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あの人に迫る

原丈人 公益資本主義提唱者

写真・岡本沙樹

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◆株主優先に弊害、会社を「公器」に 

 米国で長くベンチャー企業育成を手掛け、「会社は株主のもの」とする米国流の資本主義が「モノづくり企業の力を弱め、社会格差を広げる」と痛感した原丈人(じょうじ)さん(64)。従業員、取引先、地域社会への利益還元を重視する「公益資本主義」を提唱し、日本発の国家モデルとして世界に広めようとしている。

 ―「公益」の語感から利益を度外視する印象を受けます。

 逆に多くのもうけを出すことが最も重要な前提です。なぜなら公益資本主義は「株主」「従業員」「取引先」「顧客」「地域社会」など企業を構成するメンバーに、なるべく多くの利益を公平に分配することを目指すからです。私はこうした企業の構成要素を「社中」と呼んでいます。英語で言えば「カンパニー(仲間、会社)」です。

 公益資本主義は企業の潜在力を引き出し持続的な成長を実現します。一握りの富裕層に富が集中して中間層が没落する格差の拡大を防ぎ、民主主義を守るためにも、実体経済を豊かにする公益資本主義を広げる必要があります。

 ―現行の資本主義を英米型の「株主資本主義」と呼び、厳しく批判されています。

 私は米国、英国、イスラエルでたくさん会社をつくってきましたが、自分が大株主だからといって株主の利益を最大化するようなことは一切しませんでした。ところがナスダックやニューヨーク証券取引所などに上場すると、だんだん私の考えが通らないことが起きてきた。一九九〇年代半ばから二〇〇〇年ごろにかけてです。

 最初は上場企業の経営に向いていないのかと思いました。でも上場させた会社が、いわゆる「もの言う株主」らによって切り売りされるなど、自分の考えと違うことが多過ぎ、逆に英米型の資本主義がおかしいと思い始めました。もの言う株主らの狙いは会社の内部留保を吐き出させ、切り売りすることです。そうすれば、その時点の株主はすごくもうかりますが、従業員はばらばらになり、技術の継続性は断ち切られ、会社そのものがなくなってしまう。株主の利益を最重要視する英米型の資本主義は、企業の長期的な発展を阻んでしまうのです。

 ―株主制度にも疑問を示しています。

 私の経験では、会社をつくっても十のうち七つぐらいは失敗です。それぐらい大きい起業のリスクを取ってお金を出す創業期の株主と、上場後に投機目的で株を買い、短期で売り抜ける株主ではまったく質が違う。なのに両者に同じ権利を与えているのが今の制度です。「吸収合併、取締役の選任などの重要案件で株主の権利を行使できるのは三年以上の保有者に限る」など長期保有の株主を優遇する制度を設けるべきです。

 ―モノづくりには公益資本主義がふさわしいと訴えています。なぜですか。

 「会社は株主のもの」と考える人たちは、同じ百億円の利益ならば、十年より五年、五年より一年と、なるべく短期で得ようとします。しかしそんな短い時間では、新製品の研究開発に長い時間がかかる製造業は成り立たない。

 企業価値を測る指標の一つである株主資本利益率(リターン・オン・エクイティー、ROE)を重用する風潮も問題です。株主の資金がどれだけ利益につながったかを示すもので、会社の利益を会社の資産で割って算出します。ROEを上げるには、本来ならば利益を増やす努力をすべきなのですが、資産を減らした方が即効性があるので、十年単位で会社の将来を考えない経営者は工場を従業員ごと売却したりするのです。

 株主資本主義の下で、生活に有用なモノをつくり出し、たくさんの雇用を生む製造業が衰退してしまうのは、米国を見れば明らかです。結局、彼らのやり方では一秒間に数千回も株などを売買して利ざやを稼ぐマネーゲームが一番効率の良いビジネスになってしまう。

 ―なぜ、そんなことになってしまったのでしょうか。

 米国も一九八〇年代までは今ほど極端ではなかったのですが、米国の資本主義をけん制していた社会主義国家が破綻し、資本主義の悪いところばかりが大きく出てくるようになってしまいました。世界百九十三カ国の国内総生産(GDP)と、世界の民間企業の売上高の大きさを比較すると、半数は民間企業の方が国家よりも大きい。国家は国全体に税金を還流させますが、こうした巨大企業が利益を株主だけに還元したら世界は非常にいびつになる。今こそ企業の「公器性」を保つ規制が必要です。

