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あの人に迫る

安田秀一 「ドーム社」会長・法政大アメフット部総監督

写真・淡路久喜

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◆古い体質改革し スポーツ産業化

 大学時代のアメリカンフットボール部の仲間と創業し、年商四百億円に成長した「ドーム」社のトップと、同部の総監督を兼務する安田秀一さん(48)は、ビジネスマンとアスリート視点でスポーツ界の改革を積極的に提言する異色の存在だ。「スポーツの産業化」で日本が後れをとっていると指摘し、同世代に「熱い気持ちで改革の中心に」と呼びかける。

 −起業する前は商社マンでした。当初からスポーツ業界を志したのですか。

 僕は一九六九年生まれで「新人類」とか「ジェネレーションX」と呼ばれた世代。バブル景気に狂乱し、みんなが同じように土地や株を買う団塊世代を冷静に見て、違和感を覚えていました。

 僕もそんな流れに乗って二十二歳で三菱商事に入社。自動車部品の輸入に携わりましたが、「ここに四十年はとてもいられない」とすぐに思いました。ローンを組んでマンションを買って、子どもの受験に悩んで…という先輩たちと同じ生活をするのかと思うと、本当にこれでいいのかと苦悩した。商社の仕事の仕組みが分かり、先が見えると「もうダメだ」と決意して四年で退社しました。

 自分は何をしたいかと考えました。僕たちの世代にはやった歌は、槙原敬之の「どんなときも。」やKANの「愛は勝つ」。それもあって、青くさいけど自分というものを大事にしたいと思った。振り返ってみて、何よりも熱中したのが高校で始めたアメフット。こんなに自分の感情があらわになるものはない。食っていけるか分からないけど、スポーツを商売にしようと決めました。

 −起こしたドームはどんな会社なのでしょう。

 法政大アメフット部時代の仲間と二人で、九六年に始めました。卸問屋を通さずテーピング用テープを安価で販売する事業はうまくいったのですが、当初は資金繰りが大変。週末にアメフットの実業団チームでコーチをして、その給料で生活していました。

 米スポーツアパレル「アンダーアーマー」を知ったのは九八年です。海外の業界を学ぶため、募集のあった米プロフットボールNFLヨーロッパの短期コーチに志願しました。選手がユニホームの中に着るアンダーアーマーのシャツは伸縮性の高い化学繊維で体にフィットして動きやすく、「これしかない」と確信しました。綿だと二試合ほどで破れてしまうし、汗を吸うと重くなるから、選手時代から用意に苦労していました。

 選手に提供され始めたばかりの時期で、日本に持っていったら取引先のチームに喜んでもらえる。すぐ、タグに書いてあった番号に電話しました。向こうも社員が二人しかいなくて、電話に出たのはケビン(・プランク米アンダーアーマーCEO)。「日本で売りたい」と言ったら、あっさりOK。一カ月後にシーズンが終わると米国に行って、契約しました。

 −それから二十年足らずで売り上げを伸ばし、プロ野球の巨人やバスケットボール日本代表をはじめさまざまな競技の一流アスリートと契約しています。

 わが社の昨年度の売り上げは四百二十一億円で、九割ほどがアンダーアーマー製品。米国のアンダーアーマー社は五千六百億円以上でした。理由は一つではなく、運が良かった面もあるのでしょうが、ケビンも僕もアメフットの元選手で、顧客目線を持っていたことが大きい。自分がヘビーユーザーで、一番欲しいものを作っていく姿勢が良かったと思っています。

 −「スポーツの産業化」に社として取り組んでいます。

 スポーツを大好きな人は、それでめしを食っていきたいんだと思う。だけど、その方法が分からない。米国のスポーツ市場は九五年に二十兆円に満たなかったのが、今や六十兆円規模。中国も二〇二五年までに百兆円産業にすると言って、F1から市民マラソンまで具体的にものすごい投資をしているわけですよ。それなのに、日本は五兆円台から四兆円ほどに下がっている。

 いろいろ調べていくと、六四年東京五輪の時にできた法律をそのまま引きずっていることが障壁になっていると感じました。たとえば、スタジアム周辺で商売をするには、長らく都市公園法の規制が掛かってきた。米国は食事やビールを売るだけでなく、いろんなビジネスが行われるのに、日本では商売ができないから、試合が終わったらすぐ帰らされる。

