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リカちゃん誕生50年 「カワイイ」の力

 着せ替え人形の「リカちゃん」が今月、発売から五十年を迎えた。少女たちの夢や秘めたる思いを受け止めてくれるアイドルにして大切な友達。その「カワイイ」の力は今も少女たちを励まし続ける。

◆友達であり心の支え NMB48・市川美織さん

市川美織さん

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 幼稚園のころ、誕生日の朝に起きたら枕元にリカちゃんがいました。外で遊ぶよりはおうちで人形と遊ぶのが好きな子だったので、そこにリカちゃんが加わり、よくおままごとをしました。私にとってリカちゃんは心が通じ合う親友です。

 あこがれの女性でもあります。「きれい」よりは「かわいい」。ちっちゃくて、きゃしゃな体形。ちょっとぷくっとした顔は人間味があり、日本女性のかわいらしさそのものです。ファッションもあこがれ。その時の最先端を行っていて、「こういうの着たいなあ」と。

 私なりに「かわいい」を追究してきました。自分のことをかわいいと思ってなきゃアイドルじゃありません。おうちの外に出る瞬間からアイドルです。ずっとONの状態で、本当の自分を忘れてしまうぐらい。

 ただ、48グループで活動をしていると、かわいいのは当たり前で、プラス何かを持ってないと生き残れません。思い付いたのがレモンというキャラ設定。「フレッシュレモンになりたいの〜●」をキャッチフレーズにしました。悩んでレモン離れをしたこともあります。結局、またレモンキャラに復帰したんですが、その試行錯誤を通じて自分の人間としての一面に気付きました。「リカちゃんにはなれないな」って。でも、失敗をして人間は成長していくと思ったし、そういう分岐点をつくるのも自分って。だから、今の私はアイドル、レモン、人間の三つを兼任しています(笑い)。

 来年公開の主演映画「放課後戦記」は教室で生徒たちが殺し合うハードな映画です。オーディションでは、監督の言葉に触発され、心の奥に隠していた憎しみや悔しさといった自分でも知らない気持ちが表情に出たらしく、それが評価されて合格しました。今後はもっと人間になって、リカちゃんを超えていかなきゃいけないのかなあ。

 でもやっぱり、リカちゃんはいつまでも友達であり、支えです。リカちゃんのように、いつまでもかわいらしくありたい。今、日本の「カワイイ」が世界中で人気ですよね。それは、ずっと子どもでいたいということではなくて、無理して大人になる必要はないということだと思います。かわいいものが好きなら、素直にそう言えばいい。自分をうそで固めるより、好きなように生きる方が魅力的です。

 (聞き手・大森雅弥)

※●はハートマーク

 <いちかわ・みおり> 1994年生まれ、埼玉県出身。2010年、AKB48に加入。14年、NMB48に移籍。8月2日にNMB48の新アルバムが発売予定。主演映画「放課後戦記」が来年公開予定。

◆女の子の願望を映す デザイナー・広瀬和哉さん

広瀬和哉さん

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 私が二つか三つのころ、三歳上の姉と遊び始めたのが、リカちゃん人形との出合い。ごっこ遊びや着せ替えとか。はまりました。中学生になった姉が、人形から“卒業”しても、私一人でひたすら遊んでいました。

 小学校に入ってからは、リカちゃんの洋服を作って着せたり、髪形を変えたり。人形の洋服の作り方の本を買ってもらって。中学三年生で洋服作りの教室に入って「デザイナーになりたい。できればリカちゃん人形の」という夢を抱きました。幼いころからずっと一緒でしたから、人生の九割方はリカちゃんと共にあります。

 私にとって、リカちゃんは「夢」ですね。五十年間人気を保っているのは、女の子より一歩先を歩き、服装や髪形や世相を反映しているからでしょうか。リカちゃんを通じて当時の流行を知ることができます。私が関わる前ですけれど、コギャルやガングロ、ルーズソックスのリカちゃんとか。女の子の願望を反映してきましたね。

 今は、大人もはまっています。ごっこ遊びというよりは、写真に撮って会員制交流サイト(SNS)に上げるような遊び方が広がっています。リアルクローズ、つまり、ご自分が着る洋服と同じようなものをリカちゃんに着せる。そんな二十〜四十代の女性が増えていますね。売り場でひしひしと感じます。

