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考える広場

一杯のコーヒーから始まる話

 その苦さに加え、供される喫茶店の雰囲気も相まって大人の飲み物だったコーヒー。今やコンビニなどでも簡単に飲めるようになった。なぜこんなに人を引きつけるのか。そこから何が見えるのか。

 <コーヒー> 現在最も生産量が多い品種はエチオピア原産。6世紀ごろにアラビアへ伝わり、栽培化された。17世紀には欧州各地に広まり、日本にも明治以降、本格的に伝来した。コーヒー、喫茶店ともに進化を重ねており、最近は、インスタントコーヒー、「スターバックス」などのシアトル系カフェに次ぐ「サードウエーブ(第3の波)」として、コーヒーの産地にこだわり、入れ方に工夫を凝らす「ブルーボトルコーヒー」などのカフェが人気だ。

◆味と香りのとりこに 女優・戸田菜穂さん

戸田菜穂さん

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 毎食後、飲んでいます。旅行にも持っていきます。ロケに持参することも。コーヒーのない生活は考えられません。

 出合いですか? 高校生の試験勉強ぐらいからでしょうか。小さいころは「まだだめ」と言われていましたが、両親が楽しそうに飲んでいたのを見て育ちました。「コーヒー=大人」というイメージでしたね。

 最初はカフェオレが好きでした。フランス映画にかぶれたころは、カフェオレボウルを買ってきて。ペーパードリップのコーヒーとミルクを半々で。ミルクは鍋で温めます。濃くなっておいしくなります。大学でフランス語の先生に教わりました。

 今は、ブラックです。好みはこくと苦味。豆はケニアが一番好きです。おいしい入れ方を専門店のマスターに教えてもらいました。コーヒーの粉を入れたら渦を描く。その中心に向かってお湯を少し注いでやめる。二十秒待ち、残りのお湯をゆっくりと注ぐ。奥深いです。

 そのお店は、学生時代の家の近所にありました。口の細いやかんで入れるとおいしいというので、マスターは、たたいてつぶして、さらに細くしていました。すごいこだわりがあった。コーヒーは味もさることながら、まず香りです。風邪のときに飲んでも全然おいしくありません。「コーヒーを飲みたい」と思う日は元気なんですよ。

 いろんなお店へ出掛けます。俳優の森繁久弥さんが通ったという東京・千歳船橋の堀口珈琲(コーヒー)さんや京都、三重の伊勢志摩、金沢。地方へ行くと、クンクンと、雰囲気のありそうな喫茶店を探します。「あの路地裏に?」とか。ちゃんとあります。

 フェアトレードにも関心があります。産地国の人たちの生活を安定させるために、豆の価格が多少高くなっても構わないと思います。チョコレートでもそうですよね。カカオ豆を採っている子どもたちがチョコを食べたことがない例もあるそうで。

 こだわりのある頑固おやじがやっている喫茶店が好き。ドアを開けたらカランカランと鳴って。地味で。薄暗くて。レコードがかかっていて。お店に入ったところから、コーヒーは始まっているのです。

 先日、私が知らない間に、三歳の子どもが、私の飲み残しのカフェオレを「おいしい」って飲んで、パパに叱られていました。私の血を引いたのでしょうか。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <とだ・なほ> 1974年、広島県生まれ。93年、NHK朝ドラ「ええにょぼ」主演。今年、映画「ラスト・プリンセス」順次公開中。8月放送のNHKBSプレミアムドラマ「返還交渉人」でヒロイン。

◆最高品質の豆求めて 井崎珈琲有限会社代表取締役・井崎克英さん

井崎克英さん

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 これ、飲んでみてください。すごいでしょ。試飲用の冷めたやつだけど、その方が豆の持つ本来の味が分かる。桃のような香りがしますか? とっても爽やかでしょう。

 素晴らしい風味、滑らかな舌触り、甘い後口…。そんな、世界でもトップレベルの味わいを持つコーヒーを「スペシャルティコーヒー」といい、うちはその専門店です。難しいことはありません。簡単に言い換えれば、「おいしさをひたすら追求したコーヒー」でしょうか。

 よく「九〇度くらいまで冷ましたお湯で入れるといい」といわれますが、あれは雑味を出さないため。豆が上質なら、グラグラにわかした熱湯で入れた方が、コーヒーの持つおいしさが抽出されます。ファストフードの店にあるような機械を使っても素晴らしい味になる。驚かれますよ。

