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人口減、都市の未来は? 井上純論説委員が聞く

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 人口減少時代を迎え、私たちの社会はこの先、戦後一貫して拡大してきた都市をうまく縮小させていかねばなりません。各地の自治体が次々、公共施設や商業施設を特定の区域に集めるコンパクトシティーに向けて走りだしていますが、落とし穴はないか。人口減少時代の都市の将来像を首都大学東京の饗庭伸准教授とともに考えます。

 井上 少子高齢化が進むにつれ、大都市でも地方都市でも、空き家の増加や買い物難民の発生など新たな問題が次々と顕在化してきました。これから人口減少が進んでいけば、各地で立ちいかなくなる都市が出てくるかもしれません。専攻されている都市計画の分野は、難問山積ですね。

 饗庭 国連のリポートによると、日本は人口の91・3%が都市に住んでいる。これは、香港やシンガポールといった小さな国を除けば、ベルギー、ベネズエラ、アルゼンチンに次ぐ数字ですが、これらの国の人口を足しても日本の人口には及ばないし、まだ、それぞれ人口は増加中です。つまり、日本の人口減少は、高度に都市化した国で起きている世界初の現象ということになります。これまで経験したことのない現象に対処していくことになるわけですが、都市が拡大していった時代より、実は、将来の見通しは立てやすいと考えています。

 井上 今のままの出生率、死亡率で推計すると、二〇一〇年時点で一億二千八百万人余だった日本の人口は、六〇年には八千七百万人弱まで減る。これは大変だ、という声が強まっていますが、見通しが立てやすいとは、どういうことですか。

 饗庭 旧都市計画法が制定された一九一九(大正八)年に五千五百万人だった人口は、百年で倍になったわけです。増えていく人口、あるいは流入してくる人口を、都市は何としても受け止めなくてはなりません。これは、団塊の世代の成長に合わせて見ると分かりやすい。

 終戦直後に生まれた団塊の世代は、まず小学校を必要とし、次いで中学校、高校、大学を必要とし、下宿やアパートを必要とし、職場を必要とし、家族で暮らせる住宅を必要とし、最後は高齢者施設を必要とする。こうして、団塊の世代の大きな波をさばくための都市空間が戦後、急速に造られ、今は、高齢者施設が次々造られつつある段階です。

 井上 いわゆる人口ピラミッドのピークとなる部分の成長、成熟に合わせて都市が拡大してきた、ということですね。

饗庭伸さん

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 饗庭 こうして団塊の世代がつくり出してきた都市への圧力を「前線」と呼ぶこともあります。これからの人口構成の推移を見れば、団塊ジュニア世代による次の波はあるものの、高齢者施設まで進んできたその前線が通り過ぎると、都市に急激な変化をもたらす前線が再び発生することはなさそうです。つまり、これからは、団塊の世代によって最大限に拡張された都市をどう使っていくかを考えればよい。だから、拡大局面より先を読みやすいのです。

 井上 都市が広がっていく過程では、どんなことが起きていたのでしょう。

 饗庭 スプロール現象という言葉があります。スプロールとは「虫食い」という意味で、つまり、都市が無秩序に拡大していく現象をいいます。スプロール化を防ぐため、六八年の新・都市計画法制定で、開発を促進する市街化区域、原則として開発を認めない市街化調整区域に区分する制度が導入されましたが、現実は、必ずしも狙ったようには進みませんでした。

 井上 制度が効率的な土地利用を目指しても、土地所有者の側には個々の事情があるということですね。

 饗庭 戦後の農地解放で農地は細分化されて所有者が増え、そうした土地に都市計画の線が引かれた。でも、それぞれの人生設計に沿って土地を活用していくわけですから、結果として市街化区域内も土地の用途が混在する虫食い状態になってしまいました。一方、都市に流入してきた人口は、こうして市場に出る土地の一区画を生活の拠点とすべく、長期のローンを組んで勤労生活を続ける。つまり、都市化する土地が戦後の経済成長の原動力だったのかもしれません。その過程で、土地は、ぎりぎりまで細分化されたように見えます。

 井上 スプロール的に拡大してきた都市は今後、人口減少に合わせて規模を縮小していかざるを得ません。無理なく縮むには何が必要でしょう。

 饗庭 人口急増期には、都市は中心から外に向かって広がっていきました。ならば、人口減少期は外縁部から中心に向かって小さくなるのか、といえば、そんなことはない。器の大きさは変わりません。ただ、中心からの距離とは関係なく、細分化された土地が点々と、それぞれの所有者の事情によって随時、売却されたり空き家になったりしていきます。つまり、スポンジ化するわけです。

 井上 街が広がりきった状態で人口密度が全体的に低くなるのであれば、インフラ維持などの観点からは極めて効率が悪い、ということになります。

コラージュ・河内誠

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 饗庭 そこで「コンパクトシティー」という考え方が次代の都市計画を検討する際のキーワードとなっています。街の中心部に集中的にインフラ投資をして周辺部からの移住を誘導し、徒歩で暮らせる街づくりをしようというものです。国は、公共施設や住宅を集約する区域を定めた「立地適正化計画」を作る自治体に補助金を出す制度を新設して後押しをしていますが、住民の立場で考えると課題は多いように見えます。

 井上 巨額の資金が動きますから景気対策という狙いもあるのでしょうか。人口減による自治体の体力低下を加速させなければいいのですが…。

 饗庭 理論だけを考えれば、コンパクトシティーを目指すことは大事だと思います。例えば、年老いた親が十年先を見据えて外縁部から中心部に移住し、買い物へも病院へも歩いて行けるのであれば、それは理想的といえるかもしれません。でも、人々を移住させる多大な費用をどうやって賄うのか。ローンを完済した住民たちに再度の出費を迫ることが、果たして人々の幸せにつながるのでしょうか。

 井上 都市を特定の区域に集約させるのではなく、都市をたたむ、という考え方を近著で説いておられます。「たたむ」とはどんなイメージですか。

 饗庭 店をたたむ、のたたむではなく、風呂敷をたたむように都市をたたむ。つまり、つぶしてしまうのではなく、もう一度広げて使える余地を残しつつ柔軟に都市の規模を小さくしていこう、ということです。都市が成長する過程で細分化された土地は、これから先、再び一つにまとまることはなく、バラバラのタイミングで動く。言い換えれば、所有者が細かく分散したために、都市全体の構造を変えるような大きな空間変化は起こしづらい。だから、スポンジ化で生まれてくる街の穴を否定的にとらえるのではなく、その地区に役立つ空きスペースとして、例えばコミュニティーカフェや共同農園といった当面の使い方を考えつつ未来を見通した方が活路は開けるはずです。

 井上 都市の構造をつくり替えなくても将来像は描ける、ということですね。

 饗庭 都市はそもそも、人々が豊かに暮らすための手段であって、目的ではなかったはずです。都市を維持するために都市を縮小させよう、となっては本末転倒だと思います。

 <あいば・しん> 1971年、兵庫県生まれ。早稲田大理工学部建築学科卒。同大助手などを経て、現在、首都大学東京大学院都市環境科学研究科准教授。専門は都市計画・まちづくり。主な著書に『都市をたたむ』(花伝社)、『自分にあわせてまちを変えてみる力』(萌文社)など。

 <コンパクトシティー> 医療・福祉施設や商業施設、住宅などを特定の区域に集めるまちづくり。行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを後押しすべく、国は2014年、都市再生特別措置法を改正し、立地適正化計画制度を新設した。国土交通省によると、沖縄県を除く46都道府県の276市町が計画づくりに取り組んでいる。

 

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