トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

女たちの防災論

 今月は防災月間。南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生が懸念され、豪雨災害も多発する。防災のあり方が問われる中、女性の視点を取り入れることが課題に。被災地では女性特有の支援が必要になり、避難所などの運営に女性が関与することが求められている。

◆生活力が頼りになる 女優・瀬戸たかのさん

瀬戸たかのさん

写真

 十九歳の時、神戸の自宅で阪神・淡路大震災に遭いました。地震の前の静けさと、あの時の揺れの怖さが忘れられません。

 発生は一九九五年一月十七日午前五時四十六分。私は当時、学校に二時間半かけて通っていたので、いつもなら既に家を出ているころ。たまたまその日は遅くて良かったのですが、日ごろの癖でしょうか、五時四十三分にぱっと起きてしまった。

 異様な静けさでした。「あれ、いつものスズメの声がしないな」と思っていたら、須磨の海の方からグオーッという地響きが聞こえた。何だろうと思った次の瞬間、建物自体が下から突き上げる揺れに襲われた。とっさに、そばで寝ていた母に覆いかぶさりました。気が付いたら本棚が倒れ、頭が棚の中に入っていたんです。

 数分後、至る所から叫び声が聞こえてきました。うっすら明るくなり、ふと窓を見ると、あるはずの家々がなく、見えないはずの海が見えたんです。やがて音もなく白いものが降ってきた。「雪か」と思ったら違う。焼けた家屋の灰が遠くから飛んできたんですね。

 今まで見たことのない光景をいっぱい見ました。泣いたことのない父親の涙とか。近所のあの人がもういないとか。家の中はぐちゃぐちゃなのに、その日着るはずだったはかまだけが壁に掛かっているとか。

 いまだに時計を身に着けられません。秒針の音が嫌いなんです。地震が発生したあの時刻を意識してしまうから。

 地震の後、印象に残っているのは、やることもなくたばこを吸っている男性たち。それと比べて女性の方が頼りになった。例えば、臨時の公衆電話が設置されたんですが、「長話はしないで皆が使えるようにして」と注意したり。どんな支援物資がどこにあるのかという情報を持ってきたのも女性でした。紙皿はラップをすれば何度も使えるとか、新聞紙はこうすれば役立つとか。生活力があるんです。

 震災の体験を語るのはあまり気が進まない時期もありました。売名と思われそうで。でも、東日本大震災の後は「あの体験を伝えないと」という思いがみなぎりました。日本は地震大国。必ずまた大きな地震が来る。人間は自然の力にはかないません。寄り添って生きていくしかない。そのための備えを忘れないでほしいと思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <せと・たかの> 1976年、パリ生まれ。舞台で活躍するほか、TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター。来年4月、ミュージカル「リトル・ナイト・ミュージック」(東京・日生劇場)に出演。

◆意思決定に参加必要 認定NPO法人レスキューストックヤード常務理事・浦野愛さん

浦野愛さん

写真

 各地で防災講座を開いていますが、昔は参加者のほとんどが男性でした。女性が参加しても、積極的に発言することはまれ。「難しいことは男の人たちに」という雰囲気でした。

 最近は男女共同参画が当たり前になり、女性の参加者が増えるなど変わりました。「女性の防災」について話してほしいという要請も、ここ数年ですごく増えています。

 では被災の現場はどうか。女性はもともと育児、介護、家事など家庭での役割が多いですが、被災地でも炊き出しや掃除という大事なことを任されている。毎日、しかも一日に何度もの作業で、とても大変です。

 子どものサポートも担っています。被災した子どもたちは心的外傷後ストレス障害(PTSD)になることが少なくありません。落ち着きをなくしたり、成績が落ちたり。子どもたちの変化に向き合うのは女性です。

 ストレスが多い避難所生活の中で、男性は「消防団」や「会社」などに逃げることができますが、女性はフラストレーションをためるばかり。性暴力やDVという問題も深刻です。

