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あの人に迫る

仁藤夢乃 「難民高校生」著者

写真・淡路久喜

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◆自己責任にせず生の声を聞いて

 居場所のない少女たちを支援する「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃さん(27)は高校時代、繁華街を徘徊(はいかい)する毎日を送っていた。女子高生の性を目的に声を掛けてくる大人たちや自分と同じように苦しむ仲間たちに出会った。「難民高校生」だった仁藤さんに、これまでの経験と少女たちを取り巻く現状について聞いた。

 −高校時代は家に帰らず、渋谷で過ごすことも。

 月に二十五日は徘徊(はいかい)していました。両親が不仲で、家族が顔を合わせれば暴言が飛び交う状況。小さいころから、言うことを聞かないと引きずられたり、外に出されることも。「誰の金で食っているんだ」とか「言うことを聞け」って言われ、家が安心して眠れる場所ではなくなった。眠れないから昼夜逆転して、学校でも遅刻が増えて授業中寝ちゃうようになった。先生からは怒られるんだけど、家の事情は言いたくなかったし、言えなかった。

 今、関わっている子たちもそうなんですけど、家族だから嫌いになりきれなくて、周りに言えないんです。徐々に帰る時間が遅くなって、カラオケやファストフード店で朝まで過ごすようになりました。段ボールの上で一夜を明かしたこともあるし、自動販売機の下にお金が落ちていないか探したこともある。こういう話を、特に少年院に入っている子たちがすごく共感してくれる。同じような経験をしている子が、今もいるんです。

 −そこで出会った大人はどんな存在でしたか。

 声を掛けてくれるのは、買春しようとする人か、今で言うJKビジネスのような風俗店のスカウト。売春はしませんでしたが、声を掛けられると「自分も必要とされているのかも」と思ってしまうんです。そうやってその世界に入って、性病になったり中絶したりした子がいました。男の人はみんな体目的で、女の人は私たちに興味を持ってくれないと思っていました。

 −渋谷で遊ぶ姿は、はた目には楽しそうに見えていたかもしれません。

 そのころ、私が行っていたカラオケはアイスが食べ放題。トッピング用のシリアル(穀類の粉末)がご飯代わり。楽しく盛り上がっているかもしれないけど、そうしていないと保てない。仲良くしていた友達も、今思い返すとネグレクトや貧困の中にいたとわかるんですけど、当時はそんな話は一切しなかった。私も見せないことで強がっていました。今の子たちだって、困っていることや貧しいことがわかるようにはしていません。

 −今は大人として子どもたちに向き合っています。

 二年生の夏に中退し、高卒認定試験を目指して予備校に通いましたが、やりたいことや夢がわからなかった。そんな時に講師と国際協力でフィリピンに行く機会がありました。貧困の現状を海外で初めて見て、日本人相手に売春している女の子たちとも出会いました。私は「なんで日本と同じことがここで起きているの?」と思ったんです。社会の仕組みを知ろうと大学に進学しました。ネパールやフィリピンで国際協力活動をしていましたが、そこで出会う日本人の学生や大人たちは、日本の話になると急に「自己責任」にしてしまう。何も知らずに、私たちの生活を違う世界のことみたいに思っている。そういう現状を生きてきた者として、日本の問題に向き合っていきたいと思って活動を始めました。

 −昨年は売春する少女たちの現状を伝える「私たちは『買われた』展」を企画した。

 女の子たちの中から「売ったっていうより、買われたっていう感覚だよね」っていう言葉が出ました。児童買春を「援助交際」と言うことがありますよね。これってすごい言葉だと思うんです。「援助」だと思っている人が本当にいる。その暴力性や女の子の背景に目を向けないまま、自己責任論にしてしまう。女の子たちも好きでやっていることにした方が、社会も受け入れやすいし、苦しい現実に向き合わなくて済むのでしょう。買春は「援助」とか「交際」じゃなくて「暴力」と「支配」の関係性。どうしてそういう選択をしなくてはいけなかったのかを福祉や医療、教育の問題としてとらえる必要があると思います。

