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考える広場

タックスヘイブンで隠れるマネー

イラスト・浅野裕作

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 パナマの法律事務所の内部資料「パナマ文書」の漏えいで、タックスヘイブン=が世界的な問題になっている。経済がグローバル化する中で、税逃れの規制は可能か。政治と経済の微妙な力関係も見えてくる。

◆税もグローバル化を 慶応大特別招聘(しょうへい)教授・夏野剛さん

 パナマ文書によって租税回避や節税の現実が明らかになったのはいいことだと思います。国際企業はローカルなルールとグローバルなルールの差を理解していますから、税に関しても違法でない限りはローカルなルールに縛られず、一番効率的な方法を取ります。というか、その方法を知っているのに使わなければ、株主への責任を果たせないことになってしまう。

 問題はそのルールが正しいかどうか。ルールを決めるのは政治で、政治を決めるのは国民。金持ちやグローバル企業だけがルールを理解し、使いこなしているのは、あまりいいことではありません。国民みんながルールを分かった上で、それがいけないなら政治に働き掛けて直していくということがなければ正当なルール設定はできない。パナマ文書は、そうしたルールに関する情報が出てきたという点で非常に意味がある。

夏野剛さん

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 ただ、この問題を扱うには、現実を理解した上での議論が必要です。現在のルールでは、個人の課税についてはグローバルな制度ができているので、個人がタックスヘイブンを使うのは違法である可能性が高い。一方、企業に関してはどこに法人をつくるかは自由。法人税の税率は国や地域によって違う。グローバルな課税制度がないので、違法なものとそうでないものが混在している。しかも、パナマ文書には、課税を免れるために法人を設立した企業だけではなく、そこと取引した企業の名前も出ています。パナマ文書に名前が出ているというだけで企業を非難するのは非常に乱暴だし、あまり意味がない。

 タックスヘイブンはグローバル資本主義の問題と言われますが、実はそれぞれの国の成り立ち、事情というのが反映された税制の違いの問題なのです。国と国の差がある限り、タックスヘイブンのような問題は起こるでしょう。水が高い所から低い所に流れるように。

 これを規制するには、税制もグローバル化するしかありません。世界の税務当局が足並みをそろえる新しい国際協調の仕組みが必要です。環太平洋連携協定(TPP)では、百年前だったら考えられなかった関税の統一を話し合っています。そう考えると将来、取引や収入にかかわる税金もそろえようという動きが出てくる可能性は大いにあると思います。

 (聞き手・大森雅弥)

 <なつの・たけし> 1965年、神奈川県生まれ。2008年から現職。上場企業数社の取締役も務める。『「当たり前」の戦略思考』『ビジョンがあればプランはいらない』など著書多数。

◆民主主義の基盤崩す 公益財団法人・政治経済研究所理事 合田寛さん

 パナマ文書で明るみに出た事実は、氷山のわずかな一角にすぎません。税率が低くて金融取引の情報が秘匿されるタックスヘイブンを利用した税逃れや資産隠しは世界的に重大な問題です。経済協力開発機構(OECD)や専門家の推計では、タックスヘイブンによって失われた税収は、世界中では三十兆〜五十兆円にもなります。日本では三兆〜五兆円ぐらいでしょう。消費税率の2%上げぐらいの数字。大企業や富裕層が税逃れをして、それができない中小企業や個人が消費税などの重税にあえぐ構図では、民主主義の基盤が崩れます。

 タックスヘイブンを利用している企業などが「合法だから問題ない」みたいな言い訳をしますが、法律の抜け穴をくぐれること自体が問題なのです。米国のオバマ大統領や日本の麻生太郎財務相も「合法であることが問題」という趣旨の発言をしています。

 そのため、世界各国や国際機関が抜け穴を封じるための対策強化に動いています。各国が法人税の引き下げ競争をしてきた流れを変えるためにも国際協調が重要です。しかし、実効性のある対策づくりは難しい。

