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子宮頸がんワクチンの是非

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 子宮頸(しきゅうけい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンの定期接種をめぐり、国が積極的接種勧奨を中止して今月で丸五年。事実上の接種停止状態の中、識者の意見は分かれる。

 <HPVワクチン> 世界130カ国以上で使用。国内でも12〜16歳の女性は予防接種法による公費の定期接種を受けられる。5年前、接種後の体調不良報告が相次ぎ、厚生労働省は接種推奨はがき送付などの積極的勧奨を中止。集団提訴の影響もあり、接種率は1%未満に。同省は「勧奨再開の是非は、正しい知識と理解が国民の間に深まった段階で判断する」としている。

木下勝之さん

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◆守れるはずの命ある 日本産婦人科医会長・木下勝之さん

 厚生労働省が積極的勧奨を中止して以降、70%あったワクチン接種率は今や1%未満です。対象となる小学六年から高校一年までの女性は、ほとんど接種していません。将来、患者数がワクチン承認前と同レベルまで増えることは確実です。

 HPVは性交で女性の七〜八割が一度は感染し、多くはウイルスが自然排出されますが、一部は持続感染し、前がん病変から、がんに移行します。国内では年間一万人が子宮頸がんと診断され、二千七百人が命を落とします。若い患者は「どうか子宮を残す治療を」と泣きます。

 池田智明・三重大教授の調査では、妊娠中の検査で見つかるがんの72%は子宮頸がんで、その27%は子宮を摘出せざるを得ないような状況でした。実際、おなかの中の子と将来の妊娠を諦めるしかないケースが少なくない。術後も、合併症やがんの転移、再発の心配があります。

 ワクチンを接種した人に持続的な痛みやしびれ、運動障害など多様な症状を訴えて病院を次々と回ったけれど原因が分からなかったという、気の毒な人がいたと聞きます。今は都道府県に窓口となる協力病院があり、専門病院につなぐ体制ができています。このルートで適切な治療を受けることを勧めます。

 ところで諸症状の原因がワクチンの副反応かというと、科学的な因果関係の証明はありません。厚労省の専門部会は、ワクチンの成分の問題ではなく、注射の痛みや不安によって諸症状が引き起こされた可能性が否定できない、とみています。各国の疫学調査では、諸症状は接種歴のない人にも同程度に現れることから、ワクチンは無関係だというのが世界の論調です。

 国際的ながん研究と診療指針づくりをリードする米国臨床腫瘍学会は、世界の若者の生命を脅かすがんを予防するため、HPVワクチンを迅速に普及させるべきだと指摘します。もちろん副反応のリスクはゼロではありませんが、世界保健機関(WHO)や欧州の公的機関も安全性と有効性を認めています。

 若い女性が信頼性の乏しい情報の影響で接種を控えている現状は悲劇的です。日本産婦人科医会は多くの方に正しく理解してもらうため、市民公開講座の開催に取り組んでいます。ワクチンで守れるはずの命と健康を守り、子宮を失うことなく赤ちゃんを産んでほしい。それが産婦人科の医師たちの願いです。

 <きのした・かつゆき> 1940年、東京都生まれ。慶応大医学部卒。順天堂大の医学部産婦人科学教授、最高裁の医事関係訴訟委員会委員、日本医師会常任理事などを歴任。医療法人理事長。

◆判断材料の情報欠落 「シンクパール」代表理事・難波美智代さん

 二〇〇九年、三十五歳の時にたまたま受けた検診で子宮頸がんが見つかりました。国内でワクチンが承認され、子宮頸がんという言葉が世の中に広がった時期です。子どもは三歳でした。自覚症状はなく、青天の霹靂(へきれき)でした。早期発見でしたが、子宮を全部摘出しました。

難波美智代さん

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 出産時の検診では、異常はありませんでした。仕事や家庭、子育てに追われて自分のことは後回し。検診の必要性を深く理解せず、三年空いてしまいました。子宮頸がん検診の受診率は、今も40%ほど。単に検診を受けなかった私が悪いのでしょうか。

 子宮頸がんはマザーキラーと呼ばれます。二十〜四十代の子育て世代に多く、子宮を摘出すると子どもが産めなくなるからです。結婚したい、出産したい。未来の選択を当たり前と考えている女性にとって、その選択を失うのは深刻です。

