トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

「もんじゅ」いるの?いらないの? 飯尾歩論説委員が聞く

 「もんじゅ」。菩薩(ぼさつ)の名前を頂く原子炉は、発電すればするほど、そのエネルギーを増やすことができるという、ばら色の夢の礎になるはずでした。ところが、運営主体の不手際によるトラブルが相次いで、ついには「金食い虫」の汚名を着せられ、今や廃炉は避けられない。もんじゅは、いるの、いらないの? “原発銀座”を抱える福井県から国の原子力行政を監視し続けてきたという、福井工業大の来馬克美教授と共に考えます。

◆地方の苦悩忘れずに 福井工業大教授・来馬克美さん

来馬克美さん 

写真

 飯尾 トラブルに次ぐトラブル。二十年以上、ほとんど止まったまま。それでいて莫大な維持費がかかる「もんじゅ」。世間の批判に黙って耐えて、何だか、かわいそうな気さえする。このまま廃炉にすべきでは。

 来馬 この高速増殖炉ってのは、今一代でものを考えてはいけません。「長計」だと思うんですね。すなわち百年。国家百年の計とまでは言いませんけど、そういう大きな目標を掲げて、研究開発、あるいは人材育成をしていくものだと思うんです。

 ここに百年の課題がある。世界がまだ答えを見つけていない。やるかやらないか。誰かが完成させるのを待って、それからやるという話もある。でも私は今、もんじゅを舞台から降ろすべきではない、降ろしてはいけないと思うんです。

 飯尾 たとえ見果てぬ夢だとしても?

 来馬 いつまでに実用化する、という議論はあるにしても、高い目標を掲げて、そこに向かっていくことで、技術と人材は育ちます。たとえば二〇五〇年までにという議論をすれば、三十四年ありますね。われわれにとって、もちろん実用化は夢ですが、今二十歳の学生はそのころ五十代。彼らが完成させられるかもしれません。

 飯尾 持続可能であるためには信頼関係が不可欠ですね。取り戻すことは可能でしょうか。

 来馬 地元とすれば、いわゆるプレーヤーは、JAEA(日本原子力研究開発機構)であり、場合によっては、まあ原子力規制庁か、資源エネルギー庁か、文部科学省かは別にして政府ではありますが、われわれ地域住民、あるいは地域は、プレーヤーではないものの、ずっとかかわってきたわけです。応援してきたわけですね。

 ところが、今までサポートしてきた側にひと言の相談もなく、あしたもうゲームセット、経営の都合でやめますじゃあ。金返せとか、そういう話じゃないけれど、今まで何のために応援してきたんだろう、一緒に戦ってきたんだろう、プレーヤーっていったい何だろうという気持ちになりますよ。ならない方が変でしょう。

 飯尾 高速炉の研究に切り替えてはどうでしょう。

 来馬 高速炉は高速炉、高速増殖炉は高速増殖炉なんですよ。Jリーグに例えれば、J1がだめならJ3でという話じゃない。

 軽水炉(普通の原発)で使用済みの燃料からプル(トニウム)とか、マイナーアクチノイド(プルトニウム以外の超ウラン元素)とかを採ってきて、高速炉で燃やす。高速炉、つまり単なるバーナーなんです。高速増殖炉では、ただ燃やせるだけでなく新しい燃料も作り出せるという、高いレベルのお話なんです。究極のゴールというか、今までこうしてやってきたのは、ウランの有効利用という大義名分があるからなんですよ。

 飯尾 プルトニウムは原爆の原料にされるという嫌悪感がありますし、むしろ減らすべきではないですか。

 来馬 発電所から出てくる使用済み燃料には、ウランとプルトニウムが混ざった状態で入っています。雑味の多い汚いプルトニウムなんですよ。爆弾にするには純度の高い、きれいなプルトニウムが必要です。だから日本では混合再処理といって、ウランとプルトニウムを分けず、汚いままにしておきます。軍事転用など絶対にできないようにしてあります。

