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配偶者控除と女性の生き方

 政府が配偶者控除の廃止を検討する動きを見せた。結局、廃止は見送られたが、同控除の是非だけではなく、働き続けるか、主婦になるかという女性の選択を問う議論が再燃している。三人の論者に聞いた。

 <配偶者控除> 配偶者の年収が103万円までは世帯主の課税の対象となる所得から38万円を差し引く制度。

 共働き世帯より少なくなった「片働き世帯」(夫が働き妻が専業主婦という世帯が典型)の優遇との批判がある。また、収入を103万円以内にしようと労働時間を少なくするパート労働の女性も多く、問題になっていた。

 政府・与党は9月から、配偶者控除に代わる夫婦控除などを検討したが、専業主婦世帯の反発が予想されることから当面の見送りが決まった。

◆長時間労働解消が先 看護師、著述業・宮子あずささん

宮子あずささん

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 配偶者控除は廃止した方がいいと考えています。国が定めた条件を満たす人を対象に税金を控除する今の形では、国が生き方の価値を決めることになります。控除よりも、収入に合わせて育児や介護に対して必要な支援をするのが、格差を縮小する見地からも妥当な方法ではないでしょうか。

 そう思っても、配偶者控除は女性同士では話題にしにくいんです。へたをすると、働いている女性と専業主婦の女性の争いになりかねない。「私の生き方を認めないのか」という。実際には、働く女性も専業主婦もそれぞれ、複雑な思いを感じているのに。

 働く女性は「女性活躍社会」の矛盾を感じています。「活躍」と言いながら、働く女性の環境は良くなっていない。例えば、PTAは「(会議には)お母さんが来てください」というのが強かったりするのに、父親の方は「仕事が忙しい」の一言で済んだりする。不公平です。

 家事負担が女性に重い現状では、やむなく専業主婦を選んだ人も多いはず。それでも、人間は不本意な人生を歩んでいるとは思いたくありません。有能な人ほど、自分の人生の可能性をあきらめたとは思いたくないから「私は主婦を選んだ」と言いがちなのではないでしょうか。

 そういう女性の複雑な思いに男性は本当に鈍感。実は男性の問題でもあるんですよ、主婦の問題は。男性がもう少し普通に女性と一緒に家庭を切り盛りしていたら、女性がこんな思いをしなくてもいいわけで。そういう意味では、「忙しい」が標準になっている男性の長時間労働をやめさせることを問題解決の出発点にすべきだと思います。

 女性の生き方についていえば、今までの話とこれからの話は分けて考える必要があります。私は、今後の制度設計としては夫婦共働きを標準とする方向に変えなければいけないと思っています。だからといって、今ある専業主婦という生き方を否定するべきではありません。

 考えてみれば人間って、生まれてくるときから自分で選んでいない。選択肢がなく、心ならずも選んだときでも、自ら選んだようにその責任を引き受けて生きている。そういう人間の悲しさを認め、互いの生き方を尊敬し合った上で、あるべき家族、働き方の姿を考えるべきではないでしょうか。

 (聞き手・大森雅弥)

 <みやこ・あずさ> 1963年、東京都生まれ。明治大中退後に看護師になる。博士(看護学)。東京新聞(中日新聞東京本社)で「本音のコラム」を連載中。近著は『両親の送り方』(さくら舎)。

◆主婦の安全網は必要 経済ジャーナリスト・荻原博子さん

荻原博子さん

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 配偶者控除の廃止って、結局は増税です。六千億円の増税。衆議院に解散風が吹いており、選挙前に増税するのはまずいという話ですよね。家庭を敵に回したくない。もし選挙があれば、その後に再燃しますよ。廃止は財務省の悲願ですから。

 私は廃止には大反対です。配偶者控除は、矮小(わいしょう)化されて「働く女性VS専業主婦」の図式にはめ込まれていますが、違います。配偶者控除はセーフティーネット(安全網)なんです。奥さんは家庭でボーッとしているわけじゃない。子育てしたり、介護したり、いろんなことをしていますよね。それに対する手当として設けられたのです。

