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どうした!日本のモノづくり

 戦後の日本経済を支えてきた製造業で、不祥事が目立つ。不正会計などによる名門企業の衰退、検査データの改ざん、新幹線の台車に亀裂…。何が原因か。どうすれば改善できるのか。三人に聞いた。

 <製造業の不祥事> 昨年9月に日産自動車で無資格検査、同10月には神戸製鋼所で品質データ改ざん、スバルで無資格検査の問題が相次ぎ発覚した。同12月には運行中の新幹線「のぞみ」の台車に破断寸前の亀裂が見つかり、製造元の川崎重工業が検査すると、強度不足の疑いがある台車が167台に上った。

 東芝の不祥事は、製品の品質に直接関係はないが「不正会計−巨額損失−好調子会社の売却」などと続き、一時債務超過に陥った。

◆「地道に作る」原点に 元東芝副社長・川西剛さん

川西剛さん

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 今回の不祥事は、もちろん個々の会社、社員のモラルの問題ですが、問題はなぜモラルが欠如してしまったのか。モノづくりというものへの意識、自覚が欠如してきたことが大きい。

 その背景には、利益至上主義があります。僕は会社の利益を差別化、つまり人と違ったものを作ることに見いだしましたが、最近の経営者はコストの削減、安く作ることにあると思っている。品質よりコストを優先した結果がこれです。

 また、日本の場合、製造現場には基準・規格が過剰、過多という面もある。その結果、いちいち守らなくても大丈夫という意識になったのではないか。

 つくづく日本人の意識の変化を感じます。日本は農耕民族ですから、みんなで協力し、文句を言わずにこつこつと働く。目立つことよりも達成感を優先する。ところが、「これではいけない」と思い始めてしまった。一人で動き、人を出し抜いてでも成果を見いだそうとする狩猟民族のように、組織に頼らず、独創性で勝負しろと。その結果、現場を嫌い、派手な仕事にあこがれるようになってしまった。僕が工場長をやっていた時はQC(品質管理)サークルなどがあり、従業員みんなで良くしようという意欲があった。そういう雰囲気が薄れてきた。

 米国の神学者ニーバーの名言に「神よ、変えられないものを受け入れる潔さと、変えるべきものを変える勇気と、そして変えられないものと変えるべきものを見分ける知恵をお与えください」というのがあります。今必要なのはこの知恵です。

 僕は東芝に入社した時、研究志望でしたが、大学の先輩に引っ張られ製造現場に回されました。ショックでしたが、結果的にはそれが良かった。製造会社の基本であるモノづくりの現場を、現場の人たちの努力を知れた。日本のメーカーを見ると、自分で物を作った人がトップになったときはうまくいく。物を作ったこともなくて理屈ばかり言う人が上に立つと、利益ばかり求めて、おかしいことになる。わが東芝もそうでした。

 コンプライアンス(法令順守)なんて横文字で言うと難しいですが、要するに何のために物を作っているのかということ。そういう意識が日本全体で薄れてきたことを感じます。日本の美点だった、いい物を地道に作るという原点に戻るべきです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <かわにし・つよし> 1929年、神奈川県生まれ。52年に東芝入社。半導体事業部長、専務などを経て、90〜94年副社長。著書に『イスラエルの頭脳』『わが半導体経営哲学』など。

◆誇り持ちづらい環境 東京工業大名誉教授・長田洋さん

長田洋さん

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 日本のモノづくりは、もともと「現場力」を重視してきました。決められたことを守り実行する。そしてより品質を良くしようとする「カイゼン」です。これは終身雇用を前提に企業が「チーム」として動いていたことで機能してきました。

 しかし、一九八〇年代から円高が急速に進むと製造業企業は海外生産を増やすため、工場を発展途上国に進出させ、国内工場を閉鎖し始めました。非正規契約の社員も増え、今に続くコストカットが始まったのです。

 過剰なコストカットは、従業員のモノづくりへの倫理観を低下させました。相次いだデータ改ざんなどの不正は、コストダウンのために、少しぐらい品質を軽視しても構わないと企業が捉えていたことの表れです。長年にわたって「不正をしても品質が問われることがなかった」ことも続いたのでしょう。

