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あの人に迫る

マイク・ヘインズ 元米海兵隊員

写真・望月衣塑子

写真

◆武力で平和、無理 9条生かす道を

 元米海兵隊員のマイク・ヘインズさん(40)は、イラク戦争に特殊部隊として従軍。民家を急襲したときに高齢の女性を壁に押さえ付け、若者を連行し、残された幼子の泣き叫ぶ声が忘れられないという。「自分がやったことこそテロ」。退役後は、ベテランズ・フォー・ピース(平和を求める元軍人の会)のメンバーとして活動。沖縄の基地建設反対運動にも加わる、その思いを聞いた。

 −なぜ、大学にいかずに海兵隊に入ろうと。

 バイブルベルト(聖書地帯)といわれるジョージア州の出身で、米国南部のキリスト教色が強い地域で、愛国心も強く、あおられました。子供のころは、おもちゃのピストルで戦車ごっこをし、戦争を美化するアニメもたくさん見ました。アーノルド・シュワルツェネッガー、ランボー、キャプテンアメリカなど、漫画も映画も戦争もの。星条旗があふれていた。米国では、スポーツのイベントさえ、愛国主義をかきたてる材料に使われています。

 米空軍の航空ショーをみてもらうとわかります。地上では戦争をテーマにしたカーニバルが繰り広げられています。子供たちは迷彩色のフェースペイントを施し、軍服を着せてもらい、ヤングマリーンと呼ばれます。海軍の兵士に本物の自動小銃を持たせてもらい、装甲車などにも乗せてもらう。私も幼少期に軍隊的価値観を遊びの延長で刷り込まれていました。

 子供時代のおもちゃのパッケージには「自由」「戦争」「軍事」と記され、重装備の兵隊や、おもちゃの武器があった。でもこれは、自由を得るには「人を殺さないといけない」というメッセージにも読める。こんなおもちゃで小さい時から遊んでいた米国の大人は、「自由はただじゃないんだよ」とよくいうのです。

 子供時代、戦争に関するものが楽しい思い出に彩られていました。そういう中で育った自分は、高校に海兵隊のリクルートが来たとき、何一つ抵抗を感じませんでした。

 同級生の女子が、制服姿の海兵隊員に「かっこいい!」とキャーキャー言って取り囲むのを見て、自分もあんなふうになりたいと思いました。兵隊になることに抵抗が全くなかった。むしろ憧れ、称賛の対象でした。

 −海兵隊に入り、二〇〇三年、イラク戦争に従軍しました。

 イラクでは毎日二〜四回は民家を襲撃したが、命令で受けた情報の六割は間違っていたんです。襲撃しようという家に着くや否や入り口を爆発させ、銃を構えて中に入る。よくやったのは、年配の女性を壁に押し付けて尋問すること。六、七歳の女の子が家の中にいて、ものすごい勢いで泣き、失禁して叫んでいた。いまでも自分の脳裏にこびりついていて離れない。

 襲撃した家に若い年ごろの男性がいると逮捕して、遠い所で尋問する。連れていかれたほとんどが生きて帰れていないと思う。こんなことを毎日やっていたらどうなるか、死や痛みがどうなっていくか。自分の中の人間性が失われていくのを感じました。僕がバグダッドに派遣されたミッションは「テロと闘って来い」だったが、自分がやっていることがテロだと思うようになりました。

 −退役後、苦しんだ。

 周りに溶け込めず、ふさぎ込みました。他人と自分を責め、ようやくみんなに話せるようになるのに十年かかりました。戦争は兵隊たちを追いかけてきます。自分と同じように皆、退役しても戦場でのことが頭から離れない。そういう思いを背負った人たちが社会に復帰しても、どんな態度をとるのか。家庭内暴力(DV)も生まれる、自殺をした友達もいます。戦争は終わらない、ずっと追いかけてくるんです。

 米軍の兵士は退役後、毎日二十人自殺している。戦場で衝撃的なことがあり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になり、立ち直れない人たちがたくさんおり、おびただしい数の人たちが自殺している。戦争で死んだ数より、自殺者の方が上回っています。