 ―しかし世界標準になってしまった英米型の資本主義を変えるのは容易ではないでしょう。

 精神論ではなく相手が一番望んでいること、つまり株価を高くすることで変えていきたい。公益資本主義は、経済より倫理を優先するわけではありません。企業の持続的な成長を喚起して長期にわたって利益を生み出す点で、株主資本主義よりも優れているのです。

 ですから私は、英米型資本主義の指標であるROEに対し、会社を支える社中全体への貢献を測るリターン・オン・カンパニー(ROC)という指標づくりに取り組んでいます。従業員や社会全体に利益を還元するROCの数値を上げた方が株主だけのROEを上げた場合より、株価が高くなるという理論をつくりつつあります。これが完成すれば、株価が上がりさえすれば何でもいいという人たちも移行してくるでしょう。

 資本主義のあり方は制度やルールに大きく左右されるのですから、会社法や会計制度、税制、企業統治の仕組みを企業が持続的に成長しやすいように変えていけばいいのです。

 ―本当に実現できますか。

 会社の資産を吐き出させるだけのもの言う株主や、巨額資金で投機的な金融を操る者を、私は現代の奴隷商人だと思っています。奴隷貿易は今は違法ですが、当時は英国の綿布などをアフリカで奴隷と交換し、奴隷を米国で綿花や砂糖と交換する三角貿易で、とてももうかる最先端ビジネスでした。彼らはそれを誇っていて、その証拠に、奴隷貿易で栄えた英国リバプールの建物には、足かせをした奴隷のレリーフが今もあります。投機家の連中がやっていることは、奴隷商人と同じで今は合法かもしれませんが、百年後の人類の英知や倫理観からすれば違法になると思います。

 ―公益資本主義の考え方は日本人には受け入れやすそうです。

 日本にはもともと社員や経営者は協力し合うという考え方があります。公益資本主義は日本型経営の理念と深くつながっているのです。オムロンの立石一真さん、ホンダの本田宗一郎さん、ソニーの盛田昭夫さんや井深大さんなど私が出会った先達の経営者は皆さん「会社は社会の公器」との意識を持っていました。トヨタ自動車の豊田章男社長も公益資本主義に賛同されていると聞いています。

 英米型の資本主義が格差拡大で行き詰まる中、相対的に安定した雇用と厚い中間所得層を維持しているのは世界で日本だけです。二十一世紀の日本の使命は、公益資本主義を体現して世界のモデル国家になることだと思うのです。

◆あなたに伝えたい

 精神論ではなく相手が一番望んでいること、つまり株価を高くすることで変えていきたい。

 <はら・じょうじ> 1952年、大阪生まれ。慶応大法学部卒業後、考古学を志し、中米の辺境地帯を探検・調査。ドイツの考古学者シュリーマンにあこがれ、研究資金をビジネスで稼ごうと米スタンフォード大経営学大学院へ。在学中に光ファイバー製ディスプレーの製造などで起業し、得た資金で84年にベンチャー企業育成のデフタ・パートナーズを設立、現在グループ会長。85年に途上国支援などのアライアンス・フォーラム財団を設立し、現在代表理事。2013年から内閣府参与。文具メーカー役員だった父の故信太郎氏が趣味で製作した1500台の鉄道模型を展示する原鉄道模型博物館(横浜市西区)の副館長も務める。近著に「『公益』資本主義」(文春新書)。

◆インタビューを終えて

 資本主義のあり方を変えるという原さんの主張は壮大だ。でも説得力がある。米国流のビジネスと切り結んだ経験に基づく思想だからだろう。

 トランプ米大統領の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱は「株主資本主義で国内の製造業が衰退し、没落した中産階級が不満のはけ口を求めた結果」と原さんはみる。公益資本主義への転換は、民主主義を機能させる「分厚い中間層」を支えるためにも必要だと言う。

 どこの国でも希望や公正さが奪われたと感じる人が増えれば社会が乱れる。最悪、戦争が起きる。そうさせないための知恵が原さんの主張にはある。

 (宮本隆彦)

 

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