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学校がつらい…電話やメール、SNSで悩み相談

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◆生きて 君のため全力で戦う大人もいるから(8月29日夕刊掲載)

 六年余りがたっても片岡道雄さん(53)=浜松市中区=の怒りと悲しみが薄らぐことはない。二〇一二年六月十二日、同市曳馬(ひくま)中学二年だった次男の完太さん=当時(13)=が学校や塾でのいじめを苦にし、自宅の十階建てマンション屋上から身を投げた。子どもの自殺が一年で最も多くなるこの時期、生きるのをあきらめようとしている日本中の“完太さん”たちへ片岡さんは呼び掛ける。「生きていればいくらでもやりようがある」

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 夕方、仕事をしていた片岡さんの携帯電話が鳴った。「完太が救急車で運ばれた」。近所の人の知らせに、病院へ車を走らせた。

 悲しむ間もなく葬儀が終わった。どうして命を絶ったのか。自分の教育が厳しかったのか。ひょっとして事故じゃないのか。「現実かどうかも分からなかった」

 十二月、市教委の設けた第三者委員会の調査結果が出た。完太さんは「うざい」「バカ」「アホ」といった言葉を四カ月間、毎日のように浴びせられ、首を絞められたり腹をたたかれたりすることもあったという。

 明るい子。自宅に友だちを呼んでよく遊んでいた。春ごろ「友だちとうまくいっていない」とこぼしたこともあったが、死を考えるまで思い詰めていたなんて…。「親として完太の運命を変えられなかった」と自分を責めた。そして、いじめた同級生や、気付かなかった学校に怒りを覚えた。

 片岡さんは一三年六月、完太さんが亡くなったのはいじめが原因だったとして、市や同級生ら十一人を相手に訴訟を起こした。それが「自分にできる戦い」だった。

 一六年一月、同級生の謝罪や、市側が再発防止策に努めることなどを条件に和解が成立したが、怒りも悲しみも消えなかった。

 今年の完太さんの命日、玄関先に花束が置かれていた。中には市内の学校に通っている子どもからの手紙。いじめられて、病院に行っていると打ち明けられていた。「弱い者いじめはいけない。そんな当たり前のことがなぜできないのか」。完太さんが犠牲になっても「何も変わっていない」という現実が腹立たしい。

 最近、少しだけ勇気づけられたニュースがある。今月十五日、山口県で行方不明だった二歳の男児を見つけたボランティアの男性。見知らぬ子どものために汗をかき、涙をこぼす。「あんな大人が完太の周りにもいたら…」

 完太さんが生きていれば、来年は成人式だった。周囲に「お笑い芸人になりたい」と話すこともあったという。「死んではいけない。つらい目に遭っているんなら僕ら大人が全力で戦うから」

(鈴木凜平)

     ◇         ◇

◆つぶやき気付いてあげれば…悔やむ父 青森・中2いじめ自殺(8月27日朝刊掲載)

 夏休み後半から休み明けを迎える八月下旬〜九月上旬は、子どもの自殺が一年で最も多くなる。青森市の葛西剛(ごう)さん(40)は二年前のこの時期、中学二年の次女りまさん=当時(13)=を亡くした。いじめを受けながら明るく振る舞った娘の言動を振り返ると「親が気付かなければならないサインがあった」という。悔やみ続けているからこそ、いま子どもたちへ伝えたい。「あなたは生きているだけで価値がある。命だけは、絶たないでほしい」

 二学期の始業式翌日だった。二〇一六年八月二十五日。りまさんは「二度といじめたりしないでください」とスマートフォンのメモに書き残して自ら命を絶った。

葛西りまさん=2016年8月(遺族提供)

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 一学期は同級生らのいじめを苦に学校を休むこともあったが、夏休み中は友人とプールに出掛けたり、郷土舞踊の習い事に打ち込んだりと元気を取り戻したかに見えた。それでも心配する剛さんは始業式当日の夜「久しぶりの学校はどうだった?」と声を掛けた。りまさんは普段通り、答えた。「何もなかったよ。楽しかった」

 異変を感じなかった親にとって、娘の死はあまりに突然すぎた。それから二年。何度も生前の言動を思い返してきた剛さんは「今になって一つだけ、思い当たることがあった」と打ち明ける。

 夏休みが明ける一週間ほど前の夜。りまさんは居間のソファでくつろぎながら、剛さんの前で「このまま夏休みが終わらなかったらいいのにな」とつぶやいた。子どもにとって本来、夏休みは楽しい時間のはず。剛さんは、娘の言葉を気にも留めなかった。「今思えば、学校に行きたくなかったから、そう口にしたのだろう。何げないひと言を見逃してしまった」。反応していたら、もしかすると違う結果になっていたかもしれない、と悔いる。

りまさんの言動を振り返る父・剛さん

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 今月二日、市いじめ防止対策審議会は、りまさんの自殺に関する最終報告書を答申した。いじめに悩み続けたりまさんが始業式当日、学校で再び悪口を言われたことなどが引き金の一つになったと認定された。

 今の時期、いじめやクラスでの居心地の悪さ、体や心の不調から「学校に行くのがつらい」と人知れず悩む子どもは少なくない。剛さんは親たちに「夏休み中やその直後、子どものひと言ひと言に注目してほしい」と呼び掛ける。場合によっては学校へ行かせないことも必要だと感じている。「私はそこまでできなかった。だから、子どもを救うための手を尽くしてほしい」

 (河北彬光)

 <子どもの自殺問題> 内閣府が2015年に公表した自殺対策白書によると、1972〜2013年に自殺した18歳以下は1万8048人に上る。日別の自殺者数は9月1日が最多の131人。一方、自殺総合対策推進センターが今月公表した分析結果では、06〜15年度の10年間で自殺のピークが8月下旬にみられることも判明。従来認識されていた9月1日に限らず、夏休み後半から休み明けにかけて自殺防止対策が必要であると指摘している。

 

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