 スポーツビジネスを考えると、日本の国全体の見直しになっちゃう。だから、スポーツを通じた日本の改革みたいなことまで言っているんですけど。

 −改革したいと思うのはどんなことでしょう。

 八四年のロサンゼルスや二〇一二年のロンドンなど、近代的な五輪といえる大会はビジネスマンが事務総長になって、黒字を収めてきた。それが、日本では三兆円かかるなんて言っている。東京五輪組織委員会のオフィスを、あんなに賃料の高い虎ノ門ヒルズに構えていては当たり前。ホテル不足でも民泊が進まないし、一般の人が自家用車で参入できる米発の配車サービス「ウーバー」も規制されている。業界に配慮しているからでしょう。どちらを向くべきか分かっていない。既得権とか利権が乗っかりすぎている。

 利益をもたらすものに対する視点も足りません。昨年、サンフランシスコにアメフットの一大イベント「スーパーボウル」を見に行きましたが、空港に来た自家用ジェットは千四百機ですよ。五輪の時にも何百機来るか分からない。国土交通省の人と話したら、まったく想定してないって。ビル・ゲイツが新幹線に並ぶと思います? そうすると上海が自家用ジェットの受け皿になるかもしれない。セレブからの利益は全部取られてしまう。

 中央だけでなく、地方自治体も硬直している。ドームの物流拠点を置く福島県いわき市にサッカークラブをつくって地域創生の活動もしているんですが、国の予算を引っ張ってくるだけでなく、自分たちの個性を出さないといけない。

 いわきには三十四万人の人口がいて、毎年四千人ずつ減少していく推計がある。市も半端でない危機感を持っている。それを食い止めるには、若い人が行きたいと思えるようなまちにするしかないでしょ。いわきには、わが社のほかに自動車関連とアパレルの大きな工場があるから、コンピューター関連やデザイナーの集まる大学をつくるとか。

 −スポーツ界から情報発信する意味は何でしょう。

 スポーツを通じた方が発信力があるんですよ。新聞に毎日出るし、社会性を持っている。学校に冷房を設置したいと思った時、教室なら「ぜいたくだ」と言われかねないけど、スポーツチームの体育館で熱中症になったらどうするか、と考えれば響くかもしれない。

 一番痛恨に思っているのは、ジェネレーションXが結局、団塊世代に負けている。何かを変えようとすると全部嫌がられ、具体的な議論も避けられる。次の東京五輪にしても、企業だったら定年を過ぎているような人が仕切っている。

 戦後、日本は無思考のまま経済だけ成長してきた。バブル崩壊後も上の世代がいばっていて、無思考な僕らの世代は黙って聞いている。ちゃんと自分たちの価値観で槙原敬之をもう一回聴いてほしい。「僕が僕らしくあるために『好きなものは好き!』と言える気持ち 抱きしめてたい」って。

 <やすだ・しゅういち> 1969年、東京都生まれ。法政大文学部卒。法政大アメリカンフットボール部で主将として関東2位。学生全日本選抜でも主将を務めた。96年にスポーツ用品の輸入販売を手掛けるドーム社を設立し、米国のスポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店となる。現在の肩書はドーム社の会長兼代表取締役最高経営責任者(CEO)。大学スポーツの産業化と選手の環境改善にも積極的に取り組み、2016年9月に法政大のアメフット部監督、17年1月からは総監督。8月から筑波大の客員教授も兼務している。スポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員も務めている。

◆あなたに伝えたい

 結局、団塊世代に負けている。何かを変えようとすると全部嫌がられ、具体的な議論も避けられる。

◆インタビューを終えて

 言いたいことが、次から次へとわき出てくるようだ。予定時間を越えた一時間半の取材で口調はどんどん熱を帯び、「おかしいと思うことは許せない」というシンプルな信念が伝わってきた。反感を恐れない自信の源を尋ねると「合理的なだけ。優れた意見は聞くけど、僕の意見の方が合理的だから」と真顔で言われた。こう言うと怒られそうだが、ホリエモンこと堀江貴文さんを思い出した。

 質問と離れた想定外の回答も多かったが、「予定調和の取材じゃダメ。老けるばっかりですよ」とばっさり。紙面の感想を聞きたいような、怖いような。

 (荒井隆宏)

 

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