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考える広場

「施設」と「家庭」−児童養護のあり方

 虐待や貧困などのため、親元で暮らせない子は、国内で約四万六千人。この子らを社会としてどう育てるか。国は今夏「施設より里親を優先」という新目標を導入した。児童養護の現場の声や課題を聞いた。

 <国導入の新目標> 2015年度末で17.5%だった里親委託率を未就学児はおおむね7年以内に75%に、就学後の子は10年以内に50%へ引き上げる。特別養子縁組は5年で倍増の年間1000件以上の成立を目指す。

 施設での養育より、里親らへの委託を優先させる。児童養護の欧米化ともいわれる。

◆人生背負う覚悟必要 4人の子どもと特別養子縁組・西畑宏子さん

西畑宏子さん

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 私たち夫婦には子どもができませんでしたが、二人とも子どもは好きでしたので何か関わりたいと思っていました。今から二十年ほど前、ちょうど自分たちの子どもをあきらめたころ、児童虐待が社会問題になって「そんなに子育てが大変なら何かお手伝いできないか」と里親の登録をしました。

 半年後、「特別養子縁組でお願いしたい赤ちゃんがいます」という話が来ました。小中学生を何年か預かる程度の考えだったので困惑して。断ろう、里親登録もやめるしかないと決めたんですが、最後に一目見てみたいと会いに行きました。何人かの子どもがいる中で、どの子がそれとも告げられず顔を見て、一番かわいいと思った子がその子で。運命だと思いました。それが今大学二年の長女です。

 虐待や貧困の中にある子どもたちの対策として里親や特別養子縁組を進めるのはいいことです。しかし、厚生労働省が目標とする「年千件以上の特別養子縁組」なんて、数字を示したことは評価できますが、今の児童相談所の態勢では無理です。一つは人手不足。児相は、命の危険があり緊急の対応を要する虐待への対応で手がいっぱいです。職員、里親支援員を増やすなどの態勢強化が必要です。もう一つは、職員の意識改革。養子縁組に理解がある職員がいないと進まない。先進的な方の経験や考え方を学ぶ機会を増やすべきです。

 そして一番大事なのは養子縁組を引き受ける側の覚悟です。里親と違い、その子の一生を背負うのですから。私たちも里親登録した最初は、いずれ実の親に返すと思っていました。しかし、児相の方がある時「この子は実の親に返しても今より幸せになることはありません」と言われ、ハッとしたのです。それで覚悟が決まり、自分の子どもとして育てていこうと思いました。ただ、うちの子どもたちは実親の記憶がない生後一年未満で来ています。生後数年虐待を受け、心の問題を抱える子どもは私たちでも難しい。

 養子縁組には、普通の親子関係と同じで、いろいろ苦労はあります。でも、子どもがいなかったら、そんな苦労もできないし、時が過ぎれば笑い話になる。何よりも、自分たちのような者でも「親になってもいい」と言われることほどうれしいことはないんですよ。

 (聞き手・大森雅弥)

 <にしばた・ひろこ> 1963年、福井県生まれ。大学2年から小学5年までの4人の子どもと特別養子縁組。夫の智秀さん(55)と育児に奮闘中。今年3月まで同県里親会会長、現監事。

◆当事者の声を大切に NPO法人・日向ぼっこ

「日向ぼっこ」の渡井隆行さん(左)と木本ゆうさん

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 里親委託率を75%以上にするという数字が突然出てきて、驚きました。当事者の声をちゃんと聞いたのでしょうか。根拠がきちんと説明されていない数字が先行しています。社会的養護は「子どもの最善の利益の追求」が目的です。そのことを考えずに、ただ単に里親委託の数を増やすのが政府の方針だとすれば、「大人の都合」のために数字を出しているようです。

 私たちの団体は当初、施設や里親の元で育った当事者が集まって発足しました。現在は多様性が尊重される社会を目指す、誰もが参加できる団体です。ただ、設立の経緯から、当事者の声を聞く機会が多くあります。今回の国の方針は、施設を悪者にして排斥するかのように見えますが、「里親より施設がいい」という子はいます。