 遊ぶ金ほしさに売春しているっていうイメージがありますよね。確かに、聞かれれば言うんです。「手っ取り早く稼げるからやった」とか。だけどその背景には、その子に必要な衣食住を与えるふりをして近づいてくる手口があったりする。なぜ高校生がお金を必要としたのかに疑問を持ってほしい。友達の誕生日を祝うからとか、遊びに行くのにお金がないとか。行かなかったら仲間外れにされるし、「お金がない」なんて友達に言わない。そんな生活をしながら、上履きを買うお金や修学旅行に行くお金がない子もいる。そういうときに、「高校生」「日払い」「アルバイト」とか調べたら何が出てくるか。みんな当事者の言葉を聞かないまま、イメージができてしまっている。

 −夜の街を大人に案内するツアーもしています。

 最近は補導や規制がすごく厳しくて、居場所をなくした子たちがたむろできる社会のすきまがなくなっているように感じます。保護や安全という名目で、今の子たちは群れることすら許されていないですよね。一人で戦っていて、すごく孤独。SNSで知らない人と出会って、危険な状況に連れ込まれやすくなった。同じような境遇の子と支え合うということもできなくなってしまいました。

 私が高校生だった時には同じような状況の子たちと情報共有したり、何かを分け合ったりしていた。性の知識も覚えたし、何が危険かも感覚としてわかるようになった。性教育も命の大切さを伝えるようなことばかりではなく、もっと現実的なことを教えなきゃいけないと思うんです。たとえば彼氏がコンドームを着けてくれないとか、嫌なのに性行為をされる場合にどうすればいいのかとか。男の子たちが買春してしまうのも、教わってないからだと思うんです。加害者にならないための教育もされていないから、援助している気になっている人がたくさんいるんだと感じます。

 −今の子どもたちには何が必要でしょう。

 子どもたちが安心して暮らせる場所が必要です。今の保護のあり方では、社会から隔絶されることになってしまう。悩んでいる段階でも気軽に立ち寄れて、ご飯を食べられたり話せたりする場があればいいと思っています。

 例えば、「JKビジネスを規制しよう」という流れにはなっても、規制しただけではその子たちが行く場所はなくなります。そういう子たちが教育や福祉からこぼれ落ちないための、受け皿の議論をするべきです。自分たちの責任を振り返ってみて、自己責任論で片付けない社会になるといいなと思います。特に児童買春には背景があるんだということを知って、買う側の存在にも目を向けていくといいなと思います。

◆あなたに伝えたい

 貧困の現状を海外で初めて見て、日本人相手に売春している女の子たちとも出会いました。私は「なんで日本と同じことがここで起きているの?」と思ったんです。

 <にとう・ゆめの> 1989年、東京都生まれ。渋谷を徘徊(はいかい)する生活を送り、高校を中退。予備校の講師と出会って農業や国際協力に関わり、2009年に明治学院大に進学した。在学中から若者と社会をつなぐ活動を始め、東日本大震災後の11年に「Colabo」を設立。宮城県女川町の高校生と支援金付きの大福を開発して販売した。現在は代表理事として、居場所のない少女たちを暴力や性的搾取から守るため、夜間巡回や相談、一時的に過ごせるシェルターの運営をしている。講演活動や「夜の街歩きスタディーツアー」などで、中高生を取り巻く現状を発信している。著書に「難民高校生」(英治出版、筑摩書房)、「女子高生の裏社会」(光文社)。

◆インタビューを終えて

 一気に言葉を紡いでから、はっと気付いたように笑った。「おしゃべりなんです」。語られる少女たちの現状や過去の経験は厳しいが、穏やかな口調と柔らかな雰囲気が印象的だった。

 少女たちと対する時に心掛けているのは、「決め付けないこと」だという。怒りそうになっても「よく話してくれたね」と声を掛ける。自分の気持ちをぶつけるより、相手にどんな言葉が必要かを考える。だからこそ少女たちの信頼を得られるのだろう。少女に寄り添い、社会と向き合う。かつての「難民高校生」は、すてきな大人の女性に見えた。

 (中山梓)

 

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