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考える広場

投票所へ行こう!

 選挙権が「十八歳以上」になって初の国政選挙・第二十四回参院選は、あす十日に投開票。選挙の間口は広がった。「誰に投票しても同じ」なんてしらけずに、まず足を運ぼうよ。投票所へ。

◆若者100%投票で変革 長野県飯田高3年・木村優也さん

木村優也さん

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 目標は、若い世代の投票率を100%にすることです。「高くしたい」というより「100%」。政治家の人たちに、若者の方を向いてほしいからです。そのためには、若者が“実績”をつくらないと。

 四月に「飯田下伊那100計画」と名付けた投票率アップの実行委員会をつくりました。メンバーは、地元四高校の二、三年生で、選挙権を持っていない人も含めて、二十六人です。僕自身も、来年三月で十八歳なので、あすの参院選では投票できませんが、実行委は、ツイッターなどを活用して、この地方の高校生に「投票」をアピールしています。じわじわと反響を感じています。

 きっかけは、三月に東京で開かれた「全国高校生未来会議」。主催者から「若い人は投票率が低い。そのせいで若者向けの公的支出が少ない」と聞き、考えました。十八歳、十九歳の有権者数は、二百四十万人。仮に、その20%しか投票しないのなら、政治家にしてみれば、若い人向けにビデオを作ったり、軟らかい言葉でチラシを作ったりするのはムダ。今まで通り、年配の人たちに訴えた方が、コスト的に抑えられる。

 だから、若者の投票率を100%にすれば、ちゃんと存在を認めてもらえるんじゃないかと。先日、英国の国民投票で、欧州連合(EU)への残留派が多い若者の投票率が低くて、年配者が主体の離脱派に負けました。年配者が優遇されるシルバー民主主義を認識する良い機会になったと思います。

 僕たちは「白票でもいいから投票するんだよ」という姿勢を示して、政治家の人たちが「この人たちにも分かりやすくしよう」って近づいていって、今度は若い人たちが「分かりやすくなったぞ。じゃあもう少し考えてみようか」と相互に近づけるような仕組みを目指したい。

 「100%」は高いハードルですが、政治のテーマは教育から敬遠されがち。イデオロギーも絡んできますから。僕たちは「まず選挙に参加しよう」という立場。将来は農学部か経済学部に進んで、農業政策や農村経済などを学んでみたい。まずやってほしい若者向けの施策は、給付型奨学金の充実です。

 活動について、親は「本業(勉強)に影響しない程度に頑張って」と言ってくれています。感謝します。

 (聞き手・小野木昌弘)

 <きむら・ゆうや> 1999年、長野県生まれ。中学と高校で生徒会の副会長。池上彰さんのテレビ番組などが政治に興味を抱いたきっかけ。音楽系の部活動でギターとベース、ボーカルをこなす。

◆「新たな票田」示す時 昭和女子大特命教授・八代尚宏さん

八代尚宏さん

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 日本の政治のあり方について「シルバー民主主義」という言葉が使われるようになってきました。シルバー民主主義とは、高齢者が増える中で選挙に勝つために、政治家が高齢者の関心を引く年金や医療といったテーマについて高齢者に利益がある政策を訴えるというものです。

 例えば、政府は今年、低所得の高齢者を対象に三万円の現金給付を実施しました。低所得者層なら母子家庭などもあるのに、なぜ高齢者だけに給付するのか。高齢者は多いだけでなく投票率も高く、非常に重要な票田になっているからです。

 年金、医療などの社会制度も、高齢者人口が全体の5%で経済は高度成長という時代に形成されたものを漫然と維持してきた。消費税増税も必要ですが、社会保障の合理化なしには際限なき増税が必要になる。しかし、与野党ともに高齢者の利益に配慮して抜本改正に否定的です。大幅な財政赤字の持続は、後の世代に累積的な借金の増加をもたらします。

 最近の参院選の投票率でみると、二十代の33%に対して六十代は倍以上の68%。この差が変わらなければ、投票者に占める六十代以上の割合は二〇一三年選挙の47%から、五〇年には57%と過半数になる見通しです。

