トップ > 特集・連載 > あの人に迫る > 記事一覧 > 記事

ここから本文

あの人に迫る

中邑賢龍 異才発掘プロジェクト率いる東京大教授

写真・河口貞史

写真

◆別々の箱でいい 学びの居場所を

 学校では「みんなと違ってちょっと変」と言われて居場所がなくても、大きな可能性を秘めた子どもたちに自分に合った学びの場を。東京大先端科学技術研究センターと日本財団が実施する「異才発掘プロジェクト」が模索するのは、型にはまらない新しい教育のかたちだ。同センター教授でプロジェクトのディレクター中邑賢龍さん(62)に、教育はどうあるべきかを聞いた。

 −不登校の子らが集まるプロジェクトは五年目を迎えます。成果はありますか。

 成果を言われるのは嫌だというのが正直なところ。一年や二年で子どもがどう変わったかなんて短期的な変化を目指していません。成績なら変わるかもしれないが、これは子どもの生き方ですよ。その結果が出るのは先。ただ、参加する子の三分の二は学校に帰っていきます。残りの三分の一は道を見つけ自分で動き回っている。彼らは学校に合わないのが事実。合わせることもできるかもしれないがそれは無駄な時間です。キノコの観察をしていたいのに、教室でじっとしろと言われるのはね。

 −学校教育が合わない子は一定数いる。

 参加者には読み書きが困難な子も多いです。それで入試の道が閉ざされる。この前、応募者の面談で会った中学生が、学校に正門までは行っていると言った。「何しに?」と聞くと、出席をもらうため。でも授業に出ていないから内申点はもらえない。先生には「この地域には君が行く高校はない」と言われたという。

 先生は、言うことを聞かない子に憎しみがあるんでしょう。なんで来ないんだ、と。先生もそこで評価されるところがあるでしょうから。わがままとしか映らないでしょうね。勝手な発言をする、授業中うろうろする子は内申点が低い。そんなフィルターをかけて振り落とす仕組みになぜしがみつく必要があるのか。でも今の学校は残念ながらそうなんです。

 −目指すのは、学校とは別の道?

 学校ではなく居場所。僕は「アカデミック・リゾート構想」と呼んでいる。学ぶことで癒やされる場所をつくりたい。僕は今、全国の小中学生に年間十枚の「お休み券」を配ってくださいと学校にお願いしている。それを使えば平日どこにでも行ける券です。例えば、隣の学校にカブトムシの専門家が来ると聞けば行く。自分だけ別の学校に行くのは勇気がいるが、その不安を越え、自らそこに行く力を育てるのもアクティブ・ラーニングだと思う。

 変わった趣味の子は友達がいないんです。野球には興味がないけれどスコアブックだけが好き、とか。その子たちが行ける場所をつくりたい。その道の専門家が来て、それが好きな子どもたちが集まって、プロはすごい、と思う体験ができるような。学校ではばかにされるけど、ここに来たらこんなに友達たくさんできた、と。それだけでその子は癒やされ、一年間持つと思う。全国の自治体と連携し、そんなオタクのプログラムを作りたい。オフシーズンに子どもたちでいっぱいになるわけですから、地域おこしにもなる。

 学校がつらければ行かなくてもいい、という雰囲気は社会でも出てきた。でも受け入れる場所がない。アカデミック・リゾート構想のように、子どもの活動の場をつくるべきです。

 −プロジェクトに来る子も、学校に行かないでいいのかと気にしているんでしょうか。

 みんな、気にしていますよ。ふと不安になることがあるんでしょうね。自分は一人で大丈夫か、と。仲間は欲しいですよね。だけど今の学校は、友達を無理やりつくろうというところじゃないですか。友達がたくさんできるのが良いこと、という教育はやめてほしい。明るく強く元気よく、という標語に合わない子はみんな駄目なんですよ。暗く静かでおとなしく、という標語を掲げたクラスをつくるべきです。多様性といいながら、学校の方針そのものが、人間の個性を無視している。積極的に違う学びの場を選ぶ子が出てこないと、この国は危ないですよ。海外に行く留学生も減っている。モバイル決済でもライドシェアでも後れを取り、国際競争力がそがれている。イノベーションはこれでは起こりにくい。