 このような不正を監査がずっと見逃してきた責任は重大です。正社員と一時雇用の非正規契約の社員でつくられた職場に変わり、かつてと比べチームワークも落ちました。現場はモノづくりへの「誇り」を持ちづらい環境になっています。

 経営者も、現場との距離が遠くなりました。グローバル化と多角化がその要因です。本当はもっと現場に足を運ぶ必要があるのですが、異なる事業分野を収める多角化経営では、トップが自身の出身とは違う畑の事業は「よく分からない」などの理由で、判断や関与を避けたりします。

 神戸製鋼も多角化経営の企業でした。現場を訪問することにどれほどの意味があるのか、と思うかもしれませんが、従業員に対し組織の一員であるという意識を持たせ、意欲を高めることができるうえ、現場の緩みをけん制することもできます。

 モノづくりにとって、製造工程で決められたことを守るというのは基本中の基本です。基本ができていなければ「イノベーション(技術革新)」なんてできません。不正の原因を、後になって「顧客の要求が厳しかった」などと相手のせいにして釈明するなんてもっての外です。

 相次ぐ不正で日本のモノづくりの信頼性が問われる事態にはなりましたが、それでも日本企業は海外と比べ、「カイゼン」を推進し、リコールにも誠実に取り組んでいると思います。ただ、良い企業と劣っている企業と二極化していることが気掛かりです。

 (聞き手・木村留美)

 <おさだ・ひろし> 1947年、静岡県生まれ。東京大工学部卒、工学博士。旭化成、東京工業大教授を経て2014年から文教大教授。専門は品質管理と技術経営。積水化学工業の社外監査役を務めた。

◆欠かせない現場体験 漫画家・見ル野栄司さん

見ル野栄司さん

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 品質データの改ざんが相次いだのには驚きました。大手はしっかりしているイメージがあったので。逆に中小企業は今、ちゃんと検査をしています。大手がやれていなかったのは、大きすぎるゆえに、昔のやり方を変えられなかったのでは。

 今回のデータ改ざんで直接的な事故などはありませんでした。それだけ日本の基準は厳しい。実際、検査はものすごく多い。それゆえ抜けが起きた。基準・規格が多いこと自体はいいことですし、日本のモノづくりのすごさを支えてきたわけですが、製造現場は大変です。

 日本のモノづくりは大丈夫かという声を聞きますが、僕は大丈夫だと信じています。こんな完璧主義の国はないですよ。今回不祥事が明るみに出たのは内部告発から。きちんとうみを出そうとしたのは本当に良かったと思います。僕はそこに希望を見ますね。

 その日本のモノづくりを支えているのが中小企業です。一番の特徴は人と人の距離が近いこと。製造、技術、営業のコミュニケーションが濃密なんです。決められた仕事の枠を超えて、協力し合うところがあります。楽しいからです。そういうコミュニティー感がある。新幹線の台車亀裂問題では、設計部門と製造部門のコミュニケーション不足が背景にありそう。中小に学ぶべきですね。

 不安がないわけではありません。かつては大卒のエンジニアでも最初は製造現場に回されました。その経験で、現場とお客さんの気持ちがよく分かったいい図面が描けたそうです。今は中小でも大卒はすぐに技術部門。育てるには現場を踏ませた方がいいと分かっていますが、そうすると辞めてしまうし、ものだけみれば現場を踏ませなくても変わらないから。日本のモノづくりは「八十点でいい」のに九十点以上を目指しましたが、今は八十点でいいになっている。

 実は、新しいものを創造するためにも現場体験は欠かせない。日本はもともと新しいものを作るのが苦手。その反省から、最近は創造性を育てる大学も出てきました。そういう学生にこそ、現場に来てもらいたい。作り手の苦労や部品の値段、効率性…。それを知らないと実際に作れる「新しいもの」はできない。夢を可能にするすべを知っている「現場上がりのクリエーター」が必要だと思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <みるの・えいじ> 1971年、静岡県生まれ。約10年のエンジニア経験後、漫画家デビュー。日本の製造現場の高い技術を紹介する作品が好評。著書に『シブすぎ技術に男泣き!』など。

 

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