 ワクチンと検診の組み合わせで、このがんはほぼ100%予防できるとされますが、接種率も受診率も低い。少子高齢化が進む中で、子どもを産みたい人が産めて、働きながら育てることができる世の中にするため、ワクチンや検診は個人の問題ではなく、社会の課題です。

 国がワクチンを定期接種にしながら積極的勧奨を中止しているのは、市民からすれば「子宮頸がんを予防して命を救うワクチンだけど、お勧めしない」と言われているに等しいです。情報不足から、自分が接種対象者であることやワクチンの存在を知らない女性も少なくありません。知る権利が十分に保証されず、接種するかしないかの選択のすべてが、自己責任に委ねられている現状に、違和感をおぼえます。

 一方で副反応かもしれない症状で苦しむ女性もいます。すべての患者に必要なのは、治癒と寛解であり、未来の生活の安心です。これらが守られるように国が予防接種政策の方針をしっかりと決めるべきです。

 いま毎日八人ほどが子宮頸がんで亡くなります。検診による死亡率減少の効果を示す科学的根拠があります。そして、このワクチンは接種率が60%程度まで上がると、未接種の人の感染も予防する集団免疫効果があるといわれます。ワクチンがどういうもので、なぜ必要かという大切な情報が欠落していて、とても残念です。私のように患者になる前に、子宮頸がんのことをもっと多くの人に知ってほしいと願うのです。

 <なんば・みちよ> 1973年、神奈川県生まれ。2009年、NPO法人「子宮頸がん啓発協会」を設立。12年に一般社団法人シンクパールに改組。検診を早期に受診するよう呼び掛けている。

横田俊平さん

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◆接種よりも検診急げ 元日本小児科学会長・横田俊平さん

 HPVワクチンの定期接種に反対です。私の外国との共同研究を含めた臨床研究などから、ワクチンの成分が、何らかの自己免疫異常の原因となり、脳内の自律神経とホルモン調節の中枢である視床下部に病変を引き起こしている可能性が否定できないためです。ワクチン接種よりも、子宮頸がん検診の普及に力を入れるべきでしょう。

 このワクチンを接種した女性たちに見られる多様な症状を「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」ととらえ、現在七十一人の患者の治療にあたっています。年齢は十八〜二十三歳。接種後、半年から遅くとも二年以内に全身の痛みや不随意運動、生理の異常、感覚過敏、記憶障害や認知症などの高次脳機能障害の症状を重層的に発症しています。

 具体的には光や音、においに過敏になって電車に乗れなくなったり、母親の顔が分からなくなったり。妊娠歴がないのに乳汁が出るという患者もいます。

 ワクチンのどの成分が、どのような形で視床下部に影響を与えているのか、具体的な仕組みは分かりません。厚労省の専門部会は因果関係を否定し、ストレスや不安が引き金となる「機能性身体症状」(心身の反応)と結論づけましたが、原因が分からないからといって「心の問題」と片付けるのは乱暴です。

 私が治療に当たっている患者たちは、ワクチンの接種回数が一回目、二回目、三回目と増えるたびに、症状の種類や頻度も増えています。成分との関連性があると考えています。

 ステロイド薬を点滴するステロイドパルス療法や川崎病の治療法であるガンマグロブリン大量療法、さらに特殊な機械で血液をろ過する血漿(けっしょう)交換療法を試しています。医療費は高額ですが、一時的な効果があり、免疫異常を示唆しています。ただし多くは数カ月で再発し、治療の困難さを感じています。

 そもそもワクチンを接種しても、子宮頸がん検診を受診しなければ、子宮頸がんは防げません。ワクチン接種より、検診率の向上が急務です。そのためには、若い女性は男性医師の検診に抵抗感があるので、女性の技術者を育てる必要があります。

 また、日本では副反応情報を製薬会社が収集して、国に報告していますが、公平な情報収集のため完全に中立な、国からも独立した第三者機関を設立しなければいけないと思います。

 <よこた・しゅんぺい> 1948年、埼玉県生まれ。横浜市立大医学部卒、同大名誉教授。日本小児科学会長などを歴任。静岡県御殿場市内の整形外科病院の小児難病リウマチ・センター長。

 (聞き手・阿部博行、藤川大樹、柚木まり)

 

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