 飯尾 「原子力を地方自治から見る立場、または地方が中央の原子力を監視する役割を担うべきと考えて取り組んできた」。プロフィルに、そう書いていますよね

写真

 来馬 県庁に入ったのが一九七二年。日本の本格的な原子力発電所は七〇年から始まっています。今回のもんじゅじゃないけれど、放射能は漏れない、影響はない、事故はない、要するに何もない、安全だ、だけど地元にお金は入る、みたいな話でした。ところがその年に美浜原発が運転を開始して、一年もたたないうちに、水が漏れるだの、燃料に穴が開いただの、いろいろな問題が出てきたんです。

 福井県は、今の安全協定の前段として、関西電力と「覚書」を交わすんですが、何かあれば連絡しますよという話ですから、連絡を受ける県庁側に、その内容を理解できる職員がいないといけません。当時県内では、敦賀、美浜、高浜がすでに建設中だったと思います。そこで急きょ、原子力の専門家を県庁の中に持たなきゃいけないというニーズが出てきて、地元出身の僕に声がかかったんです。大学で原子力をやって専門職として地方自治体へ行ったのは、恐らく僕が初めてでした。

 飯尾 そして何を見たんでしょうね。

 来馬 例えば、放射能漏れ事故の現場に身を置いてみて、国や電力とのやりとりの過程で、ものの見方の違いというか、極端に言えば、地方って相手にされていないなとか、やっぱりこのままじゃいけない、われわれが実力を付けて、国あるいは電力と対等にやりとりをする必要があると実感させられました。

 それからずっと、レフェリーというのはおこがましいですが、第三者としてものを言う、そのやり方はおかしいぞ、もっとこうあるべきではないか…。ずっと言い続けてきたんです。その意味では、まあ“番犬”なのかもしれません。まじめにやらなきゃ、ほえつくぞとね。

 飯尾 その“番犬”として、もんじゅを残せと訴えている?

 来馬 高速炉の開発会議、関係閣僚会議というものが、お金のかかるもんじゅを廃炉にすべきかどうか、年内に結論を出そうとしています。その中に地方は入っていませんね。国民一般の理解とか、いろんなことがあるにせよ、利害関係者、いわゆるステークホルダーであるべき地方をきちんと説得できないままに、廃炉を進めていくというのは、無理がある。監視という言葉が適当かどうかは別にして、注目して見守ってきた、ずっとウオッチしてきたという立場はずっと、一貫しているわけだから。きちんとした理解というか、ちゃんと理由を説明するなり、意見を聴くなり、そういうプロセスを経ないでね…。

 飯尾 東京で偉い人たちが集まって、立地地域を蚊帳の外に置いたまま、再びその運命を変えようとしていると−。

 来馬 原子力の安全は福島以降、特に大事というか、もちろん最優先。もっともわれわれは、福島以前から最優先でやってきました。だけど、もんじゅのある白木という地区は、もし、もんじゅなかりせば、廃村の淵にいた。トンネルもない、道路もない、孤立した漁村。次の世代、次の次の世代がそこで生き続けるためには、このままでいいわけない。じゃあ何がある。一生懸命考えたのだろうけど、その時なされた提案の一つが、もんじゅ。そこで悩んで、苦悩して、一度は拒否しているんです。全戸移転と言われたからね。村を残したい一心でここまで共生を続けてきた。お金がじゃぶじゃぶ入っていいねという話ではないんです。

 <くるば・かつみ> 1948年、福井県生まれ。大阪大工学部原子力工学科卒。72年、初の原子力専門技師として同県職員に。99年5月から5年間、原子力安全対策課長を務めた後、エネルギー研究開発拠点化担当の企画幹。2009年に県庁を退職し、財団法人若狭湾エネルギー研究センター専務理事を経て、12年から福井工業大工学部原子力技術応用工学科教授。

 <高速増殖炉> 高速中性子による核分裂を利用し、発電しながら、消費した以上の燃料を生み出す“夢の原子炉”。一般の原発から出る使用済み燃料を再処理し、ウランとプルトニウムを混ぜ合わせて作ったMOX燃料を使う。福井県敦賀市の「もんじゅ」は実用化2段階前の原型炉。1995年12月、冷却材のナトリウム漏れが発生。以来トラブルが相次いでほとんど稼働できていないにもかかわらず、維持管理に巨額の費用がかかるとして、政府は今年9月、「廃炉を含め抜本的な見直しをする」との方針を打ち出し、年内に結論を出すという。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索