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あの人に迫る

玉木幸則 脳性まひの障害者支援センター長

写真・横田信哉

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◆皆で生きる工夫 共感して考えて

 相模原市の神奈川県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」で十九人が殺害された事件から半年。戦慄(せんりつ)が走った事件も時間の経過とともに風化が進むのか。障害者の自立支援活動を長年続け、NHK Eテレの福祉番組「バリバラ」に出演する脳性まひの玉木幸則さん(48)に、障害者が地域で共に暮らせるように「今、必要なこと」を聞いた。

 −事件を知ったとき、どう感じましたか。

 寝起きで最初はよく分からなかったんやけど、だんだん意識が覚醒してきました。「ごっついことが起きた、怖い…」。心がざわざわしました。まず「すぐにバリバラで反応しないとあかん」と思いました。なぜなら、容疑者の「障害者なんていなくなればいい」という言葉がマスコミで連呼されたから。障害者の人がどんな気持ちになるか。いなくなっていい人なんていない。加害者の感情ばかり報道して、恐怖感をあおった。ディレクターに連絡をして、その週末に急きょ番組を収録しました。

 −バリバラの緊急座談会に、視聴者の反応は。

 五百通を超える手紙の中で、障害者と健常者両方から「容疑者の気持ちに共感できる」という意見が寄せられました。全体に比べると少なかったが、十や二十ではない。手紙で何を言うてるかというと、コストです。「障害者は働けないが、生きていくためにはどれだけお金がいるんや。それを考えると無駄なお金を使っているんじゃないか」ということでした。突き詰めて考えると、誰もが不安を抱えているんやと思います。年金給付は減り、非正規雇用は増え、障害のない人も、気持ちのどこかで「自分も切り捨てられるかもしれない」という感覚を持っている。だから容疑者の言葉に共感するんやないかな。

 −亡くなった十九人の実名が公表されなかったことを、どう考えますか。

 僕は実名報道に意味はないと思っています。障害のない人が殺された時でも、遺族からしたら「言わんとってくれ」「何で名前を出さなあかんの」と思っているはず。でも、そのまま名前が報道されてしまう。ところが、障害者が犠牲になった今回の事件は、遺族が「名前を出さないで」と言ったから報道しないということになっている。名前を出してもいい人、あかん人がいる。そこが差別なんやないですか。

 −国やマスコミの対応についてどう思いますか。

 厚生労働省の検討チームは昨年九月、中間報告を発表しました。措置入院後の対応や施設のセキュリティー強化について言及しています。しかし、四月に施行された障害者差別解消法には「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会の実現に資する」と書いてある。共生を唱えながら警備を目的に隔離を強化する厚労省の報告は矛盾している。ここにマスコミは突っ込んだか。突っ込めば何かが変わるかもしれないのに、しない。僕はイライラします。

 −二十年以上障害者の自立支援に関わり、NPO法人「メインストリーム協会」(兵庫県西宮市)では、お金の管理や電車の乗り方などを体験するプログラムを実践しました。

 自立支援にはごっついこと関わりました。実際に施設を出て地域で暮らすようになった人は三十人くらい。反対勢力は強いです。まず、アパートが借りられない。差別ですよね。先日、「とある高級住宅地に障害者のグループホームを建てようとしたら、『地価が下がる』と地元で反対運動が起こった」と聞きました。こんな話を普通にふっかけられるんですよ。

 どうして多くの障害者が一つの施設で生活せなあかんのか。今回の「津久井やまゆり園」は、親御さんの希望ということで建て替えるが、六十億〜八十億円かかると言われています。でも、それだけあれば一人暮らしの家やグループホームはいくつできるのか。

 −「障害者が地域で生活する社会の実現」には何が必要ですか。

 三年前、バリバラの企画で障害のある小学生の女の子三人が「初めてのお使い」に挑戦しました。親は口をそろえて「うちの子は誘惑に弱いからできない」とか「知らない人と話せないからできない」と言っていた。でも、三人ともお使いができました。子どもは、親が買い物する様子を見て覚えます。自分で、間違えながら学ぶんです。障害者の親や教諭は、「この子はまだ買い物は早い」と値踏みをする。そのまま大人になり、「買い物ができない人」になる。でも、本当の言い方は「買い物をしてこなかった人」です。できるはずのことを値踏みされ、免除され、放置される。その人の持つ力を奪っている。