 もともと、友人と学習塾を開いていました。経営は順調でしたが、だんだんやりがいを感じられなくなった。精神的に行き詰まったとき、偶然、行きつけのコーヒー豆屋が閉店するので「後をしてくれないか」という話が飛び込んできた。今から二十年ほど前のことです。

 やるからにはおいしいものを。生来の凝り性で、当時普及し始めたネットで探し、二〇〇一年に同じ志の仲間が集まる勉強会に参加しました。商社から買うのでは、特別な豆は手に入らない。仲間と一緒に、その国で最高のコーヒーを決める品評会「カップ・オブ・エクセレンス」(現在はブラジルなど十カ国で開催)で入賞した豆を競り落とし、輸入したりもしました。私たちが、日本でスペシャルティコーヒーの輸入を始めた草分けだと思います。

 世界中のコーヒー産地や農園を回り、買い付けをしています。直営が九店舗になりましたが、自分の意思で出したのは一店舗だけです。うちのファンになった常連さんたちが「テナントに入ってほしい」と言ってくれて、ここまで広がりました。大手建設会社の人が駅の再開発工事中に常連になり、工事後にビルの一角にお店を出すことになったりね。

 抜群にうまいコーヒーを、気軽に、手ごろな値段で。お客さまに「おいしい」と喜んでいただくことが何よりうれしい。何といっても「たかがコーヒー」ですから。

 (聞き手・出田阿生)

 <いざき・かつひで> 1953年、福岡県生まれ。同県内でスペシャルティコーヒーの専門店「ハニー珈琲」「リトルハニー」「カフェミエル」を展開。カップ・オブ・エクセレンス国際審査員。

◆欧州、イスラムの共作 東京大名誉教授・臼井隆一郎さん

臼井隆一郎さん

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 十七世紀ごろから、英国やフランスに次々とコーヒーハウスが誕生します。人々が不満をしらふで語り合い、議論を集約する場になりました。ごく日常の不平不満を打ち明けられる場所です。それが、英国の清教徒革命や、フランス革命につながっていくのです。

 コーヒーハウスは情報が集約する場ですから、新聞や雑誌、ジャーナリズムが生まれます。郵便事業も発展します。保険で有名なロイズも英国のコーヒーハウスから生まれました。フランスにはいわゆるアジテーションカフェといって、特定の人が演説するコーヒーハウスもありました。

 そういったさまざまなエネルギーが生まれて、その機能がコーヒーハウスから飛び出し、国家組織化されて近代市民社会は形成されていきます。しかし、日本の喫茶店にはそういったエネルギーは感じないですね。隣の人に話し掛けたり、いきなり演説したりしたら、変なヤツに思われちゃう。そもそも、日本の近代化自体が外国のものを取り入れて成り立っていますから、エネルギーが生まれる余地はなかったかもしれません。

 欧州のコーヒー・カフェ文明はイスラム世界と欧州の文化的共同作業の成果と言えます。大航海時代の十五世紀ごろから商品としての「コーヒー」がアラビア世界で出回り始めています。コーヒーの生産地は、当初はイスラム世界。イスラムの豪商たちは欧州世界にコーヒーを売るためにいろいろな努力をしました。

 プランテーションの奴隷労働や搾取の問題については、当時から無理解だったわけではありません。ある程度、問題は認識されていました。大量消費されるものは奴隷労働がはびこりやすいということを意識して、企業と消費者が「生産者に利益還元します」という姿勢を、もっと明確にする必要はあるでしょう。

 欧州とイスラム世界は今、敵対するような格好をとっています。そもそも、欧州のルネサンス自体がイスラムの古代知識によっていますから、近代的な欧州とアラビア世界は、私は一つの文化帯のはずだと思っています。シリア難民でもめているのも、非常に皮肉な時代です。そういう時代だからこそ、私たちはコーヒーとカフェの歴史をあらためて、最初から見直す必要もあると思うのです。

 (聞き手・秋田佐和子)

 <うすい・りゅういちろう> 1946年、福島県生まれ、静岡県育ち。専門はドイツ文学。『コーヒーが廻(まわ)り世界史が廻る』『アウシュヴィッツのコーヒー』など著書多数。

 

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