 近代の民主主義は「代表なくして課税なし」の原則を打ち立て、王や領主らの浪費を平民の議会で制御してきました。投票者の過半数が社会保障の受益者になると、納税者民主主義が機能しないリスクがあります。若者はこういう現状を知って、少しでも自分たちの意思を表明するために投票に行ってほしいと思います。もっとも、社会保障の現状を知れば高齢者も一定の改革に同意するはずで、政府は社会保障赤字の実態を示し、世代間の対立を協調に変える努力をすべきですが。

 また、若者たちは「誰に投票していいか分からない」と言います。確かに、彼らの票の受け皿になる政党、候補が乏しいのも事実です。将来の社会を担う若手政治家を育てるためにも、被選挙権を二十歳にまで下げ、若者の代表、政党ができるようにすべきではないでしょうか。

 若者の投票率が高まれば、その新たな票田を狙う政党が生まれ、それが投票率を高めるという好循環が生まれる可能性もあります。まず投票所に行かなければ、そうした可能性もなくなります。

 (聞き手・大森雅弥)

 <やしろ・なおひろ> 1946年、大阪府生まれ。経済企画庁、国際基督教大教授などを経て現職。『シルバー民主主義』(中公新書)、『日本的雇用慣行の経済学』(石橋湛山賞)など著書多数。

◆日常から政治奪うな ライター・小池未樹さん

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 一年前まで、衆議院と参議院の違いもろくに分からないほど政治に対して無知でした。そうした「意識の低い」人の目線で選挙について学び、ネット記事を書いてほしいと頼まれました。昨夏から、政治家をはじめ、選挙管理委員会、選挙プランナーなど多くの関係者に取材を重ね、意識が変わりました。

 取材で痛感したのは、選挙に出る側・関わる側と選ぶ側とで、見ている世界が全然違うという事実です。その一因は、選挙に関するすべてを規定している「公職選挙法」にあると感じました。世界でもまれなほど厳格で、しかも戦前の価値観をひきずっています。現代の価値基準からすれば非合理としか思えない内容です。政治家や候補者はこの法律に従い、時に抜け道を探しながら選挙に挑むのを当然としているのですが、有権者にその事情は分かりません。だからその姿が、「言っていることとやっていることが違う」という印象になってしまうのです。

 例えば公選法は選挙期間外の選挙運動を禁じていますが、「政治活動」という名目でなら実質的に可能なことも多いです。また、三年前にはネット選挙が解禁されましたが、「電子メールでの選挙運動は原則違反になるが、SNSのメッセージの使用は問題ない」など、納得しづらい点がいくらでもある。

 選挙期間も全体的に短いですし、宣伝方法にも制限がありすぎます。これでは候補者も大変です。有権者の政治関心を高めたいのであれば、選挙制度をもっと「有権者が候補者を選びやすくなる」方向に変えていく議論も必要だと思います。

 また、若者の低投票率改善のためには、彼らの日常から「政治に関心を持つ機会」を排除しないことが大切です。日本は政治の話にタブー意識が強いので、学校教育やエンタメ作品など、若者に刺激を与えるものから極力政治色を抜こうとする。でも、政治が「特別な機会にしか遭遇しないもの」になってはいけないと思うんです。

 現時点でも、政治への意識が高い若者は確実にいます。彼らは投票に行くでしょう。十八歳選挙権が実現した今回の選挙で重要なのは、彼らに「意味がなかったな」と思わせないこと。継続して政治参加の意欲を保てるよう働きかけ、彼らをハブ(結節点)として周囲の若者にも影響を与えていくことだと思います。

 (聞き手・樋口薫)

 <こいけ・みき> 1987年、愛知県生まれ。ウェブサイト「選挙ドットコム」で「小池みきの下から選挙入門」を連載。近刊の松田馨著『残念な政治家を選ばない技術』で企画・構成を担当。

 <参院選投票率> 政権選択に直結する衆院選より低い傾向にある。最高は1980年(第12回)の74・54%。この時は衆院と同日選だった。最低は95年(第17回)の44・52%で唯一の50%未満。98年(第18回)から投票時間が午後8時まで2時間延長され、58・84%に上がった。前回2013年(第23回)は52・61%で過去3番目の低率。

 

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