 PTG(心的外傷後の成長)というものがあります。私はPTSDになった後、自分のマイナスのエネルギーを何とかプラスに転換できました。PTGに到達することができた大きな理由の一つが農業です。自給自足で畑でさまざまな作物を育てています。戦争では死、痛み、破壊が常にありましたが、農業をやると作物を成長させているという感覚が、自分の痛みを癒やしてくれました。

 もうひとつは沖縄の辺野古や高江に活動家として、関わっていることです。一昨年の十二月には、沖縄でデモに加わりました。昨年の九月には、素晴らしい熱帯雨林のある高江に行き、ヘリパッド建設を阻止しようと試みました。

 −日本に来て感じることは。

 米国の非営利団体「ナショナル・プリオリティーズ・プロジェクト」によると、昨年の米国の大統領予算案のうち、全体の半分以上を占めるのが国防予算で、54%、六千二百五十二億ドル。そしてその次が、退役軍人省への資金、つまり退役軍人の治療やリハビリ、再就職訓練などに充てられる予算で七百五億ドルにのぼり、合わせた戦争関連経費は60%になります。一方、農業・食料の比率はわずか1%で、交通などのインフラが2%、教育はわずか6%です。米国は、教育関係費の十倍を軍事に注いでいるのです。

 自分も含め、初めて日本をみたベテランズの他のメンバーは、日本の駅構内のトイレに設置されている温水洗浄便座や、奇麗に整備されている新幹線、舗装された地方の道路をみては「軍隊に金をかけない国のインフラはこんなに素晴らしいものか」と終始、感嘆の声をあげていました。

 −日本の自衛隊が現在、南スーダンに派遣されています。

 戦争によって全てが悪化する、ということを皆さんと共有したい。南スーダンに派遣されている自衛隊が駆け付け警護で、武器の使用を許されました。自分の経験から、駆け付け警護は、必ず流血事件に発展する。日本の国連平和維持活動(PKO)五原則の一つである、停戦合意が破られている状態で自衛隊を行かせており、問題です。

 −改憲論議が進む、日本へのメッセージをお願いします。

 日本の憲法九条はさんぜんと輝く平和の星です。心配しているのは、日本が憲法九条を変えることで、皆さん、そしてお子さんやお孫さんが戦争に引きずられていくのではないかということ。日本は米国の帝国主義、排外主義に倣うべきではないのです。皆さんがお持ちの憲法九条は、本当に素晴らしい大切なものです。九条を持っていることを大事にしてほしい。九条を軸に、国際的なつながりから平和的なアプローチをしてほしい。九条を持つ日本は、他の国に対し、平和のリーダーのお手本になれるはずです。

 敬愛するマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は、「暗闇は暗闇を追い出すことはできない。光だけが克服できる」と言っています。暴力では決して平和に到達することはできません。武力を使っては無理なのです。平和のためには平和で応じるしかないのです。そのことを忘れないでほしい。

 <マイク・ヘインズ> 1976年2月生まれ。米ジョージア州マリエッタ出身。94年に高校を卒業後、米海兵隊に入隊。95年、沖縄の米軍基地で11カ月、海兵隊航空団の通信員として勤務。2002年、ジブチで特殊部隊員として狙撃や車両急襲などの特殊訓練を受け、03年5月から3カ月間、占領軍の特殊部隊員としてイラクに赴任、04年3月に退役。退役後に軍の奨学金を受け、09年、サンディエゴ州立大を卒業。14年から約8000人いる「ベテランズ・フォー・ピース」に入り、現在、サンディエゴ支部の執行委員。自宅で、水耕栽培でトマトやセロリなど野菜を育て、自給自足の生活を心がけている。元妻との間に14歳の一人娘。

◆インタビューを終えて

 マイクさんは私と同世代。特殊訓練を除くと実戦的な経験はイラクでの三カ月間だけだが、心に負った傷を癒やすのに「十年かかった」という。そして「まだ口に出せないことがたくさんある」と言葉少なに語る。正常な人間の精神を戦地では保てない、そして、一度失われた心を取り戻すには、果てしない時間がかかる。

 「政治家は、人々の恐れや恐怖心を利用し、他の考えを植え付ける。『こちらも、あちらも危ないぞ』と。でも本当にそうか。人類は、軍備によらない平和の道こそ模索すべきだ」。マイクさんの思いが痛いほど伝わってきた。

 (望月衣塑子)

 

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