トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

シェアが世界を変える

 「シェア(SHARE)型の経済」は「分けっこの経済」。私有せずに共有で済ませ、新品を買わずにレンタル品や中古品を使う消費文化ともいえる。日本でも急速に広まっている。社会はどう変わるのか。

 <クラウドファンディング> ある目的や志のため、不特定多数の人からインターネット経由で資金を集める手法。クラウド(crowd=群集)とファンディング(funding=資金調達)を合わせた造語。日本のアニメ映画「この世界の片隅に」の制作資金としてこの手法が用いられ、約三千九百万円が集まった例などがある。

◆支え合う共生モデル 起業家、CAMPFIRE社長・家入一真さん

家入一真さん

写真

 戦後の日本では、豊かになることが全ての人に共通の幸せの尺度でした。しかし、大多数の人がエアコンやテレビ、冷蔵庫を持ち、明日の食事に困らない今となっては、際限なき成長は必ずしも幸せの指標になりません。むしろ、過剰な競争主義の波に乗れず、生きづらさを感じる人が増えています。

 行きすぎた資本主義をアップデートする鍵が、シェアです。試みの一つとして、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を運営しています。個人の小さくささやかな夢や熱意に対し、不特定多数の応援者がインターネット経由で小口出資する仕組みです。いわば、お金のシェア。「資金調達を民主化し、誰もが声を上げられること」を目指しています。

 これは、個人の経済状況に左右されず「機会の平等」を保障する金融包摂の取り組みでもあります。美術学校に通いたくて新聞奨学生をした僕自身の原体験があるからかもしれません。

 また、現代の駆け込み寺を目指してシェアハウス「リバ邸」を造り、二十四時間開放しました。大学や会社からドロップアウトしてしまった若者たちに、今いる場所でも家庭でもない「第三の場所」が必要だと思ったからです。失敗しても帰れる場所があると思えるのが心強いようで、新しい一歩を踏み出す勇気につながっているようです。

 シェアとは「支え合う」こと。CAMPFIREでは応援を通じたお金と機会のシェアによって新たなつながりが生まれているし、リバ邸では“弱さ”を分かち合って連帯しました。つかず離れずの距離でゆるくつながるグラデーションのような関係性は、シェアを通じた「新しい共同体」の形です。

 今後の日本は、少子高齢化によって経済が小さくならざるを得ず、生活保護などのセーフティーネットがだんだんと機能しなくなるでしょう。特に現代の若者は、孤独死する恐怖を抱えているように思えます。

 こぼれ落ちても生きていける仕組みを民間からつくらなければいけません。現在構想しているのは、シェアハウスの生活費が安く済む点から着想を得た「人生定額プラン」。月額三万円ほどで衣食住をカバーできないかと考えています。課題先進国の日本だからこそ、世界に先んじた「新たな共生モデル」を生み出せると信じています。

 (聞き手・星野桃代)

 <いえいり・かずま> 1978年、熊本県生まれ。インターネット関連サービスなど多種の会社を起業。著書に『なめらかなお金がめぐる社会。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

◆手軽に副業、皆幸せに シェアリングエコノミー協会代表理事・重松大輔さん

重松大輔さん

写真

 企業の建物や個人の家などのスペースの貸し借り(シェア)を仲介する事業に取り組んでいます。写真関係の仕事をしていた時、結婚式場が平日の昼間空いていることを知り、有効活用できるのではと思ったのがきっかけ。日本の人口は減少しており、今後空きスペースは増える一方。シェアビジネスは海外でも急激に伸びていて「やるなら今」と起業しました。

 シェアビジネスのモラルを支えているものに、相互レビューがあります。「食べログ」のようにサービスを受ける側だけが評価するのではなく、サービスを提供する側もお客さんを評価するのです。きれいに使ってくれた人には良い評価がつきます。無責任な利用が防げ、ホスト側も安心してサービスを提供できます。こうした、今までにないゲストとホストの触れ合いや感謝の伝え合いといったアットホームさがシェアビジネスの面白みと言えますね。