 人形は「アナログ」です。「触れる」という感触は変わらない。バーチャルでは体験できません。ゲームが隆盛とはいえ、基本的な部分はモノであって、自分の指が紡ぐ、みたいな感じであり続けてほしいですね。

 私もこの世界に入る前は「子どもはゲームに夢中で、リカちゃんから遠ざかっているのでは」と思っていた時期もあったのですが、女の子のファンのキラキラした瞳を見ると「リカちゃんの魅力は永遠だな」とうれしくなります。今後少子化の中にあっても、できるだけ多くの子どもにリカちゃんの魅力を知ってもらいたいと思います。

 若い女性が多用する「かわいい」は日本独特の文化じゃないでしょうか。その中にリカちゃんがいる。あこがれや理想をリカちゃんに投影する。自分の着せたい衣服を着せ、写真に撮る。かわいいという感性とリカちゃんの位置付けが結び付く。そうやって楽しむのがリカちゃんの魅力だと思います。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <ひろせ・かずや> 1986年、神奈川県生まれ。「タカラトミー」の版権許諾でリカちゃんを製造するリカちゃんキャッスルのデザイナー。拠点は「リカちゃんキャッスルのちいさなおみせ」(東京)。

◆性別の役割から解放 評論家・榊山裕子さん

榊山裕子さん

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 リカちゃんをはじめとした新しいファッションドールの登場によって、女の子の人形遊びの意味は大きく変わりました。それまではミルク飲み人形に代表されるような幼児体形の人形が多く、女の子は母親のように人形の世話をして遊びました。これは「家族の世話をする」という旧来の女性の性役割を継承、反復するものでもありました。

 それを変えるのに大きく貢献したのが、一九五九年に米国で誕生したバービー人形であり、日本ではリカちゃんでした。日本の女の子は、すらりと細い手足、小学五年生という年齢設定のリカちゃん人形に「少し未来の自分」を投影して遊ぶようになりました。

 リカちゃんの服を着せ替えながら、自分の好きなファッションを選ぶ。客室乗務員の制服を着せ、「こんな仕事がしたいな」と将来の職業を思い描くこともできる。「リカちゃんハウス」は、当時まだ珍しい洋風の居間でした。遊びながら、「こんな家に住みたい」と思ったかもしれません。

 ファッション、生活様式、仕事…。少女たちは遊びながら、「個人」としてそれらを選ぶわけです。伝統的な性役割から解放され、女の子が主体的に自分の人生を選択する。遊びを通して、そういう経験を積み重ねていくことが、どれほど女の子たちを勇気づけたでしょう。

 バービー人形を発案したのは、米の玩具メーカー・マテル社で、後に社長にもなったルース・ハンドラーですが、彼女は、自分の幼い娘が「未来の自分」を女児人形に重ね、楽しそうに遊ぶのを見てひらめいたといいます。

 昨年末には、フランスのパリ日本文化会館で、「リカちゃんは『カワイイ』の象徴」と題した展覧会が開催されました。「カワイイ」は、欧米的な男性目線の「美」とは異なる魅力で、注目されてきました。リカちゃんはバービーと比べて頭が大きく、身長が低い。均整のとれたグラマーではないからこそ、男性の愛玩する対象ではなくなる。日本では「かわいらしくあれ=従順であれ」という基準が女性を縛りがちですが、欧米では逆に、「カワイイ」ことが、既成の「美」の基準から女性を解放する一面もある。こうした価値観の変容が、国境を超えて、日本における「かわいい」のあり方をも変えていくのかもしれません。

 (聞き手・出田阿生)

 <さかきやま・ゆうこ> 1956年、東京都生まれ。美術と人形、ジェンダーと精神分析をめぐる論考や記事を「美術手帖」などに寄稿。近刊予定にハンス・ベルメール論『ベルメールから』(仮題)。

 <リカちゃん> おもちゃメーカーのタカラ(現タカラトミー)が1967年7月4日に発売した着せ替え人形。高さ21センチ(現在の4代目から22センチ)で、頭が大きめの5頭身。スタイルが良く大人っぽい米国産のバービー人形に比べてかわいらしい姿が親近感を与えた。一方で、キャラクターの設定は日本人の母とフランス人の父のハーフ、名前も当時多かった「○子」とは一線を画す「リカ」と少女漫画的で、少女たちの夢やあこがれを刺激した。

 

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