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「ブラックバイト」に声を上げる 佐藤直子論説委員が聞く

◆「おかしい」に気づいて 首都圏高校生ユニオンメンバー・小木友梨子さん

コラージュ・赤塚千賀子

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 賃金が正当に支払われない。シフトがきつくてテスト中も休めない。ノルマとして自腹で商品を買わされる−。若者に不当な労働を強いる「ブラックバイト」が深刻化する中で、被害に泣き寝入りせず、雇用者に正面から改善を求める若者がいます。全国初の高校生による労働組合に参加する小木友梨子さん(18)と若者の労働を考えます。

 佐藤 小木さん自身もブラックバイトの被害に遭って、高校三年だった昨年夏、改善に取り組むために「首都圏高校生ユニオン」(東京)を仲間と結成しました。全国初の高校生が主体となった労働組合です。

 小木 私たちは賃金や待遇の改善を求めて雇用者と交渉するだけでなく、厚生労働省に高校生のバイトの実態を調べてほしいと求めました。大学生らのバイト経験者を対象に昨年実施された調査の高校生版です。近く結果が公表されるそうです。

 佐藤 大学生らの調査では回答者の六割が何らかの形でブラックバイトを経験しているという結果でした。これではバイトを替えても、次もまた問題があるリスクが高い。ブラックバイトの類型には「拘束型」「賃金泥棒型」「ノルマ型」など=表参照=がありますが、すべて労働基準法に反しています。

 小木 高校生が最初のバイトとして始めるコンビニやスーパー、飲食店での被害が目立ちます。高校生は大学生よりもさらに社会経験が浅いから、未熟さにつけこまれると、被害はより深刻です。自身に起きている問題が「おかしい」と自覚していない人も少なくないんです。

 ユニオンには作業靴代を給料から引かれたとか制服のクリーニング代を請求されたとか、いろんな相談が寄せられます。バイトを辞めさせてもらえないという相談も増えてます。

小木友梨子さん

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 佐藤 非正規労働者が増える中で、正社員が担うべき責任まで負わされるようになった。小木さんの体験もそんな状況から生まれているのですね。

 小木 高校入学後、地元のコンビニでバイトを始めたのですが、問題はまずシフト勤務のきつさにありました。学校の授業がある平日は、週に三〜四日、夕方から夜十時まで。賃金など労働条件を書いた契約書がないまま、土日も働きました。

 夏休みに入ると出番が増え、長い日は高校生には禁じられているのに八時間以上や夜十時以降の深夜勤務、七日八日の連続勤務もありました。私の他にも高校生や大学生のバイト、主婦のパートさんがいますが、シフトはぎりぎりの人数で組まれ、休む人が出ると大変。店から穴埋めを頼まれ、予定をキャンセルして駆けつけました。

 「一にも二にもバイト優先」と店から言われ、試験の時も三日前にやっと休ませてもらえる感じ。責任者がいない時間帯もあってトラブルが心配でした。

 佐藤 しんどかったでしょう。そんな働き方をおかしいとは思わなかったのですか。

 小木 私は仕事に対しては我慢強い方だと思うんです。でもオーナーでもある店長が、直前までシフトを知らせてくれないのには困りました。家族や友だちと約束もできない。何より悲しかったのは、大みそかも元日も出勤だったこと。毎年おばあちゃんの家でおせち料理を作って家族と過ごしてきたのに…。

 いよいよ納得できないなと思ったのは、賃金の未払いが重なったからです。店頭のポスターでは「時給八百円」と書いてあったのに、私の時給はきちんと教えてもらえなかった。だから給与を勤務時間で割り算していたんです。すると「研修期間」の最初のころは県の最低賃金を割り込んでいた。

 地元の夏祭りの日は店のバイトが総出で、私は金魚すくいやヨーヨー釣りを担当したんですが、バイト代はなく、後で二千円を渡されただけです。年末にお菓子の袋詰めを頼まれた時も無給。売れ残ったわさび味のお菓子をもらいましたが…。