 日本ではシェアビジネスの普及が遅れています。これに対して、中国は圧倒的に進んでいる。国家戦略として国が支援していることなどもありますが、キャッシュレスが進んでいることが大きい。現金ではなくモバイル決済がほとんど。取引履歴が残り、自分の信用が点数化されるのでモラルも保たれています。日本でキャッシュレス化が進まないのは、現金信仰が根強いため。コンビニが普及し、便利にお金が下ろせることが背景にあるのかもしれません。

 シェアの浸透により、今まで以上に効率性を重視する世の中になるでしょう。付加価値が見えない仕事は置き換わってしまいます。一方で、スペースを持っている人はシェアによる有効活用で稼げるようになります。需要自体が拡大する波及効果も期待できます。スペースという資産を持たない人でも、スキル(技術)自体をシェアする道があります。働き方改革で長時間残業が減れば、その時間を使ってスキルアップしたり、イノベーションを起こしたりもできる。やる気さえあれば得意分野を生かし、手軽に副業ができます。

 人口が減少している中、われわれは生産性を上げていかなければなりません。ダイレクトに自分の収益につながり、一人一人が当事者意識をもって働けるシェアビジネスは、皆が幸せになれる一つの方法なのではないでしょうか。

 (聞き手・山本琢之)

 <しげまつ・だいすけ> 1976年、千葉県生まれ。2014年にレンタルスペースのマッチングサイトを手掛ける「スペースマーケット」を創業。16年からシェアリングエコノミー協会代表理事。

◆再分配で格差埋めて 文筆業・海猫沢めろんさん

海猫沢めろんさん

写真

 東京都内の古い民家をシェアして、東京に出張する時に使っています。地方に比べると東京の家賃は三倍くらい。普通に借りられないからシェアしているのが現実です。非正規雇用で不安定な四十代前後、いわゆるロスジェネの結婚率が高くなっているデータがあるそうですが、それは二人になると家賃が半分になるからです。僕らの世代は、経済的な理由もあってシェアと結び付きが強いと思います。

 今、シェアの必要性を痛感するのは育児と介護。四年前くらいに妻が一時体調を崩して、半年くらいワンオペ(一人での)育児になった。近所の保育園に入れず、通勤ラッシュの電車で幼児を抱えて遠くの保育園に通った。地獄ですよ。子育ては誰かとシェアしないと、ひとりでは過酷すぎます。

 昨年出した小説『キッズファイヤー・ドットコム』では、新宿・歌舞伎町のホストが、突然置き去られた赤ちゃんを一人で育てる羽目になる設定です。そこで思い付いたのが、ネットで育児の資金を集める「子育てクラウドファンディング」。出資者は子どもの成長記録を一生閲覧できる。出資者の理想像に設定したのは定年退職した、子どものいないお金持ちの高齢者です。

 実際、数年前ネットで「出産クラウドファンディング」というのがあったんです。何百万円か借金があるシングルの女性が、出産前に銀行口座を公開して寄付を募った。「計画性ないのに子ども産むな」とか炎上しましたけど。結果的にはまとまった額が集まったようです。他の例で、恋人が妊娠した男子大学生の場合は、うまくいきませんでしたが、やり方次第ではまだ可能性があると思います。

 ここ数年IT技術の発達で、車や民泊など、生活レベルでの小さなシェアは進みました。でもシェアで実現してほしいのは、裕福な高齢者と、貧しい若い世代との格差を埋めることです。たとえば、お金持ちの独居老人の富を、恵まれない子どもに再分配するとか。でもそういう話は選挙の票に直結しないので政治家があまり取り組まず、国家レベルでの大きなシェアは進みそうにありません。日本の子どもの貧困は深刻です。もっと大胆な再分配システムをすぐに整備すべきです。小説に取り上げた子育てクラウドファンディングを法制化したらいいのでは、と思いますね。

 (聞き手・出田阿生)

 <うみねこざわ・めろん> 1975年大阪府生まれ。アナログゲーム製作ユニット「RAMCLEAR」代表。2004年、『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。ほかに『愛についての感じ』『零式』など。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索