 電車に乗るときはICカードをぴっとタッチすればいい。お金の計算ができないなら、できないなりの工夫をすればいい。どんな人でも一緒に生きられる工夫を積み重ねることが、障害者差別解消法でいう「合理的配慮」(障害者のニーズに応じて、負担にならない程度で手助けをすること)なんやないか。その大切さを伝え続けたい。

 −今、必要なことは何だと思いますか。

 教育です。性教育はあるけど、命がどれだけ大切かは教わっていない。どんな人にも役割がある。おなかの中にいる赤ちゃんから、百歳まで生きている人まで。全ての人に役割があり、生きていてほしいと思える感情を育まないといけない。それができる人間が必要です。マスコミは、定期的に伝え続ける役割を担ってほしい。考え続けなければいけないことで、正解も間違いもない。人の尊厳に関わること。何回も皆で考える時間が必要なんです。

 −障害者の自立支援に全力を尽くす原動力は。

 四歳の時、肢体不自由児療育施設に入れられた時の感覚やと思います。親に会える面会日は月二回。「他の子はお父さんやお母さんとご飯を食べたりお風呂に入ったりしているのに、どうして僕だけここにおらなあかんの?」と思いました。もうひとつは、十四年前に父が脳梗塞で倒れたこと。七カ月がたち、病院から移らなあかん時に、母が「施設に入れようかな」と言いました。僕はそれがきつくて。当時、僕は離れて住んでいて、負担は母にかかる。「施設」と言う母を押し切れず、施設の順番待ちを始めました。父は施設に入る前に病院で亡くなった。

 講演で「何が何でも地域で」と言うときながら、親には施設を選んだ。正直、この仕事を辞めなあかんかなと思うところまで、自分の中で追い込まれました。だから、ずっと反省です。「地域で生きることをもっと伝え続けよう」という思いが増しました。

 生きている以上、誰もが楽しく幸せに生きたい。でも、しんどいこと、言いたいこと、苦しいことはいっぱいある。それを少しでも取り除くために社会保障や医療がある。「今、その人がどんな気持ちなんや」「自分だったらどうやろか」と考えて共感して、「しんどいけど最後まで生きていこうね」というメッセージを送り続けなければいけない。その人がどんな生き方をしたいか、自分に置き換えて考えて、行動する大切さを伝え続けたい。

◆あなたに伝えたい

「自分も切り捨てられるかもしれない」という感覚を持っている。だから容疑者の言葉に共感するんやないかな。

 <たまき・ゆきのり> 1968年生まれ、兵庫県姫路市出身。脳性まひで手足と言語に障害がある。4歳で肢体不自由児療育施設に入所。小中学校は通常学級に通ったが、高校は特別支援学校で過ごした。91年に日本福祉大(愛知県美浜町)を卒業し、92〜2012年に障害者の自立を支援するNPO法人「メインストリーム協会」(兵庫県西宮市)で活動。09年からNHK教育の福祉番組「きらっといきる」、12年からは後継番組のEテレ「バリバラ」に出演。13年4月から「障害者総合相談支援センターにしのみや」(西宮市)でセンター長を務め、全国各地で年間60本の講演をこなす。西宮市在住。妻、大学1年の長男、高校1年の長女との4人暮らし。

◆インタビューを終えて

 玉木さんのくしゃっとした笑顔が大好きだ。しかし、今回の取材では悲しみと憤りが入り交じった表情が脳裏に焼きついた。「自分がやまゆり園にいたらどう思うか、考えてほしい」。玉木さんは身を乗り出して訴えた。

 「大西さんはどう思いますか」。取材中に数回聞かれて焦った。事件に対して、自分の気持ちに整理が付いていないことがよく分かった。

 「生きている限り、全ての人に役割がある」。玉木さんが穏やかな口調で紡いだこの言葉が、自分の答えに近いのかもしれない。記者として、一人の人間として、筆者もこのメッセージを伝え続けようと思う。(大西里奈)

 

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