トップ > 特集・連載 > あの人に迫る > 記事一覧 > 記事

ここから本文

あの人に迫る

アフメットジャン・オスマン ウイグルの詩人

写真・五十嵐文人

写真

◆国を失う悲しさ、三島さんに重ね 

 日本でも詩集が出版されているウイグル人の代表的詩人で、「東トルキスタン亡命政府大統領」を名乗るアフメットジャン・オスマン氏(53)。多くが中国新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族は、二十世紀前半に独立国家を宣言した歴史を持つ。亡命先のカナダから来日した機会に、主権回復運動や日本文学への思いを聞いた。

 ―初めて日本へ来て桜を目にした時、「懐かしい」と感じたそうですね。

 桜の花を最初に知ったのは三島由紀夫さんの四部作「豊饒(ほうじょう)の海」の第一巻「春の雪」です。三島さんら日本の芸術家たちの作品を通して、桜という(日本の)シンボルを想像していました。二年前の三月に初来日し、横浜で満開の桜を(初めて)目にした瞬間、私の内なる桜も満開になった感覚を味わったものです。

 ―満開の桜は、とてもはかない存在に思えます。

 桜は、一瞬輝いて消える存在ですね。そもそも永遠は、人々が考えているようなものではなく、ある意味で一瞬だと思います。日本の作家は、永遠が一瞬であると教えています。逆に、一瞬を永遠にも、できるのです。

 ―何事も永遠に続くと思うと、その一瞬一瞬が持つ大事な意味を見逃してしまう。一瞬一瞬の輝きをしっかり捉えることの大切さでしょうか。

 そうですね。一瞬を見据えることの意味を、三島さんは彼自身の人生でもって証明しました。闇に一瞬、輝いて消えた花火にもたとえられます。

 ―三島のナショナリズムや、「憂国」の情に共鳴するのですか。四十五歳で割腹自殺した生涯に興味を抱いたのでしょうか。

 その三つとも、私には当てはまります。特に、国を憂える姿勢、大和魂がなくなった時に日本は滅びる、という精神に最も共感します。三島さんが言っているのは、(狭隘(きょうあい)な)民族主義に根差した大和魂ではないと思います。日本を国際社会で生きさせる(ための)魂だと感じます。

 私は「魂にさくらを咲かせる人間は…自分を見つけられた人間だ。自身にウイグル人を、日本人を、アメリカ人を同時に見出せた人間である」と詩集の序文に書きました。

 ―他人の抱える問題を自分の問題として意識できる人間、つまり他人の個性を尊重しつつ普遍的な物の見方を獲得したコスモポリタン(民族的偏見のない国際人)が理想ですね。

 まさに、その通りです。恐らく、私は三島さんと魂が一緒なのです。私の魂の中にも桜が咲いている、と信じています。

 ―国を奪われたウイグル人だからこそ三島の思想に深く共感するのでは。

 国を守るという気持ちを忘れると、国を失ってしまう。その悲しさ、切なさ、痛み、怒りを、三島さんは訴えているのでしょう。

 私の祖国「東トルキスタン」(中国新疆ウイグル自治区)は、中国政府が送り込んだ大規模な軍隊によって軍事占領されています。中国政府は、モスク(イスラム教礼拝所)を壊し、礼拝の自由を奪う宗教弾圧の法律や規則を作って、住民が反発するように仕向けます。その反発を「テロだ」と、国際社会に向けて宣伝し、軍事占領を正当化するのです。

 ―米政府も、独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」をテロ組織に指定していますが。

 中国政府のでっち上げです。政府に都合の悪い活動を全て、この「運動」によるテロと決め付けるわけです。私たちはテロには断固として反対します。

 宗教弾圧が深刻化する理由の一つは、中国政府が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」の成功のために、東トルキスタンの安定維持が不可欠だという彼らの考え方です。一帯一路は、中国の経済を欧州や他の地域に直接結び付けるネットワークづくりの計画で、地理的にも東トルキスタンが要衝となります。もちろん、以前から中国の安全保障にとって東トルキスタンは極めて重要です。

 ―歴史的に共産主義イデオロギーには、宗教一般の否定という側面も含まれていました。

 中国には、私たち以外にも、イスラム教を信じる回族がいますが、中国政府は寛容で、介入しません。ウイグル人の民族意識、民族的なアイデンティティーを消し去ることに狙いがあるのは、明らかです。