 −学校が合わない子には発達障害と診断される子もいます。そうした子が受ける特別支援教育をどう思いますか。

 小さな集団指導にすぎず、結局、一斉指導です。学ぶところや時間が別でも、互いに尊重し合い、大人になったら一緒に働くのが本当の共生社会。でも今は無理やりひとつの箱に入れて効率化をしている。不登校の子はまさにインクルーシブ教育から逃げ出した子です。別々の箱でよくて、どっちのほうがいいのかと考える必要はない。学力検査でできる人が優秀で、偏差値の高い大学が良いという社会が問題。評価軸はぶれさせないといけない。

 −ご自身はどんな子どもだったのでしょう。

 チョウの生殖器ばかり見ていました。学校の行き帰りは昆虫採集の時間。つかまえてきては観察し、新種はいないかと見るのが楽しくてしょうがなかった。友達に「遊ぼうよ」と言われても忙しいんだと言って。自分が変な子だとは思っていなかったです。親も何も言わなかった。ひとりで何かをやるのが平気でした。

 −ツールで人の力を引き出す人間支援工学に進むきっかけは。

 大学院で実験心理学を学んでいた時、ストレスで胃が痛いという四肢まひで寝たきりの人に、声で遊べるゲームを作ったら、胃の痛みがなくなった。大人がなぜこんな単純なゲームにはまるのかと聞いたら、「これを使えば対等さ」と。僕も「あ」、彼らも「あ」ですよ。初めて同じベースで勝負ができたわけです。そうか、技術は人をそろえるんだ、と。個々の能力、特性はみんな違う。それを最大限に引き出す環境とテクノロジーが重要です。

 −どこまでツールの力を頼ってよいのでしょう。

 学び方をちゃんと教えるべきです。調べることは学ぶことではない。知識は自分の経験の中で見いだしていくもの。体を動かして、街を歩き、物を観察する。昆虫の名前に詳しい子はいっぱいいます。じゃあそのへんで探して、と言ってもほとんど探せない。魚が好きと言う子でも、実際に魚には触れないと言う。きれいだから好き、でも気持ち悪いから嫌だと。そんな知識なんか知識じゃない。丹念に魚を見て、魚の構造ってこうなんだ、別の魚とはこう違うぞ、と気づくことをやらせないといけない。

 −「変な子」に悩む保護者にメッセージを。

 子どもを変えること、集団に入れることを諦めましょう。この子に合った場所を僕たちは一生懸命つくる。諦めろと言って行き場がなかったら無責任。だから一緒につくっていきましょう。まず一緒にこの子たちと笑いましょうよ。「おまえはばかじゃない。ばかにしている社会がばかだ。みんなそれぞれ良いところと悪いところがある」、そう言うと子どもはにやっと笑い、泣く子もいます。秘めていた思いが噴き出て、「ああ、このままでいいんだ」って思ったとたんにね。

 <なかむら・けんりゅう> 1956年、山口県出身。広島大大学院教育学研究科博士課程後期単位取得退学。日米英の大学で研究を続け、2005年に東京大先端科学技術研究センター特任教授、08年から教授。専門は人間支援工学。14年から日本財団と共同で、ユニークな能力のある子どもたちに学びの場を提供し、イノベーションを起こせる人材を養成する「異才発掘プロジェクト ROCKET」を実施する。小学3年生〜中学3年生を公募し4期生まで計91人が受講。世界で活躍するトップランナーの講義や、鈍行列車で日本を横断する「最果ての旅」など独自のプログラムを東大などで月1回程度開いている。著書に「育てにくい子は、挑発して伸ばす」ほか。

◆あなたに伝えたい

 自分が変な子だとは思っていなかったです。親も何も言わなかった。ひとりで何かをやるのが平気でした。

◆インタビューを終えて

 「中邑先生、聞いて、あのさ…」。プロジェクトに来る子どもたちから慕われ、先生はとても優しい目を向ける。

 どうしても学校に合わない子はいる。周りと合わず自分の世界に入り込んでしまった子どもやその親は、その子が「天才」だと思い込むという。そんな時、中邑先生は一流の人たちの技を見せ、「参った」と思わせる。世の中にはもっとすごいやつがいる、やれるものならやってみろ、と。

 上には上があると知った子は、負けじと力をつけていく。自分を囲う枠を突き抜ける。学びとはその積み重ねなのだろう。

 (神谷円香)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索