 佐藤 本当に子どもだましみたいなやり方ですね。

 小木 研修期間が終わって数カ月たっても給料が少ない。八百円の時給が七百八十円で計算されていたんです。差額の支払いをお願いしても、店長は「待ってほしい」と言うだけ。また何カ月も放置されました。

 佐藤 やっと勇気を出して伝えたのにね。それでユニオンに入って解決しようと思ったの。

 小木 友だちが「ユニオンがあるよ」って教えてくれたんです。店長と交渉するなんて、人間関係にひびが入るとおじけづいたけど、思い切って一人でも入れる首都圏青年ユニオンに相談しました。そうしたら「高校生でも自分で闘えるよ」と背中を押され、五人の仲間と労組の結成を決めました。

 佐藤 安保法反対を訴える学生団体の「SEALDs(シールズ)」や高校生の「T−nsSOWL(ティーンズソウル)」が登場しました。十八歳選挙権の始まりを前に、政治や社会の矛盾に若者が声を上げている。雇用者との交渉はどうでしたか。

 小木 団体交渉は模擬練習をして臨みました。バイトを休んで応援に来てくれた仲間もいて心強かった。自分でも不思議なほどしっかりと要求を伝えられました。店長は悪かったと言ってくれて、解決金も含めて納得できる和解ができたんです。

 十分未満の労働時間はカットされていましたが、一分単位で賃金が払われることに。制服に着替える時間も労働時間に含め、時給を三十円上げる、休憩や有給休暇を取らせる−など法律を守る改善が示されました。

 佐藤 勤務時間の一部がカットされ、賃金が支払われないのはコンビニ業界全体の問題です。国会で追及を受け、厚労相は「労働時間は分単位で把握すべきだ」と指導を約束しました。各地で起こされた高校生の訴えが、サービス残業のような社会全体の問題に目を向けさせることになったのはすごい。

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 小木 すごいって言われるのは恥ずかしい。私は勉強も得意じゃなかったから自信満々じゃない。思っていることをはっきり口に出すタイプでもなかった。高校のクラスの中で、カースト(仲間内の序列)は「二軍の下」だったし。頑張ってキャピキャピしようとした時期もあったけど向いてなかった。

 佐藤 そんな小木さんがアルバイトで矛盾にぶち当たったときに逃げなかった。若い人の秘めた力はやっぱりすごいな。

 小木 一生懸命働いてお給料を手にするのは自信になりました。給料日にお父さんにアイスを買ってあげるのが約束だったから、守りたかったんです。

 佐藤 親世代の賃金は伸びず、経済的な事情からアルバイトをしなければならない高校生や大学生はいっぱいいます。

 小木 私も学費などで親にはなるべく負担をかけたくないから、三つのバイトを掛け持ちしているんです。できることは自分で何とかしたいから。

 佐藤 心も体もボロボロにしてしまう若者がいる。小木さんのように声を上げる人は少数派でも、その行動に共感する人は少なくないはず。若者を使い捨てにする社会ではいけない。

 小木 今回の出来事でうれしかったことがあるんです。主婦のパートさんから「職場がよくなった。声を上げてくれてありがとう」とお礼を言われたことです。「おかしい」と思う感覚を大事にしてよかった。社会ってこんなものだとも思いたくなかった。だからもし、声を上げたい人がいたら、励ましたり、支えたりしてあげたい。私が仲間にしてもらったように。

 <おぎ・ゆりこ> 1997年、千葉県生まれ。今春、県立高校を卒業し、短期大学に入学。高校時代は写真部と演劇部で活動。県写真展で教育長賞。演劇では県立高校の春季地区発表会で「My name is…」(作・専修大付属高校演劇部)を上演し、秘密を抱えた高校生役で新人賞。

 <非正規労働> 国の調査によると働く人の約4割がパートやアルバイト、派遣社員などの非正規労働に就く。割合は30年前の2倍に増え、女性では2人に1人。1990年代後半から労働者派遣法の改正が繰り返され、全ての年代で広がった。正社員に比べて給与や待遇に差がつけられて年収が下がり続け、貧困や格差の要因となっている。

 

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