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友情・努力・勝利と私たち 少年ジャンプ創刊50年

創刊号(左)((c)少年ジャンプ創刊号/集英社)と、14日発売の50周年記念号((c)週刊少年ジャンプ2018年33号/集英社)

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 週刊少年ジャンプ(集英社)は、十四日発売の二〇一八年三十三号で創刊五十周年。数多くのヒット作を生み、半世紀にわたって読者に夢を与え続けてきた。魅力を三人に聞いた。

 <週刊少年ジャンプ> 創刊号は1968年7月11日発売。当初は月2回発行で69年10月から週刊。95年に記録した653万部は漫画雑誌の最高発行部数。2018年1〜3月は176万部。

 実際の読者構成は中学生を中心として小学校高学年〜高校生が主。15歳以下が7割、16歳以上が3割。男女比は8対2(12年調査)という。

◆リーダー力を学ぶ教材 歌手・タレント 高橋みなみさん

高橋みなみさん

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 最初に面白いなと思った漫画は「スラムダンク」でした。幼稚園の頃の話です。父親が毎週、少年ジャンプを買っていたので、父が読んだ後、私も読ませてもらっていました。その後も「NARUTO(ナルト)」とか「デスノート」とか、すごい作品が次々に出てきて、漫画の黄金期でした。そんな中で、一番好きな作品を挙げるなら「ONE PIECE(ワンピース)」です。

 ルフィという主人公が海賊王になるために海賊船の船長として大海原に乗り出していくという物語です。ルフィがリーダーシップにあふれていて、仲間を言葉で引っ張っていくだけではなくて背中で見せていく。思いやりの心もあり、せりふにもカリスマ性があります。仲間たちとの出会いや別れに心を震わされます。一九九七年の連載開始から今でも読ませていただいているので、私の「人生の一冊」ですね。

 読んだことがないという人には「人生損してますよ」と私はいつも言うんですけど、うらやましくもあります。今からワンピースの世界を楽しむチャンスがあるわけですから。

 私にとって漫画は教材です。最初は、面白いし、ワクワクするから読んでいました。でも、自分が漫画みたいな世界観のあるAKB48に入って、キャプテンとか総監督という立場になってからは教材になりました。人を鼓舞したり、引っ張るような言葉を言わなければいけないとき、少年漫画を読んでいたことがすごく役に立ちました。難しい局面に出くわしたとき、私の脳内では漫画のコマ割りのように再生されるんです。この場面では、こういう決めぜりふを言ったらいいんだというノウハウは少年漫画から学びました。

 今、よく読まれている漫画に共通するのは、主人公だけでなくてサブキャラも人気があるという点です。昔は、人気投票をしたら主人公一強だったと思うんです。今の漫画は主人公も好きだけど、その隣にいる人も好きだとか、この主人公には感情移入できないけど、こっちのキャラは私っぽいなとか。いわゆるキャラ立ちしている漫画が支持されているように感じます。みんなが輝いている漫画が面白い。AKB48も似ているかもしれませんね。センターはいますが、ほかのメンバーも個性豊かなグループですから。

 (聞き手・越智俊至)

 <たかはし・みなみ> 1991年、東京都生まれ。2005年結成のAKB48の1期生。12年からAKB48グループ総監督。16年に卒業。現在は歌手活動のほかラジオのパーソナリティーも。

◆新人起用が作品に熱気 元週刊少年ジャンプ編集長 後藤広喜さん

後藤広喜さん

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 「少年ジャンプ」の生命線は、新人漫画家の発掘と育成です。創刊は一九六八年。すでに「少年マガジン」「少年サンデー」「少年キング」が先行し、人気漫画家の起用は困難を極めました。苦肉の策で踏み切ったのが新人の起用。新人賞の創設も業界初です。そんな軌跡を『「少年ジャンプ」黄金のキセキ』として出版しました。

 工夫のひとつが「カセット方式」。ストーリー漫画とギャグ漫画のページ数をそれぞれ統一し、休載や面白くない作品があれば、すぐに別の作品に差し替えました。人気連載「男一匹ガキ大将」も最初はストック原稿。ベテランの穴埋めで掲載したら人気が出て、急きょ連載を決めました。代打が場外ホームランを打った感じでしょうか。