 ―言葉の問題は。

 今ではウイグル人は保育園から、強制的に中国語を習わされます。小学校では中国語の教科書を開かなければなりません。(ウイグル人の母語の)ウイグル語は、かつてない消滅の危機にひんしており、ウイグル文学やウイグル文化など言語に連なる全てが崖っぷちに立たされています。

 ―人権問題に関心を示さないトランプ米大統領が今年一月に就任した時、あなたはトランプ政権への期待を口にしましたね。

 本来ウイグル人の国である東トルキスタンにおいては、人権侵害や宗教弾圧ではなく、主権の回復こそが問題の本質です。独立が解決になります。

 トランプ氏は就任前に、(台湾を中国の領土の一部とする)「一つの中国」政策に揺さぶりをかける発言をしており、私は、(中国からの独立を目指す)東トルキスタンについても国際社会の認知度を高めるきっかけになる、と指摘したのです。同時に私は、トランプ氏が中国とのビジネスを重視して立場を(中国寄りに)変える可能性がある、とも付け加えました。

 ―北朝鮮の核・ミサイル開発の問題では、米政権は中国による北朝鮮への圧力にも期待しています。

 中国にとって、朝鮮半島の問題は(外交上の)大事な持ち駒(切り札)です。永遠に解決することはないでしょう。中国は、過去においても、現在も、そして将来も、和平の使者として働くことはない、と私はみています。日本には、中国の拡大主義と帝国主義を防ぐための努力をしていただきたいと思います。

 ―シリアへも留学していただけに、ウイグル人と同様に自分たちの国を求めているパレスチナ人の問題にも関心が深いのでは。

 ダマスカス大へ留学していた当時から、関心を抱いており、自由と主権を求める立場は、東トルキスタンと同じだと考えています。しかし、(中東に影響を及ぼす)米国の政策を見ると、イスラエル寄りの立場をとるのは歴代の米大統領の伝統です。

 特にトランプ氏は、(ロシアによる昨年の米大統領選への介入に共謀したのではないかという)ロシア疑惑などで、彼自身が激しく揺さぶられており、外交に力を注げるとは考えられません。中東和平に導く可能性はないでしょう。

 ―七回目の来日となった今回は、八月六日に広島で平和記念式典に出席されたそうですね。

 広島に着いた時、世界で初めてその地に原爆が投下された現実が身近に感じられ、神と共に震えました。原爆の地獄の炎に体を焼かれ、渇きに苦しみつつ川に身を投げた人々の、なすすべない叫びを耳にした気がしたものです。人類史上、最も残酷なこの犯罪に対する怒りが込み上げ、許せない気持ちでした。

◆あなたに伝えたい

 ウイグル文学やウイグル文化など言語に連なる全てが崖っぷちに立たされています。

 <アフメットジャン・オスマン> 1964年、中国新疆ウイグル自治区ウルムチ生まれ。新疆大からシリアのダマスカス大へ留学し、アラブ文学を研究。修士号取得。独立運動組織と接触し、90年に帰国後、就職が難航。94年、友人らが中国当局に拘束されたのを受け、シリアへ。文学作品を執筆。2000年から01年まで、サウジアラビア西部ジッダで、アラビア語雑誌編集長。01年、雑誌発行が差し止められ、シリアに戻る。04年、滞在許可を取り消され、トルコの首都アンカラへ。国連事務所で政治亡命が認められ、カナダに移住。スーパーで働く。15年11月、ウイグル人組織の一つ「東トルキスタン亡命政府」の総会で「大統領」に選出。詩集は『ああ、ウイグルの大地』(左右社)など。

◆インタビューを終えて

 初めて詩集を読んだ時、三島由紀夫へのただならぬ敬愛の念を知り、少し驚いた。三島作品は西欧的な様式を持つが、その思想はナショナリズムに深く根差す。ウイグル人の独立運動とどう結び付くのか、疑問だったからだ。

 話を聞いて、三島の持つ「大和魂」について、閉鎖的で排外主義的な理解ではなく、国際社会で生き抜くためのよりどころと受け止めるオスマンさんの考え方に、かなり納得できた。

 自分自身がよって立つ根を見つめ、個性を磨くと同時に、相手の個性や民族性を尊重すること。そこに、持論を広めていくカギがあるようだ。

 (嶋田昭浩)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索