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あの人に迫る

堂本暁子 元千葉県知事

写真・木口慎子

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◆女性受刑者らの処遇改善は天命

 女性の受刑者は今年一月末現在で、三千八百三十人。女子刑務所は以前、定員を超す過剰収容が続いていたが、その解消に向けて働きかけたのが、ジャーナリストであり、参院議員、千葉県知事も務めた堂本暁子さん(85)だ。五年前から、最後の「天命」として、女子刑務所の問題に取り組み続ける。

 −五年前の二〇一三年、民間で「女子刑務所のあり方研究委員会」を設立し、国や自治体に処遇改善などの提言をしてきました。活動を始めたきっかけは。

 六年前、女性の受刑者だけを収容する栃木刑務所を訪問する機会がありました。そこでは目を疑うような光景が広がっていました。腰が曲がった白髪のおばあさんがシルバーカーを押したり、車いすに乗ったりしていたんです。

 知的や身体、精神障害者や薬物依存症の受刑者も少なくなかった。収容率は120%で、受刑者は定員よりも約百三十人も多く、若い刑務官が必死で対応していたのが印象的でした。

 高齢の受刑者は万引などの窃盗、若年層は薬物で有罪になった人が大半だということにも驚きました。殺人や強盗、傷害などではなく、認知症や障害があって軽微な罪を犯した人は、刑務所ではなく、地域で更生させた方が良いのではないか。そう思いました。

 私はジャーナリストを三十年、国会議員を十二年、千葉県知事を八年やりました。どこまでいってもジャーナリストであり、政治家なんですね。刑事司法は門外漢ですが、現状を知れば行動を起こしたくなる。

 でも、一人では国を動かせない。医師や有識者、女子刑務所の元所長ら十五人ほどで、一三年二月に委員会を立ち上げ、三月に法相に処遇改善の陳情をしました。厚生労働省と連携して刑務所内の医療・福祉の問題に取り組むほか、刑務所が置かれている自治体に協力を求めることを望むといった内容です。

 −一四年四月から、佐賀県の麓(ふもと)刑務所などで女子施設地域支援モデル事業が始まりました。

 陳情した際、当時の谷垣禎一法相も問題を認識していて、「あり方研究委員会の協力も得ながら改善を目指したい」と言っていただけました。すでに機は熟していたんですね。

 麓刑務所では、まず医療・福祉面で専門の知識がある看護師や保健師、社会福祉士、助産師など十六人が非常勤の国家公務員として雇用されました。

 刑務官は看護や介護の専門家ではありません。一方で受刑者は自己表現が苦手な人も多く、医療・福祉面で双方に戸惑いがあった。専門家が女性特有の健康問題の指導や、母親の受刑者を対象に教育を行うことで、刑務官の負担軽減にもつながりました。

 −今では、全国十一の女子刑務所全てで、医療・福祉面の改善が進みました。

 これまで委員会のメンバーや法務省職員と一緒に、女子刑務所のある北海道や岐阜県などに出向きました。地域で刑務所を支え、出所者を受け入れる体制づくりをお願いするためです。

 まず、知事に支援の重要性を理解してもらう必要があります。自治体や関係団体に理解してもらうように一から働き掛けるのは、すごい力仕事なんです。

 自分自身を振り返ると、千葉県知事公舎は千葉刑務所の隣にありました。でも訪ねたことはなかった。保護司とは協力していたけれど、刑務所は制度上、国の仕事と考えていたことは間違いだったと思います。

 −一六年十二月、自治体が再犯防止の政策を行う「責務」があると明記された再犯防止推進法が施行されました。再犯を減らす取り組みは進んでいますか。

 法務省によると、再犯者の七割は職がなく、五割超がホームレスやネットカフェなどで寝泊まりする人です。出所してまず困るのは仕事と住まい。再犯を防ぐには、出所した人の生活基盤を確立させなければなりません。

 そのためには、自治体や保護観察所、福祉関係者、弁護士などがネットワークをつくり、総合的に支援することが不可欠ですが、現状はまだまだです。

 全国初の「再犯防止条例」制定を目指す兵庫県明石市の取り組みが先駆的です。市には更生支援担当の職員がいて、県内の神戸や加古川刑務所の受刑者と面接し、出所後、明石市に戻ってくる人を支援しています。出所後に住む所がない高齢者のために福祉施設に入所できるように手配する。障害があるのに障害者手帳を持っていない人のためには、交付を申請する。介護認定や生活保護などの手続きも支援しています。

