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北東アジアの非核構想 五味洋治・論説委員が聞く

梅林宏道さん

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 核兵器を全面的に禁止する「核兵器禁止条約」が国連で採択され、市民サイドからの動きも活発化しています。NPO法人「ピースデポ」特別顧問の梅林宏道さん(80)は北東アジアに非核兵器地帯をつくり、核禁止条約参加への環境を整えようと呼びかけています。

 <核兵器禁止条約> 核兵器の開発、使用、保有、実験、核兵器使用の威嚇などを法的に禁止する国際条約。核兵器は非人道的で違法なものであると明示している。2017年7月、122カ国の賛成により採択された。署名手続きが開始され、批准国数が50カ国に達してから90日後に発効する。核保有国や日本は、署名しないと表明している。

◆被爆国の役割全うを NPO法人「ピースデポ」特別顧問・梅林宏道さん 

 五味 難しいと思われていた核兵器禁止条約が生まれ、実現に努力した非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)に、今年のノーベル平和賞が授与されました。

 梅林 核兵器の持っている「非人道性」に着目した条約です。これまで、最も野蛮で、非人道な兵器である核兵器を禁止する条約がなかったのです。長い間非核化に取り組んできたわれわれも、元気づいています。私たちも条約作りの当事者でしたが、どういう内容にするかについては結構、意見の違いがあったのです。私は、今の条約はあまりいい形ではないと思っています。

 五味 というのは。

 梅林 核兵器を国際条約で全部禁止することには賛成です。しかし核兵器保有国があり、その核の傘に依存する日本のような国が存在しています。私は、核に関係する国々も巻き込んだ形を維持しながら、条約作りを進めたかったし、可能だと思っていました。われわれは、現在の条約とは違う形の案も出していました。

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 五味 どんな内容ですか。

 梅林 基本的には、核兵器禁止を先行できる国から禁止に踏み切り、徐々に国の範囲を広げていく。まず「核兵器は禁止し、廃棄しなければならない」という理念と目標を基本条約として書き込み、同意を促す。同意できる国は条約の加盟国になる。核拡散防止条約(NPT)は、核の非人道性という言葉こそストレートに書いていないのですが、その後の加盟国会議で、核保有国は核の完全廃棄を目指す、と明確に合意してきました。

 その文言(「禁止・廃棄」の理念)を新たな条約に書き込み、全体が合意できる文書にする。そして、具体的にどう進めるかは、付属の議定書という文書によって決めていく。このプロセスは、気候変動枠組み条約(大気中の温室効果ガスの濃度を、気候体系に危害を及ぼさない水準で安定化させることを目的とした条約)と似ています。

 五味 その方が、保有国などをつなぎ留めておけるわけですね。

 梅林 そうです。ただし、せっかくの核禁止条約の機運が分散してしまうので、勢いを保つため、簡単な条約作りが選ばれました。しかし、核兵器国はついていけない、日本も追いつけない状態です。米国に核の傘を求める日本の政策が変わらない限り、参加したくても参加できないと思います。私は日本政府が参加できるよう、日本の政策変更を働き掛けていきたい。

 五味 今年、梅林さんは「核のない未来賞」を受賞しました。

 梅林 核の利用をやめることに貢献している人たちに贈られるドイツの著名な賞です。一九九八年に創設され、日本人の受賞は五例目。欧州の人たちは、直接北朝鮮の核の脅威を感じているわけではありませんが、ロシアとの関係でいつも核戦争への危機感を持っています。

 五味 授賞理由となった「北東アジア非核兵器地帯構想」について教えてください。

 梅林 日本と韓国、北朝鮮の三カ国が核のない国になるということを国際条約で決めます。同じ条約で米ロ中の三カ国がそれを尊重し、核を配置せず、脅しにも使わないと約束する。これによって日本は核の傘が不要になります。そして核禁止条約に参加することができます。北朝鮮は自国防衛が核保有の理由で、特異な社会主義建設にしがみついているだけです。ですから非核地帯の構想について、彼らも乗ってくるはずです。これからも構想を国内外に広く訴えて、実現に努力します。

 五味 構想を提唱した当時の反応は、どうでしたか。

 梅林 欧州のNGOが関心を持ってくれ、発表の機会をつくってくれました。実際に中南米やカリブ非核地帯など、世界的にはお手本があります=表参照。さらに米大統領の特別顧問などを務めたモートン・ハルペリン氏が、北東アジア非核地帯という論文を発表しました。彼は米国のアジア政策の中心にいた人。彼の主張の新しい部分は、北朝鮮にとって魅力的なセットを提案し、解決を目指す点です。

 五味 どんなセットですか。

 梅林 休戦状態にある朝鮮戦争(一九五〇〜五三年)で平和条約を締結し、関係を正常化する。北朝鮮はエネルギー支援を求めているので、地域におけるエネルギー支援という枠組みを盛り込む。平和利用に限り原子炉を許す。それをセットとして地域的な安全保障機構を設立し、包括的な条約を作って実行するための監視を行い、制裁も行う。ハルペリン氏の提案については私も参加して、さらに内容を充実させました。核兵器の放棄を約束させることばかりを急ぐのではなく、包括的な問題の解決を目指せば、現状からでも話し合いの場は持てます。

 五味 核の傘の中にいる日本は、核の保有国と非保有国の橋渡し役になれそうにありません。

 梅林 日本が被爆国の役割を果たすにはまず、核禁止条約への敬意の表明と、この条約に参加するための政策変更を検討することが必要です。被爆国は国際社会で特別な地位があり、核軍縮に対して発言力が強いのです。日本には、核兵器をなくせという強い世論があります。これは他の国にはありません。

 この条件を生かすためには、核禁止条約に対して前向きに取り組むことが必要でしょう。日本政府は最近、ICANや核禁止条約を無視していた姿勢を変えて、直接言及するようになりました。その節目は、ICANのノーベル平和賞授賞式でした。しかし、言葉だけ、日本のイメージを和らげようとしているだけです。

 五味 核保有国でも、日本のような核兵器への厳しい世論が生まれますか。相変わらず核保有は当然、と考えるのではないですか。

 梅林 いや、そうは思いません。批判的な声が高まると思います。実は、今度の核禁止条約ができて、最も期待している部分です。核兵器を持っていたら文明国として恥ずかしい、という内容の条約ができたわけですから。民主主義国では核兵器反対の意見が強くなっていくでしょう。欧州の幾つかの国では、変化が起きるとみています。

 五味 北朝鮮の核兵器に対する日本政府の圧力重視の姿勢に同意しますか。

 梅林 安倍晋三首相は、向こうから話し合いを申し出てくるまで圧力をかけるという言い方をしています。降伏を迫るやり方です。地域の平和と安定は、北朝鮮問題の解決なしにはありえない。どうやって外交的に解決するのか。日本政府は、将来的なビジョンを示すべきです。その中において、核禁止条約や非核兵器地帯への姿勢も問われることになるでしょう。

 <うめばやし・ひろみち> 1937年、兵庫県生まれ。東京大大学院修了。大学教員などを経て、アジア各国の市民運動と連携しつつ平和、軍縮、民主化、人権、在日米軍基地問題に取り組む。2008年から現職。

 

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