 このように女性は大切な役割を果たし、負担やストレスも大きい。それなのに、避難所・被災地の運営では軽視されています。重要な決定や指揮は男性が中心になっている。

 まずは女性に配慮した避難所運営が求められます。例えば、女性専用の更衣室やトイレ、物干し場。物資の担当にも女性を入れるべきです。これは、決してぜいたくでもわがままでもなく、女性が元気に活動していくのに必要なことです。

 こういうことは、炊き出しや掃除もそうですが、あまりに日常過ぎてたいしたことではないと思われがち。でも、実は私たちの生きる基盤をつくっている。そして、災害とは、まさにこの基盤が失われるということなのです。

 基盤を取り戻す重要な役割を果たしているのが女性です。女性だからこそ、気付くことがある。避難所では寝る場所で食事を取ることが珍しくない。でも、これは不衛生な上、被災者は動かなくなり、活力を失っていくのです。ある避難所ではリーダーが女性で、食事の場所と寝る場所をきちんと分けていました。女性はもっと自信を持って発言し、運営に関わってほしいと思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <うらの・あい> 1976年、静岡県生まれ。防災NPOとして、これまでに20カ所以上の被災地で支援活動。内閣府の「避難所の確保と質の向上に関する検討会」ワーキンググループの委員も務めた。

◆自分自身どう守るか 防災を通して女の子を支援する大学生・桜井彩乃さん

桜井彩乃さん

写真

 女の子の声を基にした独自の防災ブックを作り、同年代の女性を対象に各地の大学などでワークショップを開いています。防災を教えているのではありません。若い女性として「非常時」に何が必要か、どう自分を守るかを一緒に考えます。それが平常時、つまり今の自分を見つめ直すことにつながるんです。

 たとえば防災キット。救援物資が届くまでの二、三日に必要な物を、毎日持ち運べるようポーチに入れる。おりものシートやデリケートゾーン用のウエットシートがあれば、下着を替えなくても清潔に保てます。紙おむつも防災グッズというと驚かれますが、避難所のトイレは街灯がなく真っ暗なことが多い。被災地では連れだって行っても怖かったという話を聞きました。我慢してぼうこう炎になった人もいますから緊急用です。

 活動を始めたきっかけは、二〇一五年に仙台市で開かれた国連の防災世界会議に参加したことです。会議で被災地の女の子の話を聞いて、衝撃を受けました。子どもでも母親でもない、十八歳以上の若い女性への支援が足りないと痛感しました。それまでは途上国の少女の支援活動に参加してきましたが、日本の女の子こそ支援が必要だと。

 「避難所で知らない人に体を触られた」「友達がレイプされた」という性暴力の話もあれば、「原発事故のせいで将来子どもを産めないから、結婚はできない」と話す子も。結婚=出産ではないのに。「女性が性暴力やDVを受けるのは当たり前だと思っていた」との声も聞きました。女性が抑圧されるのは当然だと思わされているんです。

 ワークショップの後に感想文を書いてもらうと、「実は毎月生理が来ていない」「彼氏にDVを受けている」などと打ち明けてくれる。災害という究極の想定をすることで、ふだん口にできない体や心の悩みを表に出しやすくなるのだと思います。

 震災を風化させないというのは、その教訓を生かすこと。それは被災地でのボランティアに限りません。今、企業の協賛を募り、女子大生が防災とジェンダーや健康を考えるイベントを計画中です。女の子にはたくさんの可能性があり、自分で自分の未来を決められると伝えたい。「災害」の切り口を通じて、今を生きる女の子に自信と生きる力をつけてほしいと願っています。

 (聞き手・出田阿生)

 <さくらい・あやの> 1995年、東京都生まれ。聖心女子大4年。防災を通じて若い女性の自立した生き方を考える「Torch for girls」代表。東京都葛飾区の男女平等推進委員。

 <女性と防災> 内閣府によると、2005年に防災基本計画に男女共同参画の視点が初めて盛り込まれた。しかし、東日本大震災の避難所では、女性が授乳や着替えをする場所がなかったり、「女性だから」と当然のように食事準備や清掃を割り当てられたりする事例がみられた。これを受けて、内閣府は13年、「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を策定。意思決定の場への女性の参画を推進することを求めている。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索