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生活部記者の両親ダブル介護

(5)母の転院 寝台ごと福祉タクシーで

福祉タクシーに乗せられる母。20分ほどの移動で料金は3500円でした

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 母(80)が急ぎ転院することになった。きょうびは病院に長居させないのが国策であることは知っていた。だが、実際にそう求められると戸惑うばかりだ。

 新しい病院? どこに? 費用は? 不安に陥っているところに、病院のソーシャルワーカーを紹介された。転院先の候補、受けられる医療や介護、費用などについて説明を受ける。あまり選択肢はない。促されるように、ある病院に申し込む。

 会社の介護休暇を取って転院の手続きを行った。「お母さん、今日は引っ越しですよ」と声をかける。母はかすかにうなずくが、落ち着く間もなく親を移すことに後ろめたくなる。

 移動には、寝台ごと乗降できる福祉タクシーを頼んだ。後部のスロープから押し上げられていく母を見て、母はもう自分では動けないのだと実感する。

 老いとは、好きな時に好きなところへ移動できなくなることでもある。父(79)が車を手放した時もそうだった。父が七十五歳を超えたころだと思う。父の車に傷が増えた。車庫に面した家の配管も傷んでいる。「人をひくんじゃないか」と母も案じたが、父は聞かない。「車なしでは生きていけん」と。ある時、父は車庫入れに失敗して塀を崩した。父が意気消沈している隙に、弟は車を廃車にした。

 高齢ドライバーによる事故が増え始めていた。人を傷つけないうちに、軽く済んだとほっとした。だが、それで父はますます家に閉じこもった。事故を防ぐためとはいえ、移動の自由を奪ったことで、父の老いを早めたのかもしれないと、今では思う。

 (三浦耕喜)

 

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