 明石には、播磨社会復帰促進センター、県社会福祉士会や市保護司会、地域のNPO法人など計三十五団体でつくる「明石市更生支援ネットワーク会議」もあります。ほかの自治体にも広がってほしい。

 −八十五歳の誕生日を出生地の米国で過ごし、現地で視察をされました。

 カリフォルニア州のロサンゼルス郡が運営する刑期一年未満の軽犯罪の受刑者を収容する「ジェイル」を訪問しました。ジェイルの玄関を出てすぐの場所には、出所後に行き場のない人をシェルターに案内したり、地域の支援団体につなげたりする窓口が置かれていました。出所後の生活を支援する手厚い体制を目の当たりにしました。

 薬物依存症者などのためのリハビリ施設や社会復帰を支える民間団体なども視察しました。更生支援の活動をしていると言うと、米国では「良い仕事をしてますね」と言われます。でも、日本では「どうしてそんなにこわい所へ行くの?」と心配される。社会の意識の違いを感じます。

 日本の刑のあり方は明治時代から根本的に変化していません。国が刑務所を運営し、「悪い者は罰せよ」という風潮が根強い。国の仕事と割り切らずに、出所後、地域がどう支援するか考えていくべきでしょう。

 再犯の多い薬物犯罪や軽微な罪をおかした人は刑務所の外で面倒を見るべきだと思います。ただ、福祉へと丸投げされたら、問題が起こりうる。自治体だけでなく、司法からも弁護士らが伴走者としてフォローアップする必要もあります。

 −最後に、長年パワフルに活動を続けられる原動力を教えてください。

 信条などはありませんが、とにかく好奇心が強い。気付いたことを何とか訴えたいと、馬車馬のようにやってきたら、いつのまにか八十五歳になってました。

 スウェーデンの学者が「その国の政治の極限を表すのは刑務所のあり方だ」と言っています。不遇な生き方をした人たちにどう対応し、どう支えていくか。私自身、気の弱いところもあるんでしょうね。弱者がいれば自然と手を差し伸べたくなる。

 更生支援の活動はジャーナリスト、国会議員、知事をしてこなかったらできない仕事だと思います。「天命」って気がしますね。最後の仕事として全うしたいです。

 <どうもと・あきこ> 1932年米カリフォルニア州生まれ、東京育ち。東京女子大文学部卒業後、TBS記者・ディレクターとして報道番組の制作に携わる。80年に報道ドキュメンタリー「ベビーホテル・キャンペーン」が児童福祉法改正につながり、日本新聞協会賞、放送文化基金賞、民間放送連盟賞などを受賞。89年、参院議員になり、社会党・護憲共同会派に所属。2001年から2期8年、千葉県知事を務める。

 11年から男女共同参画と災害・復興ネットワーク代表となり、女性の視点を生かした避難所運営や災害支援などを提言する。13年から女子刑務所のあり方研究委員会委員長を務める。ジェンダーと生物多様性がライフワーク。

◆あなたに伝えたい

 出所してまず困るのは仕事と住まい。再犯を防ぐには、出所した人の生活基盤を確立させなければなりません。

◆インタビューを終えて

 さらさらと澄んだ声でよどみなくしゃべる。堂本さんの講演会を聞いた時の印象だ。インタビューでは、一つ一つの質問に、丁寧かつ流ちょうに答えてくれた。自身を「馬車馬のよう」と評すのは、発言や行動に迷いがないからこそだろう。

 一般的に、塀の中の現状は見えにくく、理解されづらい。長年ジェンダー問題に取り組んできた堂本さんならではの行動力に感服する。でも、失礼ながらご本人の歩幅は小さく、ゆっくりと歩く。「ご体調はいかがですか」。そっと尋ねると「この年なりに、ですよ。最近はプールで歩いたりして、リフレッシュの時間も大事にしてるの」とにこやかに教えてくれた。

 (督あかり)

 

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