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9条、変える?

 改憲は政治日程に上るのか。安倍晋三首相は「憲法九条の一項と二項は残し、自衛隊の存在を明記」と表明。「自衛隊を国防軍に」とする自民党改憲案と調整し、年内にも国会に提案するという。

 <憲法第9条>

 (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又(また)は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

◆自衛隊明確に認知を 日本漢字能力検定協会代表理事・高坂節三さん

高坂節三さん

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 経済同友会(同友会)は二〇〇一年、経済団体の中でいち早く、憲法問題調査会をつくり憲法論議を始めました。私は調査会の委員長として〇二年に活動報告書、翌年に意見書をまとめましたが、憲法改正が必要という結論になりました。

 なぜ経済人が憲法論議に踏み込んだのか。衆参両院に〇〇年、憲法調査会ができたのが直接のきっかけですが、国際情勢の変化を肌で知る経済人は改憲の必要性を感じていたのです。当時の同友会の会員アンケートでは、実に91・4%が「改正すべきだ」と答えました。

 憲法論議の大きな転機は、一九九一年の湾岸戦争でしょう。日本は憲法の制約上、具体的な動きができず、お金を出すことしかできなかった。しかも、多額の支出をしたのにもかかわらず、クウェートから感謝もされなかった。安全保障に関する日本政府の意識を変えた事件でしたが、経済人としても国際情勢が緊迫したときに日本が何もできないことに危機を感じました。私たちは海外に出て、危険と背中合わせで活動しているのですから。

 憲法九条は矛盾に満ちていると思います。一項は良いとして、二項を素直に読めば自衛隊は違憲です。では、自衛隊をなくしますか? あまりに非現実的です。そこで、こじつけで自衛隊を合憲とする憲法学者がいますが、そんな論理は外国で議論したら通用しない。二項を変えて、自衛隊を認めるしかありません。自衛隊がちゃんとした法体系もないようなあいまいな存在のままでは、現場の隊員は胸を張って活動できません。

 ただ、実際に二項を変えるのは大変なことでしょう。公明党は現在の九条を維持しつつ、新たに条文を加える「加憲」の立場を取っています。改正案を通すためには、安倍首相が最近、加憲の方針を示したのもやむを得ないと理解しています。正直、どう書き加えるかは分かりませんが。

 日本の国を守るためにどうするか。国民皆が考えるべきときではないでしょうか。政治家や学者だけに任せていてはいけない。理解してほしいのは、日本は国際貢献しなければ生きていけないということです。国の形として。かつての日本が悪いことをしたから縛りが必要という意見がありますが、日本はもう普通の国にならないといけません。

 (聞き手・大森雅弥)

 <こうさか・せつぞう> 1936年、京都府生まれ。父は哲学者の高坂正顕。伊藤忠商事常務、栗田工業会長、経済同友会幹事などを歴任。著書に『経済人からみた日本国憲法』などがある。

◆憲法知って議論して 憲法を暗唱する元AKB48・内山奈月さん

内山奈月さん

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 暗唱自体は、小さいころから「方丈記」や「奥の細道」など日本の名文を。母の教えです。憲法は、小学校高学年の時「暗唱したらみんなびっくりするかな」という好奇心から。高校三年のAKB48コンサートで披露するまで、長い時間がかかりました。

 憲法についてレクチャーしていただき、『憲法主義』を共著した憲法学者の南野森(しげる)先生は「専門家でも暗唱している人は少ない」と言われていました。

 先日、教育実習で高校三年生の現代社会の授業もしましたが、日本の若者は憲法への関心が低いと思います。例えば、教科書の末尾に憲法が載っているのを知らない子が多かったし、受験で「憲法の三原則」の言葉は覚えていても、実際に何が書いてあるか気にしたことのある生徒は少ないと実感しました。

 まずは、憲法に一度、目を通してほしいですね。極論すると「お金を盗んではいけない」「信号を守ろう」ということまで憲法に書いてあると思う人もいるのではないでしょうか。憲法は「国民ではなくて国家権力を縛る」存在だということも知ってもらいたいですね。

 『憲法主義』の本を出したり、アイドルをしたりして、そういうことを多くの人に知っていただけるきっかけづくりができればいいなと考えます。この本を読んでいただければ、かなり分かってもらえると思いますよ。中学校の資料集にも『憲法主義』が採用されたんです。

 日本の憲法は七十年間全く変わってませんね。私たちが考えなくてもいい「神聖なもの」になっているんでしょうか。「守るということは何もしなくてもいい」という雰囲気です。別に、「改正されてもいいのかな」とは思います。一般論です。どこをということではありません。

 「九条を変えていいのかどうか」「三項に自衛隊を追加する是非は」は分かりません。ただ、戦力の不保持を定めた第二項は、日本特有の条文だということはみんな知るべきだと思います。日本の憲法の大きなカラーでもあると思います。

 「自衛隊」の三文字の重みをたくさんの人が感じたらいいなと思います。私にとって憲法とは「出発点」です。暗唱したおかげでAKB48でも大きなチャンスをいただきました。そして、日本にとっても、国の政治の出発点は憲法にあると思います。日本は立憲主義の国なのですから。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <うちやま・なつき> 1995年、神奈川県生まれ。2012年AKB48合格。14年、慶応大入学、南野森・九州大教授とのマンツーマン講義を本にした『憲法主義』(PHP研究所)出版。16年、AKB48卒業。

◆独裁保障につながる 詩人・谷内修三さん

谷内修三さん

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 私は詩を読むとき、動詞を中心に読みます。名詞(概念)だと言葉の豪華さにごまかされ、何が書いてあるかよく分からないことがありますが、動詞は裏切りません。誰もが「肉体」を動かして「実行」する。そこに「肉体」があるから、ごまかしようがない。しかも、動詞には主語があります。主語を補って動詞を読むと、書かれていることがよく分かるのです。

 昨年、詩を読むようにして現憲法と自民党の改憲案を読み、比べました。現憲法の九条の主語は一貫して「日本国民」です。日本国民が政府に対し、「戦争をさせない」と言っている。ところが、改憲案では次々と主語が変わっています。冒頭こそ主語は「日本国民」ですが、九条の二で「国防軍は(…)国会の承認その他の統制に服する」と主語が「国防軍」になる。「日本国民」の意思が無視されているのです。九条の三では「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」と、「国」が主語になる。ポイントは「国民と協力して」です。軍隊は一人ではできない。「国」によって兵隊として使われ、殺し、殺される多数の「国民」が必要なのです。つまり、「徴兵制」が含意されていると思います。主語の変更の中に「国」が「国民」を支配するという思想が表れています。

 安倍晋三首相は、現九条を維持しつつ自衛隊の存在を明記する改正方針を新たに提案しました。それを受け、自民党憲法改正推進本部が議論のたたき台として出した条文案は、九条の二として「前条の規定は(…)自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない」としました。現憲法の主語である「日本国民」を押しのけ、条文をさまざまに解釈することを「日本国民」に禁止しているのです。

 誰が禁止するのか。「内閣総理大臣」です。首相が国民の解釈(異議申し立て)を禁止し、権力者として「国」を指揮、監督するということです。この改憲案は単に自衛隊の明文化を狙っているのではない。首相の「独裁」を保障しようとしています。憲法は「国」のためのものではない。「日本国民」である「われら」の、もっと言えば「私」のためのもの。私はそれを「内閣総理大臣」などには渡したくないのです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <やち・しゅうそ> 1953年、富山県生まれ。福岡県在住。詩集『The Magic Box』など。昨年出版された『詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント』(ポエムピース)が反響を呼んだ。

 

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