 施設は十八歳で出るのが原則ですが、職員と信頼関係があり「出たくない」と訴える子もいる。家庭で長年怖い思いをして施設に来た子は、里親の元で「新たな家庭」に入ることに不安を感じるケースもあります。

 日本は欧米に比べると血縁を重視する文化で、里親も養子縁組も普及していません。その原因は、実の親が一番だという「家族幻想」です。そのせいで「施設の子はかわいそう」という偏見も強い。でも、日本の施設養護のレベルは決して低くありません。栄養士が献立をつくり、ファミリーソーシャルワーカーがいて親への支援もできる。そうなると単純に里親を増やすより施設を充実させる方が子どもにとって良いかもしれません。労働条件を良くすれば職員の離職率も下げられるでしょう。

 私たちは里親の声も聞いていますが、里親への支援が足りない現状も深刻です。研修はわずか六日間程度で、児童相談所にも相談しにくい。「同年代の里子を持つ人がおらず里親が集まる会にも行く意味がない」と話す人も。登録した里親で実際に子どもを引き受けている人は三割ほど。やる気のある七割の人が受け入れをできない事情をまず調べ、里親の困難を改善する方が先ではないでしょうか。

 貧困問題ひとつとっても、実の親が子どもを育てられない背景には必ず社会的な要因があります。社会的養護の問題とは、社会全体の問題なのです。突然の数値目標には驚きましたが、みんなで社会的養護について考えるきっかけになればと願っています。

 (聞き手・出田阿生)

 <ひなたぼっこ> 社会的養護の当事者団体として2006年に発足、08年にNPO法人化。13年に当事者だけでなく、誰もが参加できる「多様性が尊重される社会の実現」を目指す団体になる。

◆子どもの利益が優先 淑徳大教授・柏女霊峰さん

柏女霊峰さん

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 里親が増えない背景には、児童養護施設が社会的養護の中心を担ってきた事情があります。日本では、施設が足りなくなると委託するというのが実情で、里親はいわば調整弁の役割を果たしてきました。行政側としても、施設に任せるのに比べ、マッチングに手間がかかるため避けられがちだったのでしょう。国連からも、家庭での養育が少ないと言われ続けてきました。

 今回、国の検討会が示した数値は、これまでの計画に比べかなり高い目標です。日本でも、欧米諸国のような水準を目指しなさいという強いメッセージだと捉えています。現在、自治体間での里親委託率にはかなりの差があります。高い目標は、足並みがそろわないことへのショック療法の意味もあるのではないでしょうか。

 ただし、数値目標の達成だけを優先するのは危険です。支援態勢が整わないまま里親を急激に増やし、拙速に委託すれば、虐待も起きかねません。相性の不調で、里親を転々とする子どもが出るおそれもあります。お互いが傷つく可能性も高いでしょう。子どもは実験台ではありません。子どもの利益を守ることが、最も重要です。

 子どもたちが将来、家庭をつくる上でのモデルを見る意味で、家庭での養育に勝るものはないと思います。たとえば、両親が晩酌しながら話しているのを隣で聞き、仕事から帰ってきた父親がすててこ姿で歩いて母親から「あなた、やめてよ」なんて言われる家庭的なやりとりは、施設では見られないわけです。

 もちろん、施設にも長所はあります。虐待された子どもたちは、多様な心の傷を抱えています。自傷他害につながることも多く、専門知識がある施設職員の適切な対応が求められます。

 一方、原則は家庭での養育を目指していくわけですから、大半の施設は、機能転換を図っていく必要があるでしょう。里親の支援をするのにも、職員の専門性は生かせるだろうと思います。現在の施設職員のモチベーションを下げないよう、政府も施設の機能転換に関する考え方を打ち出すべきです。

 まずは、里親の開拓から委託後のサポートまで一貫して行う支援機関を充実させることが大切だと思います。児童相談所が里親を「大丈夫か」という目で見るのに対し、「大丈夫だよ」と寄り添ってあげられる存在が必要です。

 (聞き手・井本拓志)

 <かしわめ・れいほう> 1952年、福岡県生まれ。東京大卒。専門は子ども家庭福祉学。厚生労働省の社会的養育専門委員会委員長。著書に『これからの子ども・子育て支援を考える』。

 

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