トップ > 特集・連載 > 考える広場 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

考える広場

日銀よ、どこへ行く

 日銀(黒田東彦(はるひこ)総裁)の異次元緩和は、行き詰まってはいないだろうか。今までにない政策で期待を集めたけれど、トリクルダウン(富は、富者から貧者へ自然にしたたり落ちる)の状態からはほど遠く、右肩上がり経済の限界も指摘される。三人に聞いた。

 <異次元緩和> 2013年に就任した日銀の黒田総裁は「13年4月から2年程度で物価を前年比で2%上げ、デフレから脱却する」と宣言し、大量の国債を買い入れる金融緩和をスタートさせた。今年2月にはマイナス金利を導入するなど、市場を驚かせるサプライズ政策を続けたが、物価上昇率はマイナス圏。日銀は今月1日の金融政策決定会合で「2%」の達成時期を「17年度中」から「18年度ごろ」に先延ばしした。目標延期は5回目。

◆何を言うかワクワク 俳優・細川茂樹さん

細川茂樹さん

写真

 株を二十年弱やっています。父親が銀行員だったので、小さいころから小遣い帳をつけ、自分で通帳や印鑑を管理して、窓口でお金を下ろしていました。投資にハードルは高くありませんでした。企業が良い商品やサービスを作り出すための応援のつもりです。「お金に働いてもらう」という感覚ですね。

 アベノミクスになったときは、まあびっくりしましたね。投資を始める前の学生時代、「大人は株価の上下で何で一喜一憂するんだ」と思っていましたが、日銀が動くとどうなるんだというのが分かった。最初の一年半ぐらいは、すごかった。数字だけでなくて、投資の楽しさや結果、先読みが刺激的でした。壁を抜けた感じがありました。(民主党政権時の)塩漬け状態が解けたかなと思いました。

 日銀の政策が行き詰まったと言われますが、失敗とは思っていません。経済界が日銀についていけない。内部留保を減らそうとか、足並みそろえて給料を増やそうとか、人を大勢雇おうという状況ではない。でもそれは織り込み済み。すぐ結果が出ることではないと思います。

 僕は、日銀が何を言いだすのか、ワクワクして見ている。黒田バズーカの次は黒田ロケット? 米国大統領選でトランプさんが当選しました。変えてほしいという有権者の思いでしょう。それは日本経済にも言えて、黒田さんの発言で日本全体の経済や私たちのお金が回っていくことになると思うんです。

 どうやってお金を回すか。例えば「ベーシックインカム」。国が、国民一人一人に一定額のお金を支給する。生活保護者も年配の方々も、医療費もそれでやってくださいと。職がない人もその手当でやってくださいと。部分的にでも導入してみれば、多少変わるかもしれません。

 日銀は「司令塔」かもしれないですよね。サッカーなら、日銀から絶妙なスルーパスが出たんだけれども、それをゴールする俊足力がなかったり。良い球でも追いつけないよとか、今ちょっとそういう状態かもしれませんね。

 ピンと来ない人が多いと思うんです。日銀と言われても。でも最終的に影響を及ぼすんです。ハーフタイム終わったけど、えっウチ負けてるの? 誰のせい? 日銀がそういうパス出したけど、決めきれなかったから−。そんな存在でしょうか。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <ほそかわ・しげき> 1971年、岐阜県生まれ。家電、住宅、車、投資が趣味。著書に『家電俳優』など。FMラジオ局J−WAVE(ZIP−FM)で『TOYOTA DRIVE IN JAPAN』のDJも。

◆緩和、庶民に功罪両面 住宅ジャーナリスト・山下和之さん

山下和之さん

写真

 黒田さんが総裁になって最初にやったのが異次元の金融緩和です。その結果、長期金利が下がって住宅ローンも下がりました。長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の金利は、黒田さん就任の前後で約1・8%から約1・0%に下がっています。これだけ見ると、住宅は大変買いやすくなりました。

 一方で、資金の流動化が起こり、中国などアジアを中心にお金が日本の不動産に流入。東京では住宅価格がむちゃくちゃ上がりました。今、東京の新築マンションは平均五、六千万円。二〇一二年と比べると一千万円上がっています。サラリーマンの平均年収の十一倍ですから、なかなか手が出ません。

 これは平均の話で、実際は二極分化。東京・南青山でこの秋、売り出されたマンションは最高値が十五億円でバブル景気崩壊後の最高価格です。一方、場所を選ばなければ、東京でも三千万円で買えることもある。

