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高倉健さん、映画に生きた

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 <評伝>数多くの取材をした中で忘れられない人の一人が高倉健さん。遺作となった「あなたへ」の岐阜県高山市周辺で行われたロケ取材に行き、すっかり健さんの格好よさに魅了された。

 年齢を感じさせない若々しさにまず驚いた。背筋がピンと伸び、動きはしなやか。大スターなのに付き人などに取り囲まれることなく、撮影の待ち時間は一人で静かにしていた。無口なのかと思ったが違った。

 ロケ現場で青空の下、健さん、共演のビートたけしさん、降旗康男監督を七人の記者が囲んだインタビューが実現した。健さんは、「こういう形の取材は初めてだけど、いいね」と、取材陣の気持ちをほぐす気配りを見せた。質問に丁寧に答えるだけでなく、内緒で前夜、高山駅に着いたたけしさんを一人で迎えに行き、驚かせたことなどをユーモアを交えて語った。

 取材の最後に私が「主人公は自分と照らし合わせると、どんな人物だと思って演じましたか」と聞くと、「うーん、難しい質問ですね」としばらく考え、「人生いろいろなことがあったな、と思い返しながら演じました」と語ったのが印象的だった。

 健さんはカメラや照明など数十人のスタッフ全員の名前を覚えようとしていた。スタッフの大半がファンになったというのもうなずける。短い取材時間だったが、人間的な魅力と存在感に圧倒された。

 インタビューでたけしさん、降旗監督ともに「この作品の後、健さんの主演作を撮りたい」と語り、健さんも「ぜひ」と応じていたのに、かなわないのは寂しい。現場から帰る取材陣が乗ったマイクロバスを、一人で大きく手を振って見送ってくれた健さんの姿が今も目に焼き付いている。

(田辺洋子・元中日新聞編集委員)

◆中国でもメディア速報、惜別

 【北京=佐藤大】高倉健さんの人気が高い中国では、国営中央テレビなど各メディアが死去を速報。中国外務省の洪磊副報道局長も十八日の定例会見で「高倉先生は中国人民がよく知っている芸術家であり、中日間の文化交流促進のため重要な貢献をした」と哀悼の意を表した。

 高倉さん主演の「君よ憤怒の河を渉(わた)れ」は一九七八年に中国で上映。国内が混乱した文化大革命(六六〜七六年)が終わり、改革開放路線が始まって間もない中国で初の外国映画。それまで革命劇ばかりを見せられていた中国人は作品に衝撃を受け、全土で爆発的な人気となった。高倉さんは当時の若い女性らの理想の男性とされ、ヒロイン役の中野良子さんとともに今でも中国での知名度は抜群だ。

 この映画などを見て高倉さんに憧れたチャン・イーモウ監督は、日中合作映画「単騎、千里を走る。」(二〇〇六年)で高倉さんを主役で起用、中国でロケを行い、話題を集めた。北京市の公務員の男性(59)は「彼が銀幕に刻んだイメージはわれわれの心に深く入り込んでいる」と別れを惜しむ。インターネットの簡易ブログ「微博(ウェイボ)」には「あなたがいなければ、多くの人の美しい記憶はなかった」などの書き込みがあふれた。

◆米誌も追悼記事

 【ロサンゼルス=共同】高倉健さん死去のニュースは米国でも報じられ、米芸能誌バラエティー(電子版)は十七日、追悼記事を掲載、ハリウッドにとっての俳優クリント・イーストウッドさんのように、何世代もの日本の映画ファンにとっての「象徴的存在」だったと紹介した。

 高倉さんがマイケル・ダグラスさんと共演した一九八九年の米大作「ブラック・レイン」。大阪を舞台にした同作で義理人情に厚い警部補を演じた。監督のリドリー・スコット氏はロサンゼルス・タイムズ紙の過去のインタビューに対し「彼は愉快でとても威厳があった。一緒に仕事をするのは楽しかった」と話していた。

◆「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」

 高倉健さんの事務所「高倉プロモーション」が発表したコメントは次の通り。

 生ききった安らかな笑顔でございました。

 「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」

 八十三歳の命を全ういたしました。治療に携わってくださいました病院スタッフの皆様から温かい涙とともにお見送りをいただき、故人の遺志に従い、すでに近親者にて密葬を執り行いました。

 これまで、お励ましいただきました皆様、心より深く感謝申し上げます。ありがとうございました。今は、お一人おひとりの心の中に宿る故人の笑顔に、静かに祈りをささげていただけますことを願っております。

<哀悼の言葉>

◆信じられない思い

 <俳優吉永小百合さんの話>信じられない思いでおります。一九八六年に中国への旅をご一緒して以来、一度もお目に掛かっていませんでした。映画の世界に生きることの素晴らしさを教えていただいた方です。本当にありがとうございました。感謝の思いでいっぱいです。

◆熱く自分に厳しい人

 <映画「居酒屋兆治」で共演した歌手の加藤登紀子さんの話>一九六〇年代に青春を生きた私たち世代にとって、高倉さんの生き方はバイブルでした。たった一人でも大きな力に立ち向かっていける人であること、必死で生きるすべての人に心を寄せる熱い人間であること、そして自分に厳しく、迷いながら生きるさすらいの心を持ち続けること。亡くなったと知り、寂しさでいっぱいです。妻役をやらせていただいた思い出を何より大切に、心からご冥福をお祈りします。

◆本当の神様になった

 <俳優大竹しのぶさんの話>「鉄道員(ぽっぽや)」での、たった一度だけの共演でしたが、十本も二十本も映画を撮ったような、豊かで素晴らしいことをたくさん教えていただきました。映画人「高倉健」の魅力は、そのまま、人間「高倉健さん」の魅力です。美しく、気高く、そして何よりも優しい健さんを一生忘れません。神様みたいな人が、本当の神様になってしまったようです。寂しいです。

◆唯一尊敬し続けた方

 <若手俳優時代、東映大泉撮影所(東京都練馬区)で一緒だった千葉真一さんの話>高倉さんは私が人生においても俳優としても唯一、尊敬し続けた方でした。撮影所でスタッフとけんかをして俳優をやめようとしたとき、一緒に撮影所内を謝って歩いていただいたこともありました。人のささいなことをしっかり見ていて、ふとした時に何げなく気を配る。まねできるものではありません。日本の映画界にも私個人にも大変大事な方の訃報に、信じられない気持ちです。ご冥福をお祈りします。

◆先輩との交流は誇り

 <星野仙一前プロ野球楽天監督の話>明治大学の先輩で「ミスター・ベースボール」の撮影の際にあいさつに来られて、ユニホームの着こなしなどのアドバイスを聞きにいらっしゃいました。どちらが先輩か分からないくらい恐縮されていたのを覚えています。本当に優しく、格好よく、先輩とお付き合いさせていただいたことを誇りに思います。

◆テレビ各局が追悼番組

 10日に亡くなった俳優高倉健さんの追悼番組が相次いで放送される。テレビ各局が18日発表した。

 テレビ朝日系で19日放送の「徹子の部屋」は、高倉さんが過去に出演した映像を編集して放送する。高倉さんの映画の代表作では、BS−TBSが22日に「駅 STATION」、WOWOWが24日に「鉄道員(ぽっぽや)」、NHKがBSプレミアムで25日に「ホタル」をそれぞれ放送する。

 

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