 今、女性がそういうことから解放されているかというと、全く逆。子どもを保育園に入れたいけど、保育園がなくて入れられない。要介護1、2のお年寄りは、ご家庭で面倒を見なければいけなくなっています。誰が担うんですか。ダブルケアをしなければならない、そういう人がすごく増えています。そういう人たちへの安全網と言えます。

 安倍さんは「働き方」とか「女性が輝く」とか言っているが、百三万円のパートの人に対して言っているんですか。多分もっとバリバリ働いている女性のことを言っている。百三万円の人は「輝こう」とか考える余裕はなくて、子育てとか介護とかあって「ウチお金足りないし、とりあえずパートに出ないとね」という人たちです。

 廃止論者は「家族の形が変わってきている」とか言っていた。でも、自民党憲法草案の二四条は「家族のことは家族で面倒見なさい」と読める。要になるのは奥さんしかいないじゃないですか。「女性が輝く社会」と真逆の憲法にしたいわけです。矛盾を感じます。

 まず保育所と介護施設を何とかしてほしいですね。でないと輝けない。でもここにも矛盾がある。働かないと保育所は預かってくれない。これから働こうという女性は保育所に入れられない。じゃあ専業主婦でいようという人がすごく多い。そういう人の子は、待機児童の中にカウントされていません。

 私は大反対ですが、もし将来配偶者控除を廃止、つまり六千億円増税するのなら、使途を明確にすべきです。「家庭のため」とか。ちゃんと書かれた設計図を見ないと、普通の人はハンコを押さないですよね。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <おぎわら・ひろこ> 1954年、長野県生まれ。難解な経済の仕組みを解きほぐし、デフレ経済の長期化を予測した。著書に『生命保険は掛け捨てにしなさい!』など。雑誌連載も多数。

◆夫婦より個で考えて 作家・佐川光晴さん

佐川光晴さん

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 妻との結婚生活で、どちらかがどちらかを養うという関係になったことがありません。私は作家になる前は、出版社や食肉処理場で働いていました。妻は小学校の教諭です。配偶者控除の対象になったことがないんです。自分が恩恵を受けていないから、というわけではないですが、基本的に廃止に賛成です。

 生活の実感から、控除に意味がないとは思っていません。私は、わが家で「主夫」として、家事育児を中心になって担ってきました。たとえば学校のPTA活動などに参加すると、専業主婦の人が活躍していることが多いのです。フルタイムで働く忙しい人だけで、こういう活動をするのはとても難しい。専業主婦世帯を優遇する今の制度が助けになって、ビジネスとは別の面で、社会がうまく回る部分も、きっとあるんですよね。

 でもやっぱり、国が「夫が働いて、妻は家庭を守る」というモデルを設定するのは、そもそもおかしいです。私は、男でも女でも本来、自分で自分の糧を得るのが、生きる上での原則だと考えています。誰もが当たり前に働き、個人に課税するという流れは必然のものではないでしょうか。再就職の壁をなくし、働けない人を支える仕組みや、急な負担増になる人への手だても、同時に必要だとは思いますが。

 配偶者控除に代わって、夫婦控除というものも検討されているそうですが、あるべき家庭のモデルの形を変えただけになりませんか。夫婦という形式をとらない人もいますし、離婚する可能性もある。独身を通す人もいます。それなのに夫婦だけを優遇するのは違和感がありますよ。もっと個人ベースで考えられないでしょうか。私は私個人の選択として、妻とペアになっているわけですから。

 正直なことを言えば、控除の有無で、働くかどうかを決めるという行為自体が、本末転倒の話だと感じています。自分の仕事と真剣に向き合ったとき、課税の境目は本当に「壁」なのかなと。やはり必要なのは、子供のころからの教育だと思います。女性はいまだに「たくさん稼ぐエリートと結婚しなさいね」って、親に言われて育っていませんか。その発想でいる限り、税制が変わっても、社会は変わらない。教育とセットでなければ、平等をもたらす改革にはならず、単なる増税策になってしまうのではないでしょうか。

 (聞き手・中村陽子)

 <さがわ・みつはる> 1965年、東京都生まれ。北海道大卒。2000年に「生活の設計」で新潮新人賞を受賞しデビュー。『縮んだ愛』で野間文芸新人賞、『おれのおばさん』で坪田譲治文学賞。

 

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