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考える広場

人工知能の未来

コラージュ・金子亜也乃

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 人工知能(AI)は、人知を超えるのか。「二〇四五年には、AIが人間の能力を上回るシンギュラリティー(技術的特異点)に達する」との予測もある。人間がAIに支配される−そんな時代は本当に来るのか。

◆運用ルール作り重要 国立情報学研究所教授・新井紀子さん

 ディープラーニング(深層学習)など最近のAIに使われている技術は、実は三十年以上前に提案されました。囲碁AIが世界トップ棋士を破るなど、こうした技術が今になって花開いたのは、必要なデータがそろったことに加え、技術がどんな局面で威力を発揮するかを人間が学んできたからだといえるでしょう。経験を積んだのは機械ではなく人間。どの分野で技術の応用がうまくいくかという勘所が働くようになったんです。

 AIやロボットをうまく動かすにはこつが必要です。今のAIはすごくKY(空気が読めない)。上手にできることはとても限られています。AIやロボットが活躍できるように環境を整えてやらなければいけません。私は今、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトに取り組んでいますが、AIに入試問題をただ渡しても解けない。とても難しい数学の問題は解けるのに、選択肢の番号と問題文の中の数字の区別がつかなかったりします。

 そんなAIが人間を超えるようなシンギュラリティーはあり得るか。あり得ないでしょう。また、AIは人間と同じように考えることもできません。コンピューターは全部、数学でできています。そのコンピューターで人間の脳の仕組みを実現するには、それが全部数学的に記述できるようになる必要があります。でも、脳がどう動いているかなんて全然分かっていないし、数学で書ける保証はどこにもありません。

 ただ、AIによって人類に危機が訪れることはあり得ます。AI技術は統計、つまり過去のデータに基づいています。では未知のデータに遭遇したらどうなるのか。予測不能なんです。人間なら絶対やらない過ちを犯す可能性があります。例えば、車の自動運転でも、見たことがないお菓子の袋を人と誤認し、急ブレーキをかけた結果、追突事故を招くとか。核搭載している潜水艦が暴走することもあり得ます。

新井紀子さん

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 だから、AIが人間を超えるかどうかを心配するよりも、AIが社会に入ってきたときのルール作りを考える方がずっと重要です。AIは政治や経済の形を変える可能性もあります。文系は理系のことが分からないでは困る。文理が連携して、どんなことがあり得るかを洗いざらい出して、対策を検討すべきです。(聞き手・大森雅弥)

 <あらい・のりこ> 1962年、東京都生まれ。専門は数理論理学、情報科学、数学教育。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター。著書は『コンピュータが仕事を奪う』など。

◆理想的な知性秘める 作家・山本弘さん

 僕が子どものころ、コンピューターはばかでかいものでした。それが家の中に入り、ゲーム機にもなった。あと十年、二十年で、コンピューターやAIはどこまで進化するのでしょうか。人間を超えるシンギュラリティーは本当にあるかもしれません。

 その進化は、きっと人間と同じコースはたどらない。人間に追いつくのではなく、別の道を行く。例えば、AIには恋愛という感情はないでしょう。AIが書く小説は僕らには全く理解できないかもしれない。ある意味、異星人との出会いです。

 SFマニアにとって、AIやロボット、アンドロイドは常識みたいなもの。長年多くの作品が書かれてきました。フランスのリラダンが一八八六年に発表した『未来のイヴ』で、「アンドロイド」という言葉が初めて使われました。米国のバインダーが一九三九年に発表した『ロボット市民』では、学習して成長するロボットが、科学者から「人を殺してはいけない」と教えられます。三八年に米国のデル・レイが発表した短編「愛しのヘレン」は、アンドロイドと技術者が結婚する話です。

山本弘さん

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 AIが人間を滅ぼす恐れがあるといわれています。それを防ぐ策もSFは考えてきました。米国のアシモフが作中で示した「ロボット工学三原則」は有名です。「ロボットは人間に危害を加えてはならない」などの規定ですが、これには問題があります。その中に「危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」とありますが「危険」とは何か。例えば災害現場で危険を冒して救助活動に当たる救急隊をロボットは止めるのか。人間世界の状況はあまりに複雑で、何が正しいかは分からない。禁止事項で一律に制御するのは難しいのでは。