 読者アンケートで不人気なら誰であっても十回で打ち切りました。ベテランや中堅と平等に戦えるから、新人が集まった。連載期間を延ばそうと、漫画家と編集者は必死で作戦を練りました。その結果、面白さと熱気のある作品が生まれました。

 根本にあったのは徹底した読者像の調査です。初代編集長のモットーは「読者の頭とポケットの中身まで知る」。毎号とじ込みはがきでアンケートを募りました。ジャンプのテーマ「友情」「努力」「勝利」もアンケートから出た言葉です。子どもの悩みを調べると、一番は進路。次に成績、お小遣い、運動能力、大きく離れて異性関係と続く。みんな将来について悩んでいる。成績が悪い子も向上心を持っているんですよ。友情に支えられ、何かを成し遂げようと努力し、やるからには勝つ。そう考える健全な子どもに向かって雑誌をつくってきたんです。

 五十年を大きく分けると前半は雑誌とコミックスを売る時代、後半はコミックスとメディアミックスによる権利ビジネスの時代。部数減の要因は漫画人気の低迷ではなく雑誌メディア全体の衰退です。人々が情報を雑誌から得なくなったのです。

 ただ、こうした時代変化があっても「男の子が読む少年漫画の面白さ」を追求する精神は変わりません。漫画を読んで面白いと感じ、笑い、感動する。自分の感覚が解放され、心がすごく豊かになった気がする。雑誌が廃れていくのなら、新たなメディアを生み出すしかありません。漫画家と、漫画好きの読者はいなくならないと思っています。

 (聞き手・出田阿生)

 <ごとう・ひろき> 1945年山形県生まれ。70年集英社入社、「週刊少年ジャンプ」編集部配属。86年から93年まで同誌編集長を務め、生え抜き編集長第1号となった。集英社取締役などを歴任。

◆性差超え個性を紡ぐ 明治大教授・評論家 藤本由香里さん

藤本由香里さん

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 「ジャンプ」の一番の特徴は、新人漫画家ならではの勢いとエネルギーをとても大事にしてきた雑誌だということです。

 「サンデー」「マガジン」より十年ほど後発。既存の作家は両誌に取られ、新人で勝負するしかなかった。創刊号には「第1回新人漫画大募集」の告知が掲載されています。一般少年誌で大々的に新人を募集したのは初めてでしょう。

 そこには「読者にいちばん近い年令(ねんれい)の、若いきみが、全力でかきあげた漫画こそ、読者が待ち望んでいるものです」とあります。今日の読者が明日の作者。完成された作品ではなく、粗削りでも今の時代に呼応する作品。これこそ、今も続く「ジャンプ」の精神です。

 そして、読者とともに作っていく。対象読者の中心年齢は一貫して小学校高学年。その上で、読者アンケートを重視する。読者の支持こそが全てで、それが誌面ではっきり見える。激しい競争は毎週の連載で、読者の期待を翌週まで引っ張る「引き」を重視することにつながります。翌週になったら「さてこれをどう収拾しよう」ということもよくあるそうですが、その方が勢いが出ていいそうです。

 勢い重視で作品が似てくるかというと、逆に何でもありになっている。雑誌ですからもともと多様な枠がありますが、その枠が空くのを待つより、全く新しい枠を生み出した方が掲載されやすいから。ただ、それは一番人気の雑誌で多くの才能が集まるから可能。つまり、「ジャンプ」のシステムは常に戦い続けなければ維持できません。きつい戦いです。

 「ジャンプ」のキーワードは「友情」「努力」「勝利」。まさに男の子の価値観ですが、女子にも人気がある。少女漫画みたいな内面的な描写は多くありませんが、行動に表れる精神的なものがきちんと描かれている。それに多彩な男性キャラクターが「男同士の絆」が好きな女子の気持ちをくすぐっている。

 もちろん、女を忌避した男だけの世界という側面がないわけではないですが、男性性ではなく個性が強調され、その個性同士が形作る関係性が物語を紡いでいる。考えてみれば、対象読者の小学校高学年男子は自我が芽生え始めても、自意識は肥大し過ぎていない。行動で世界を開こうという気持ちがある。その気持ちには男女の差はありません。

 (聞き手・大森雅弥)

 <ふじもと・ゆかり> 1959年、熊本県生まれ。東京大卒。少女漫画を素材にした評論、ジェンダー論などを執筆。著書に『私の居場所はどこにあるの?』『少女まんが魂』『きわきわ』など。

 

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