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ほどほど道

<ほどほど道> (5)速すぎない

時速2キロで小栗さんが走らせるソフトカー。ベビーカーにも追い抜かれた=千葉県市川市で

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◆未来の車は死者ゼロ

 東京五輪が開かれている二〇二〇年、競技場が集まる湾岸地区と新国立競技場を結ぶ通称「マッカーサー道路」。走る車は、東京の街並みをめでるようにゆっくりと進んでいく。幅十三メートルの歩道にはオープンカフェが設けられ、談笑する人びとの顔がよく見える。

 ここでは、悲惨な交通事故はまず起こり得ない。どれだけ車のアクセルを踏んでも、制限速度以上にスピードが出ないように制御されているから−。

 「人と車が共存できる空間を」。空想ではなく、真面目にその実現への道筋を思い描く人がいる。

 岐阜県瑞浪市出身の千葉商科大教授、小栗幸夫さん(68)。研究するのは「ゆっくり走る車」。商店街や通学路など、生活環境に合わせてふさわしい速度で走る「ソフトカー」を開発している。

 より速く、より遠く。人は車に速さと利便性を追い求めてきた。経済成長の原動力となり、まちづくりや道路網の整備を加速させた半面、昭和三十年代には年間一万人以上が犠牲になる交通戦争を生んだ。都市計画が専門の小栗さんは、そんな車社会の陰の部分に目を向けてきた。

 きっかけは、筑波大講師だった一九八二年、飲酒運転の学生が時速百キロ超で水田に突っ込み、五人が死傷した事故。九七年には姉妙子さん=当時(59)=が車にはねられて亡くなった。

 今も毎年、四千人以上が交通事故で命を落とす。生死を分ける大きな要因は速度だ。スピードが出なければ衝突を避けやすく、ぶつかっても被害を減らせる。

 小栗さんが〇七年に起きた四輪車の事故を調査したところ、速度超過の死亡事故の割合は、規制以内走行の場合に比べて十倍。千七百十五件あったが、もし、これらが規制以内に抑制されていたと推計すると、百五十五件に減るという。「ならば、スピードが出ないようにしてしまおう」

 カーナビなどに使われる衛星利用測位システム(GPS)を活用し、道路の制限速度を自動的に感知するシステム開発を試みる。六十キロ制限の道路なら、それ以上はアクセルを踏み込んでも加速できない仕組み。路線バスなどから導入を始め、普及させる狙いだ。

 手始めとして、市販の一人乗り電気自動車を改造。手元のスイッチで二キロ、四キロ、六キロ、十五キロ、三十キロに設定し、それ以上は出ないようにした。速さごとに色が変わる発光ダイオード(LED)も備え、車外からどのくらい速度が出ているか一目瞭然だ。

 日本ではあまり知られていないが、二〇年は国連の「交通安全のための行動の十年」の最終年でもある。事故被害者の遺族とも交流する小栗さんは言う。「これまでの成長は犠牲の上に成り立ってきた。ソフトカーで新たな成長の姿を世界に発信したい」

 <スピード制御>日本ではかつて、乗用車が時速100キロ以上を出すと「キンコン」と鳴る警報装置が義務付けられていたが、米国に非関税障壁とみなされ、1986年に廃止された。内閣府の「最高速度違反による交通事故対策検討会」が2009年に実施した意識調査では、高速道路を含めたあらゆる道路で速度制御装置(スピードリミッター)が必要と考えるドライバーは4割近くに上る。

 

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