トップ > 特集・連載 > ほどほど道 > 記事

ここから本文

ほどほど道

<ほどほど道> (4)つながりすぎない

漫画の出来栄えに目を凝らす前田ムサシさん。「スマホからガラケーに替えたい」と考えている=静岡県富士市で

写真

◆現実世界守るため

 「本日でFacebook(フェイスブック)をキッパリやめます!」

 静岡県富士市に暮らす漫画家の前田ムサシさん(45)は昨年八月三十日、フェイスブックに書き込んだ。顔を合わせたことはないが、二年間で育んだ四百人の「友達」との別れ。それなのに、悲しみよりも、すがすがしさを感じた。

 スマートフォンの普及で利用者が増えた、フェイスブックやTwitter(ツイッター)などの交流サイトSNS。古い友人と「再会」したり同じ趣味を持つ人と知り合えたりする一方で、四六時中コミュニケーションを強いられ、他人の反応を気にしすぎる「SNS疲れ」が広がる。

 前田さんは二十代で漫画誌の連載デビューを飾るも、その後は鳴かず飛ばず。職を転々とした三年前、ブログで発表していたフィリピン出身の妻ルビージェーンさん(43)との生活を描いた四こま漫画を出版する仕事が舞い込んだ。漫画家として復活するチャンス。ファンを増やそうとフェイスブックを始めた。

 「読者と交流し、アイデアを取り入れながら作るのが新しい漫画の形」。国際結婚した人たちと「友達」になり、単行本の購入者も増えた。売れ行きが鈍ると、ほぼ毎日更新した。「いいね」が増えたか。読者の感想は。漫画家業の傍ら、医療機器工場で働く最中も気になって仕方ない。反応に一喜一憂し、休憩になると真っ先にスマホを開いた。

 「ほとんど依存症でした」。家族の暮らしぶりをコミカルに描く漫画なのに、だんらんが減っていく矛盾。「現実世界の気付きを感じる力が鈍くなった」と感じ、作品発表の場としてのブログ以外はやめた。

 スマホは使用場所を問わないため、絶えずSNSやオンラインゲームを利用するうち依存に陥る。「朝起きられずに不登校になったり、ご飯を食べるのを忘れて没頭し、一日一食の患者もいた」。神奈川県横須賀市にある国立病院機構・久里浜医療センターの中山秀紀医師(41)は明かす。

 国内初のネット依存外来を二〇一一年七月に開設以来、約二百五十人が受診した。保護者に連れられた子どもが多いが、もちろん氷山の一角。韓国では、長時間ネットカフェでゲームをした男性がエコノミークラス症候群で死亡した。「子どもにスマホを与えるのは遅い方がいいんですが…」。親が取り上げて暴力に発展するケースもあり、対策は一筋縄にはいかない。

 前田さんは最近、液晶画面で作画できる機械を購入。新たな作品づくりに挑戦している。思春期を迎えた子どもと接する余裕もできた。「漫画って、一人でアイデアを練っている時が、苦しいけど面白い」。つながりすぎる世界より、家族と過ごしたり一人で物思いにふける「アナログ」な時間を大事にしている。

 <ネット依存症>厚生労働省の2013年の調査では、全国421万人が依存の傾向があると推計され、08年調査の1・5倍になった。世界的な診断基準はまだ確立していないが、仕事や学校生活に支障が出たり、ネットに触れられないとイライラしたりすると、依存性が高いとされる。久里浜医療センターは中高生、大学生の受診が多く、男性が女性の5倍。ホームページ上で「気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか」などの設問に答えるスクリーニングテストが受けられる。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索