 東京と地方との格差もあります。近畿圏は首都圏ほどには上がっていません。住宅価格が上がった分と金利が下がった分が相殺される感じです。ほかの地方は金利が下がった分、買いやすくなっているでしょう。名古屋圏はメリットが出るか出ないかの境界線。金沢は北陸新幹線効果で住宅価格が上がり、今は近畿圏レベルです。

 黒田日銀の政策はお金持ちにとっては資産価値が上がりプラス。庶民には功罪両面。東京の庶民にとっては住宅が遠くなったという意味で犯罪的ですね。

 経済効果の面でも、住宅需要に大きな動きがありません。一つは、金利がだらだらと動かない状況にあるためです。今回、消費者物価の目標も先送りしました。「金利はまだ下がる」という中では、あせる必要がないから消費者は動きません。もう一つは先行きの不透明感です。二十年、三十年ローンを抱えるわけで、将来の自分に自信が持てないと買えません。

 こんな超低金利は未知の世界で、実体経済への影響は不明。住宅ローンだけ下げても効果は限定的でした。その意味で黒田さんの政策は失敗ですが、インフレを抑制すればよかったころとは時代も違う。大変でしょうね。それに安倍さんの責任も大きい。景気をちゃんと良くできていない。国民も新しい事態に慣れていない。国民自身がもっと自信を持つべきなのかもしれません。

 (聞き手・大森雅弥)

 <やました・かずゆき> 1952年、鹿児島県生まれ。住宅・不動産分野を中心に執筆、講演活動を続ける。近著は『マイナス金利時代の住宅ローン』(日本実業出版社)。ブログは「山下和之」で検索。

◆限界見えた金融政策 マネックス証券執行役員チーフ・アナリスト・大槻奈那さん

大槻奈那さん

写真

 日銀は国の「中央銀行」と呼ばれ、お金の流れや物価、景気を安定させるのが仕事です。二〇一三年三月に就任した黒田総裁が大規模金融緩和を始めました。ひと言で言うと、世の中のお金の量を大幅に増やすこと。お金を人々に届けて使ってもらえれば、企業にもお金が回って給料も増える。日本全体を人の体に例えれば、血の巡りを良くする狙いですね。想定通りなら物価も上がります。今回の政策を始める前、物価は二十年ぐらい停滞していました。物価が下がっていれば人々はお金を来年に使う方が得だから、ため込んで使わない悪循環に陥ります。この解消を狙ったわけです。

 政策の導入で金利が低くなるなどした結果、いくらか血の巡りが良くなってきたとはいえます。ただ、お金が日銀から銀行には行くけれど、貸し出しが思ったほど増えず、その先になかなか届かない。いわば血栓ができてしまっている状況です。日銀は今年二月、血栓を溶かしてお金が流れるようにマイナス金利を導入しました。これは銀行が、ためたお金を日銀に預けたり国債を買ったりすると、一部に損が出てしまう仕組みです。銀行にとって貸し出しに回す方が「マシ」という環境をつくって、お金が回るようにしたわけです。ただ、そこまでしても貸し出しの勢いは強まりません。

 日銀は九月に目標の物価上昇率前年比2%を安定して超えるまで、ずっと政策を続けると言いました。だけど、人々が物価が上がると信じるのは恐らく難しい。人々がお金を使わないのは、預貯金の利息がほぼゼロまで下がり将来不安が高まったのが一つ。それに住宅ローンの金利は下がりましたが、マンションなどの価格は上昇し、購入しやすくはなっていない。アンケートをすると、一年前と比べ家計を「引き締めている」との答えが圧倒的に多い状況です。

 投資家も特にマイナス金利を嫌がる傾向が強い。金利を下げすぎた弊害です。これから物価を上げるために何かやれるのは、日銀より政府でしょう。企業がため込んだお金を従業員に回るようにするため、賃上げを呼び掛けるだけでなく、必要な税制を整えるなど、知恵を絞るべきではないでしょうか。日銀自身ができることはほぼないと言ってよく、もはや下手に金融政策を動かさない方がいいと思います。

 (聞き手・渥美龍太)

 <おおつき・なな> 茨城県出身。東京大卒業後、MBA(経営学修士)を取得。UBS証券などさまざまな金融機関でアナリストとして活動。今年1月から現職。名古屋商科大教授を兼務。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索