ちゃんの下腹部にしこりが見つかった。病院を転々とし、原因がわからないまま入院。妻は病院に泊まり込み、幼い長男と長女が家に残る。親に頼むしかないか…。

 「好きなだけ休んでいいぞ」。創業社長の中石俊哉さん(55)はこう言って背中を押した。

 以前はこうはいかなかった。道路の速度表示や横断歩道などのラインを引くのが主な仕事。急な注文は断れず、繁忙期には数日間、家に帰れないことも。加えて、アスファルト上は夏は酷暑、冬は極寒。新しく社員が入っても、「社長、話が…」とやめていった。

 相次ぐ人材流出に経営危機。「社員に気持ちよく、長く働いてもらうには」。危機感をバネに、中石さんは試行錯誤を続けた。

 ワーク・ライフ・バランスが叫ばれだした〇七年、男性社員が初めて育児休暇を取得したのを機に制度を見直した。子の出産時に二週間、看護に年五〜十日間。少しずつ、社員が定着するようになった。休暇で穴があけば、別の社員が補う。営業から戻った社員が、作業服に着替えて現場へ向かうこともある。一人一人が技能や知識を身につけたことで効率的に仕事が回り、仕事の質も向上。働きすぎないことが、社員の定着に加え売り上げ増にもつながる好循環を生んだ。

 そうはいっても、「休みを増やせば仕事が回らない」と考える中小零細の経営者が多いのも事実だ。中石さんの成功の一つに「社員との距離の近さ」を挙げた岐阜県の担当者は、成功に倣いたい他の企業に聞かれるとこう助言する。「まずは、社員のニーズを聞くことから始めてみては」

 中石さんは、徹底的に家族を大事にする。社員旅行やバーベキューには必ず家族も招く。社長夫人で総務部長の千晶さん(53)は、社員の代わりに子どもの授業参観に行ったこともある。

 社長室には、壁いっぱいに社員の家族の写真。数十枚の中に、二歳ぐらいの蒼葉ちゃんの顔もある。幅さんは会議でこの部屋に入るたび、思い出す。

 長期休暇を取った〇九年末の忘年会。「ちょっとお話しさせてもらっていいですか」と妻が突然マイクを手に取り、会社への感謝を口にした。あれ以来、急な仕事の時も、嫌な顔一つせず送り出してくれる。

 

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