合田寛さん

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 ロンドンの金融街シティーは規制の緩い自由な金融取引という看板で世界のカネを集め、ケイマン諸島やバージン諸島など英国の海外領土からなるタックスヘイブンのネットワークの中心的な役割を果たしてきました。また、英国は法人税率10%台を目指し、国際的な税率引き下げ競争の先頭を走っています。一方、欧州連合(EU)は税逃れに対する規制を強め、金融取引税も導入しようとしている。EUからの離脱で英国はますますタックスヘイブン頼りになりかねません。

 税逃れの国際的対策強化は、各国の議会やマスコミ、市民団体などが強く政府に求めていかねばなりません。日本はこれまでのところいずれも不十分でした。英国の市民団体「タックス・ジャスティス・ネットワーク」(TJN)の活発な活動がきっかけで各国政府が動きだした経緯は参考になります。私が運営に加わっている「公正な税制を求める市民連絡会」は昨年からTJNと連絡を取り、今年秋にTJNの代表が来日してくれることになりました。TJNは日本の市民団体の活動が活発になることを期待してくれています。 (聞き手・白井康彦)

 <ごうだ・ひろし> 1943年、韓国・釜山市生まれ。神戸大大学院経済学研究科博士課程修了。国会議員政策秘書を経て現職。著書に『タックスヘイブンに迫る 税逃れと闇のビジネス』。

◆格差広げる一大要因 経済学者・水野和夫さん

 パナマ文書の舞台になった法律事務所「モサック・フォンセカ」は一九七七年にできました。七〇年代は、経済のグローバリゼーションが始まった代わりに、原油価格などが上がって、先進国の高度成長が終わった時期。私は「長い二十一世紀の始まり」と呼んでいます。もうからなくなったので、節税しましょうという構図でしょうか。タックスヘイブンと資本主義の行き詰まりとが機を同じくしている。資本主義の最後のあがきだと思います。

 社会秩序の維持には最低三つが必要。生命の安全を保ち、信義を守り、財産を保護する。文書には、政治家や企業経営者ら、米大統領選で非難されているエスタブリッシュメント(支配階級)の名前が載っています。三つの同時達成ができず「秩序の崩壊」を裏付けました。文書暴露は、良くも悪くも、歴史的な「意義」だと考えます。

水野和夫さん

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 パナマ文書の告発者は明らかになっていませんが、マルチン・ルターの「九十五カ条の論題」(一五一七年。宗教改革の幕開け)と同じ意義を持っているように思います。ルターは教会に「堕落している」と問題提起しました。今回の告発者も、膨大な量の内部告発により、今の社会に「支配階級の人間たちの信義は一体どうなっているんだ」と問い掛けたのではないでしょうか。

 七〇年代は、お金が容易に国境を越える「金融の自由化」も始まった時期です。世界中の富が米ウォール街や英シティーに集まる仕組みができあがり、九〇年代に開花しました。租税回避は、パナマや島国まで行かなくても、ニューヨークやロンドンでつないでもらえると指摘されています。ウォール街とシティーは、タックスヘイブンと「二人三脚」だと思います。

 公共サービスを全部受けて税金を支払わないのなら、税金で造られた道路は通らない、橋も渡らないというのならいいんですけど。租税回避の資本総額は二千兆円以上とも推計されています。二十カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議などでのルール作りが急務です。

 サインだけで膨大な利益を上げ、雇用は生み出しません。資産のない人は相手にされない。そもそも行こうと思いつかない。富んだ1%の人が利用できるタックスヘイブンに、99%の人は近寄ることもできません。格差を広げる一つの大きな要因です。 

 (聞き手・小野木昌弘)

 <みずの・かずお> 1953年、愛知県生まれ。早稲田大大学院修了。内閣官房内閣審議官などを経て法政大教授。『資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機』(集英社新書)など著書多数。

 <タックスヘイブン> 英語で「租税回避地」を意味し、外国の企業などに無税または低い税率による優遇措置を設けている国や地域のこと。ヘイブン(haven)はもともと、嵐などの際に船舶が避難する港の意味。脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)などに悪用されるとして前から批判されてきたが、昨年漏えいした「パナマ文書」で企業や個人の実名が出たことで議論が加速。先日の伊勢志摩サミットでも対策を強化することで一致した。

 

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