 僕は、AIの暴走を防ぐには自己保存本能を持たせるべきだと思います。それがあれば、人間にスイッチを切られて死んでしまうのを回避するために、人類と共存した方が得と考えるはずだからです。AIの反逆という想定は結局、他者を征服しようと思っている人間が、自分たちの姿をAIに投影しているのではないか。今の世界を見ていると、本当に知的生物がやっていることなのかと思ってしまいます。僕にとってAIは理想的な知性になり得る可能性を秘めたものなのです。(聞き手・大森雅弥)

 やまもと・ひろし 1956年、京都府生まれ。2006年の『アイの物語』でAIと人類の共存を描く。『去年はいい年になるだろう』で星雲賞。近著は『BISビブリオバトル部1 翼を持つ少女』。

◆野放図では暴走する 教育評論家・石川幸夫さん

 シンギュラリティーは、既に始まっているのでは。囲碁や将棋など、人間の得意技で超えてきています。ただし、まだ部分的。Siri(使用者がスマートフォンと会話する)とか、AIが人間と同じ感覚で向かい合い始めた。危機感を持ちますね。人間と人間のコミュニケーションがおざなりになってきていませんか。

 ゼロ歳児の幼児教育やしつけのほぼ全領域で、AIが活用できるようになるでしょう。その場で判断できてくる。表情や泣き声、体温などから、子どもの体調を判断できる技術は全てあるはずです。ベビーベッドそのものがロボット化するんでしょうね。人間の介在する余地がないのかもしれません。

石川幸夫さん

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 そう考えていくと「子育てって何?」という原点に戻ってしまいます。機械的に体調を管理して、ミルクをあげたり、おむつを替えたりできるでしょう。無関心な親に比べれば、機械の方がはるかに、子どもの表情を読み取る力を持っている。それだけ人間は退化してしまう。今までは手先や指先とかで退化があった。今、一番恐れるのは、心の退化です。全部できる機械に任せていいのか。

 AIにできない領域もあるでしょう。想像や創造の世界ですね。特に創造力。置き換えれば「夢」です。実際に子どもたちを指導して分かりますが「全てそろっているからできる」のではありません。モノが足りない方が、工夫できるし、単純な原材料だけで、自分の発想でつくることもある。ない方が、子どもたちは創造しやすい。

 以前、米国で「コンピューターで教育をアシスト(手伝い)する」ことを学んだ。担当教授が「人間でしかできないことがある」「コンピューターが手伝う教育が、現実化するはずだよ」とおっしゃっていた。どこまで手伝えるか。人間がコントロールしないといけない。野放図では、ヒトラーを礼賛するAIがありましたね。そんな暴走が起きる。

 やっぱり、「選ばれた命なんだよ」ということですから、場合によっては、そういうかけがえのない命であっても、ひょっとしたら、AIがそれを破壊してしまうような想像を私はしてしまうんですね。「こういう子が生まれてきてはいけない」と。もし、そういうような判断をAIがし始めたら、怖いなと思います。(聞き手・小野木昌弘)

 <いしかわ・ゆきお> 1952年、東京生まれ。子育てマイスター協会・石川教育研究所代表。学校や塾、幼稚園、保育園、幼児教室講師ら約5万人を研修指導。幼児・小学生教育の専門家。

  <人工知能(AI)> artificial intelligence の略。1950年代から研究が始まった。コンピューターで記憶だけでなく、推論や判断、学習など、人間の知的な機能を代行できるようにしたシステム。

 囲碁や将棋、車の自動運転、会話の記録と解析、小説、医療、人間の表情の読み取り−といった幅広い分野で、開発や研究が進んでいる。

 AIが発達すると、100種類以上の人間の職業が不要になるとの推測もある。

 

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